マーク・ザッカーバーグ「僕は仕事を通じて学んでいるんだ」~名経営者の人材育成
2016年4月21日更新
桑原晃弥氏の「名経営者たちの人材育成論に学ぶ」シリーズ。今回はフェイスブックを創業したマーク・ザッカーバーグのエピソードです。
遊びから始まったフェイスブック
マーク・ザッカーバーグがフェイスブックを創業したのは2004年、まだ19歳の時である。ザッカーバーグが通うハーバード大学では毎年、新入生の顔写真を掲載した印刷物「フレッシュマン・レジスター」が作成され、人気を集めていたが、インターネット時代に入り、多くの学生が写真入りのデジタル名簿をつくるように要求していた。
当局はつくることを約束していたし、決して難しい作業ではなかったが、なぜか一向に実現しなかった。そこに登場したのがザッカーバーグである。幼い頃からコンピュータに親しみ、高校時代にはマイクロソフトなどが100万ドルの大金で買収したいと申し出たほどのソフトをつくり上げていたザッカーバーグは「大学にやらせてしまうと2~3年はかかる。僕ならもっといいものがつくれるし、しかも1週間で立ち上げてみせる」と作業に取り掛かり、つくり上げたのがザ・フェイスブック、のちのフェイスブックである。
この時点では早熟の天才ザッカーバーグにとって「遊び」の一つに過ぎなかったが、フェイスブックがハーバード大学だけにとどまらず、全米の大学や高校へと広がっていく中でザッカーバーグは友人たちとフェイスブックを創業、ビジネスへの第一歩を踏み出すことになった。
世界最大のSNSに成長
フェイスブックの成長は素晴らしいものだった。2009年にはマイスペースを抜いて世界最大のSNSとなり、2010年にはユーザー数が5億人を突破と凄まじい成長ぶりだったが、それほどの大企業を率いるのがビジネス経験を持たない20代前半のCEОであることに不安を感じる人も少なくなかった。
実際、ザッカーバーグは自らが早熟の天才であるだけに、「1人の有能なハッカーは10人もしくは20人のエンジニアに匹敵する」と明言、若くて有能な人材をとことん好んだし、スカウトした経営幹部についても入社から10日もすると、「あの新役員には辞めてもらうしかない」と人材の選り好みも激しかった。
そのため、時に社員や役員と激しく対立することもあったが、お金のために会社を売るつもりはないことと、「世界に透明性を」というビジョンにはとことん忠実であり、かつ自らが「勉強中のCEО」であることもよく自覚していた。22歳の頃、こう言っている。
「こんなことを言うと心配するかもしれないが、僕は仕事を通じて学んでいるんだ」
事実、ザッカーバーグは尊敬する経営者と数日間、行動を共にすることで「CEОとしてのありよう」を学んでもいるし、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツといった先人からも多くのことを学んでいる。
上に立つ人間が「学び続ける」という姿勢を見せること
シリコンバレー企業はアップルやグーグル(現アルファベット)でさえ一時期はスカウトしたプロの経営者に経営を委ねているが、そんな中でザッカーバーグは19歳から今日(31歳)に至るまでほぼ一貫してCEОであり続けている。しかも株式公開後の低迷期を脱しフェイスブックを再び成長軌道に乗せたばかりか、2015年末には長女の誕生を機にフェイスブックの株式の99%(当時の時価で450億ドル)を慈善事業に寄付すると発表するなど経営者としても、若き成功者としても優れた手腕を発揮してもいる。
社員に成長を求める以上、経営者や役員、管理職自身も常に学び続け、成長し続けることが求められる。ザッカーバーグがそうであるように上に立つ人間が「学び続ける」という姿勢を見せること、それこそが「人材開発」や「人づくり」において最も大切なことなのではないだろうか。
参考文献 『フェイスブック 若き天才の野望』(デビッド・カークパトリック著、滑川海彦・高橋信夫訳、日経BP社)、『マーク・ザッカーバーグ史上最速の仕事術』(桑原晃弥著、ソフトバンククリエイティブ)、『世界の大富豪が実践している成功の哲学』(桑原晃弥著、PHP研究所)
桑原晃弥(くわばら・てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)、『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(PHPビジネス新書)などの制作を主導した。
著書に『スティーブ・ジョブズ全発言』『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』(以上、PHPビジネス新書)、『スティーブ・ジョブズ名語録』『サッカー名監督のすごい言葉』(以上、PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の遺言』『天才イーロン・マスク 銀河一の戦略』(以上、経済界新書)、『ジェフ・ベゾス アマゾンをつくった仕事術』(講談社)、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)などがある。