目標を与える~松下幸之助「人を育てる心得」
2016年1月16日更新

指導者は次つぎに適切な目標を与えなくてはならない
1969年7月20日、三人の飛行士を乗せたアメリカの宇宙船アポロ十一号は、月への着陸に成功、人間ははじめて月面に足跡を印したのであった。こうした人間の月到達というようなことは、ついしばらく前まではいわば夢物語としか考えられなかったことである。それが実現したことは、アメリカを中心とした非常に多くの科学者、その他の人びとの苦心の結晶だといえよう。
しかしここで見落としてはならないのは、こうした一連のアポロ計画は、1961年に当時のケネディ大統領が、「六〇年代の終わりまでに、アメリカは人間を月に着陸させる」と発表したことからスタートしたということである。つまり、ケネディが人間の月着陸という目標を示したことにより、多くの人の知恵と力がその目標に向かって結集され、アポロ十一号の成功となって実を結んだわけである。ここが非常に大事なところだと思う。
すなわち、指導者にとって必要なことは、一つの目標を与えることである。指導者自身は別にそのことに対する知識とか技能といったものはもっていなくてもいい。ケネディとて、宇宙衛星に関する科学的な知識や技術をもっていたわけではないと思う。そういうものは、それぞれの専門家を使えばいいのである。しかし、目標を与えるのは指導者の仕事である。その仕事は他のだれかがやってくれるわけではない。指導者みずからやらなくてはならない。もちろん、その目標自体が適切なものでなくてはならないのは当然である。だからそのためには、指導者はそういう目標を生むような哲学、見識というものを日ごろから養わなくてはならない。
目標が与えられれば、その目標に対して、知恵ある人は知恵を、技能ある人は技能をといったように、それぞれの人がもてるものを提供してくれる。だから人びとの知恵と力とが結集され、月着陸という偉業も達成されるわけである。けれども、目標が示されなければ、いかにすぐれたものをもった人びとがいても、それをどのように発揮したらいいかがはっきりしないから、みなの働きがバラバラになって、大きな力とはなり得ない。
だから指導者は、自分の哲学なり体験に基づいて、その時どきに応じた適切な目標というものを次つぎと与えることが必要である。いささか極端にいえば、指導者はそのことさえ的確にやっていれば、あとは寝ていてもいいといってもいいほどである。まず目標を与えること、それを指導者は忘れてはならないと思う。





































































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