適材適所~松下幸之助「人を育てる心得」
2016年3月20日更新

指導者はそれぞれの人の持ち味を考えて用いることが大切である
徳川八代将軍吉宗は、いわゆる享保の改革によって、乱れかけていた社会を正し、家康の再来とも、徳川幕府中興の祖ともいわれた名君である。吉宗は、非常に思い切って人材を抜擢した。有名な江戸町奉行大岡越前守もその一人で、彼が伊勢山田奉行だった時、その裁きがまことに公明正大だったのを、当時紀州藩主だった吉宗が見ており、将軍就任と同時に登用したということである。
もっとも、吉宗以前の将軍も、たとえば五代綱吉における柳沢吉保のように、人材をとり立てていないわけではない。しかし、それはどちらかというと、ごく一部の人を"寵臣"というかたちで重用した傾向があるようで、その点吉宗の場合は、大岡越前守にかぎらず多くの人材をすべて人物本位、能力本位に登用しているところに大きなちがいがあるといわれている。いわゆる適材適所を心がけたわけで、それが吉宗の政治を封建時代にあって非常に新鮮なものにし、また成果も多いものにしているのだと思う。
人間は一人ひとり精神的にも肉体的にもみなちがっている。それぞれにちがった才能、異なった持ち味をもっている。だから、そのそれぞれに適したところにつけることによって、その人の持ち味が生かされ、その力がいちばんよく発揮されることになる。そういう意味で、適材適所は、その人を生かし、幸せにすることになるわけだが、それだけではない。適材が適所につくことによって、その職責が最もよく果たされるから、それは他の人びと、ひいては全体としてもプラスになるのである。いってみれば、大岡越前守が江戸町奉行になったことにより、彼自身も生かされ、また江戸の人びとも非常な恩恵を受けたわけである。
だから、適材適所によって、自他ともの幸せが生まれてくるともいえよう。したがって、指導者は人を用いるにあたっては、それぞれの人の持ち味というものを十分に考え、適材適所をつねに心がけなくてはならない。
それとともにまた、指導者みずからがはたして適材であるかどうか、自分より以上の適材はないかということもたえず自問自答しなくてはならない。一兵卒が適材適所を欠いたとしても影響するところは小さいが、大将が適材でなかったら、これは全軍の敗退ということになってしまう。そのような意味において、指導者はつねに自他ともの適材適所ということを考えることが大切だといえよう。
【出典】 PHPビジネス新書『指導者の条件』(






































































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