スティーブ・ジョブズ「即戦力になるような人材なんて存在しない。だから育てるんだ」~名経営者の人材育成
2016年1月27日更新
今回はアップル創業者・スティーブ・ジョブズの言葉をご紹介します。
スティーブ・ジョブズは暴君なのか
2011年10月、56歳の若さで亡くなったスティーブ・ジョブズ(アップル創業者)。雑誌『フォーチュン』によって「過去10年間で最も優秀な経営者」に選ばれた人物であり、いくつもの業界で革命を起こした「最高のイノベーター」の一人だが、一方でAクラス以外の人材は平気で切り捨て、かつ「週90時間」もの労働を強いたことで「暴君」と恐れられた人物でもある。
にもかかわらず、ジョブズの下で働きたいとたくさんの才能ある人間が集まってくるのには理由がある。iPodの開発を担当したジョン・ルビンシュタインによると、ジョブズは「いつも僕のハードルを上げてくれる」存在であり、「自分一人じゃやれないと思っていたことができる」ようにしてくれる存在だという。
社内で余計な軋轢を避けたいなら、社員がつくった「そこそこ」の成果をそのまま受け入れる方がいい。余計な口出しをして、社員がへそを曲げたり、厄介ごとに巻き込まれるぐらいなら「そこそこ」の仕事でも「よくやった」と言っていればいい。ところが、ジョブズは「本当にいいもの以外には常に口を出し続ける」という何とも厄介な上司だった。
「時間がない」といった言い訳にも耳を貸すことはない。結局は無茶な要求にも「オーケー」と返事をして、何とかしようとがんばるのがアップルだ。なぜそんな無茶ばかり言うのか。その理由をジョブズはこう話している。
「人が優れた仕事をできないのは、彼らがそう期待されていないからだ。誰も本気で彼らの頑張りを期待していないし、『これがここのやり方なんだ』と言ってくれる人もいない。でも、そのおぜん立てさえしてやれば、みんな自分で思ってた限界を上回る仕事ができるんだよ。歴史に残るような、本当に素晴らしい仕事がね」
「即戦力になるような人材なんて存在しない。だから育てるんだ」
ジョブズはAクラスの人材が大好きだが、ジョブズの言うAクラスは世間が考えるいい大学を出ているとか、大企業で働いた経験があるという意味ではない。初期のアップルでマッキントッシュの開発を担当したメンバーの中には大学も出ていない、修理工上がりの人間もいたほどだ。そんな若いメンバーに無茶な要求を突き付けながらつくり上げたのが「世界を変えた」と言われるマッキントッシュである。
いわゆるAクラスの人材を集めたからといってアップルのようなイノベーションが起こせるわけではない。すぐれた仕事をするためにはジョブズのようにすぐれた人材に本気で頑張りを期待して、「そこそこ」の仕事に「ノー」を突きつける勇気が欠かせない。ジョブズはこんなことも言っている。
「即戦力になるような人材なんて存在しない。だから育てるんだ」
どんなにすぐれた人材もそれだけでは「即戦力」にはなり得ない。本気で頑張りを期待して、その能力を限界まで引き出そうとするリーダーがいて初めてすぐれた人材は即戦力になることができる。
今の時代、企業の採用は「即戦力」志向が強まっているが、採用でできるのは「すぐれた人材」を採ることだけであり、その人を本物の「即戦力」にできるかどうかはリーダーや管理職の「育てる」力次第なのではないだろうか。
参考文献
『スティーブ・ジョブズ名語録』(桑原晃弥著、PHP文庫)、『iPodは何を変えたのか?』(スティーヴン・レヴィ著、上浦倫人訳、ソフトバンククリエイティブ刊)
桑原晃弥(くわばら・てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)、『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(PHPビジネス新書)などの制作を主導した。
著書に『スティーブ・ジョブズ全発言』『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』(以上、PHPビジネス新書)、『スティーブ・ジョブズ名語録』『サッカー名監督のすごい言葉』(以上、PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の遺言』『天才イーロン・マスク 銀河一の戦略』(以上、経済界新書)、『ジェフ・ベゾス アマゾンをつくった仕事術』(講談社)、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)などがある。