感謝する~松下幸之助「人を育てる心得」
2015年11月28日更新

指導者は何ごとに対しても深い感謝報恩の念をもたねばならない
親鸞聖人は、われわれはまことに立派な人だと考えているが、自分自身では"愚禿(ぐとく)親鸞"などと呼び、自分はいわゆる煩悩も愛欲も断ち切れない、どうしようもない人間だとしている。しかし、そうした人間でも、阿弥陀様の本願というか、大きな慈悲によってすべて救われるのだ、だから、それに対して南無阿弥陀仏の名号(みょうごう)を唱え、心からなる感謝報恩の念を捧げることが大切だと教えているということである。
この感謝報恩の心をもつということは、人間にとってきわめて大事なことである。いうまでもないことだが、人間は自分一人の力で生きているのではない。いわゆる天地自然の恵みというか、人間生活に欠かすことのできないさまざまな物資が自然から与えられているのである。また多くの人びとの物心両面にわたる労作というものがあって、はじめて自分の生活なり仕事というものが存在し得るのである。いいかえれば、自然の恵み、他の人びとの働きによって、自分が生きているわけである。
そういうことを知って、そこに深い感謝と喜びを味わい、そしてさらに、そうした自然の恵み、人びとの恩に対して報いていくという気持ちをもつことが大切だと思う。そういう心からは、いわば無限の活力とでもいうものが湧き起こってこよう。それが事をなしていく上で非常に大きな力となってくると思う。
また、感謝の心はものの価値を高めることになる。一つのものをもらっても、何だつまらない、と思えば、その価値はきわめて低いことになってしまうが、ありがたいという気持ちでいれば、それだけ高い価値が見出せ、よりよく活用できることにもなろう。だから、"猫に小判"というが、反対に感謝の心は、鉄をも金に変えるほどのものだと思う。
感謝の気持ちがうすければ、何ごとによらず不平不満が起こり、みずからの心も暗くし、他をも傷つけることになる。それに対して、感謝報恩の念のあつい人には、すべてが喜びとなり、心も明るく、また他とも調和し、共存共栄といった姿を生み出しやすい。
そういうことを考えてみると、感謝報恩の心は人間にとっていちばん大切な心がまえであり、したがって特に指導者はこの念を強くもたなくてはならないといえよう。指導者の人びとがみなこの気持ちを強くする時、真に物心ともにゆたかな社会が生まれてくると思うのである。
【出典】PHPビジネス新書『指導者の条件』(





































































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