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サクセッションプランとは? 目的や作り方を成功事例とともに解説

2023年3月29日更新

サクセッションプランとは? 目的や作り方を成功事例とともに解説

人材育成や後任登用に代わる手法として、サクセッションプランの導入が増えています。今回は、サクセッションプランの概要や実施目的、導入ステップ、企業事例などを解説します。

INDEX

サクセッションプランとは? 定義と目的

サクセッションプランは、事業を継承する後継者や次世代を担う幹部を育成するための計画です。安定した経営を継続するには、経営に関わる事業継承者や経営幹部の育成が欠かせません。日本では特に中小企業において後継者不足が深刻な問題となっています。事業の継続と持続的成長を担保するため、サクセッションプランは今後ますます注目を集めるでしょう。

サクセッションプランの始まりは、1950年代に米国で実施された計画的な後継者の育成です。日本では、2015年に東京証券取引所がコーポレート・ガバナンスコードを策定し、「CEO等の後継者計画の監督」に関連する項目を設けたことで、サクセッションプランの重要性が再認識されました。

国際規格を策定する国際標準化機構が2018年に公開した人的資本の情報開示に関するガイドライン「ISO30414」には、Succession planningの項目が設けられています。この項目が設けられたことにより、サクセッションプランの状況を開示する企業が増えているのが現状です。サクセッションプランの定義や目的を詳しく確認していきましょう。

サクセッションプランの定義

サクセッション(succession)は日本語で「継承」「相続」、プラン(plan)は「計画」という意味です。サクセッションプランの対象者には中小企業を継承する後継者だけではなく、大企業の幹部候補生も含まれます。サクセッションプランは後継者を広義で解釈しており、幹部人材の育成と、その育成計画の実行施策全体と定義されているのです。

サクセッションプランの目的は、企業の持続的な成長

サクセッションプランの目的は、後継者を計画的に育成して持続的に企業を成長させることです。企業を成長させるには、高い経営能力を持つ幹部後継者を確保しなければいけません。後継者の育成を怠ると、経営に関する知識やスキルの不足した人材が重要なポジションを担うというリスクが発生します。

変化が激しい時代において、企業が持続可能な成長を実現するためには、迅速かつ確実な経営判断が求められるのは間違いありません。場合によっては企業の成長が見込めなくなるばかりか、存続リスクが高まってしまいます。このようなリスクを回避するため、サクセッションプランを導入する必要があるのです。

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サクセッションプランのメリットと課題

サクセッションプランのメリットと課題

サクセッションプランには、後継者や幹部候補を育成することによって組織全体が活性化されるメリットがあります。良い面ばかりに目がいきがちですが、長期的に運用コストがかかるという課題があるのも事実です。メリットだけではなく課題を認識してサクセッションプランの導入を進めることが求められます。

メリット:企業の存続リスクを軽減、組織全体が活性化される

サクセッションプランには、経営に関する知識やスキルをもつ後継者が不足するといった存続リスクを軽減できるメリットがあります。それ以外にも、組織全体が活性化される効果が期待できるのです。サクセッションプランでは、育成計画をもとに中長期的な人材育成をおこなうため、優秀な人材の定着とモチベーション向上につながり、組織全体が活性化されます。

後継者として、必ず社内の人材を育成しなければいけないわけではありません。優秀な人材を外部から登用して、企業成長に貢献してもらう方法もあります。しかし外部登用ではなく、経営理念を体現できる人材を社内から抜擢すれば、事業ビジョンや社風を維持できます。既存の社員が安心して働ける環境を整えられるのも、社内で人材を育成するメリットでしょう。

課題:運用に長期的なコストがかかる

サクセッションプランの課題には、長期的な運用費用がかかることが挙げられます。経営に関する知識やスキルは簡単に習得できるものではないため、数年~数十年かかる長期プロジェクトとして運用することが必要です。しかも、育成計画を実行した候補者が途中で辞退や退職するリスクも想定しておく必要があります。

候補者が途中で辞退や退職した場合、人材の選出からやり直さなければいけません。候補者が途中で辞退したり退職したりするのは、ポジションに対するプレッシャーを感じたり、今後のキャリアプランを見直したりなど原因はさまざまです。これまでに費やした時間的かつ金銭的なコストが無駄になるため、候補者の選出や育成計画は慎重に進めなければいけません。

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サクセッションプランと従来の人材育成の違い

サクセッションプランと似た言葉に人材育成があります。人材育成とは、社員を企業の成長や発展に貢献できる人材に育成することです。人材育成によって社員一人ひとりのパフォーマンスを向上できるため、企業の業績や生産性の向上が見込めます。人材育成の手法にはOJTやOff-JT 、自己啓発などがあり、教育機会を設けて育成をおこなうのが特徴です。

サクセッションプランと人材育成は、教育対象に違いがあります。前述のように、サクセッションプランの対象は一般的には後継者や経営幹部ですが、人材育成は全社員を対象にします。また、教育を担当する人にも違いがあります。人材育成では、人事教育部門や講師、上司・先輩社員が育成に関わりますが、サクセッションプランでは、経営者が積極的に育成に関わることがあります。

育成に必要とされる期間にも違いがあります。サクセッションプランは数年~数十年かけて実施されますが、人材育成における階層別教育などは、短期間に集中して教育研修が行われることが多いようです。

サクセッションプランと後任登用の違い

後任登用は、直属の部下や、該当のポジションに近い年次の社員から後任の候補者を選ぶことです。一方、サクセッションプランでは、企業の経営理念や戦略に照らして、全社から将来の経営層としてふわさしい候補者を選びます。

サクセッションプランでは、該当ポジションに近い社員が選ばれるとは限らないため、後任登用に比べて引き継ぎ期間が長くなる場合があります。

サクセッションプラン導入時の6ステップ

サクセッションプランの一般的な導入ステップは次のとおりです。

ステップ1.ビジョンを明確化し経営戦略を策定する
ステップ2.育成対象となるポジションを洗い出す
ステップ3.具体的な人材要件を決定する
ステップ4.候補者を選出する
ステップ5.候補者ごとに育成計画を作成、実行する
ステップ6.進捗状況に応じて計画を見直す

ステップ1.ビジョンを明確化し経営戦略を策定する

サクセッションプランを導入するにあたって、基礎となる自社の経営戦略やビジョンを明確にすることが求められます。経営戦略とは経営目的や目標を達成するための方針や計画のことで、ビジョンとは企業の将来像を示すものです。
まずは、企業理念や経営戦略、自社製品やサービス、技術、自社を取り巻く経営環境などを分析することから始めます。その際、変化が激しい時代において現在の経営理念や経営戦略を維持するべきなのか、それとも変革するべきなのかといった点を考慮することが必要です。
次世代に必要となる経営戦略やビジョンを分析して明確化すれば、どのような人材が後継者にふさわしいのか、人材を選定するときに役立ちます。また、明示することで後継者が進むべき方向も明確になります。

ステップ2.育成対象となるポジションを洗い出す

継承したい経営戦略や事業領域を明確化したならば、その実現に必要となるポジションを洗い出します。ポジションの洗い出しとは、サクセッションプランの実施においてCEO(最高経営責任者)や役員、部長など、会社経営で重要な役割を担う対象者を決めることです。
たとえば、事業継承が目的なのであれば、次期CEO候補者を対象に育成することが求められます。組織改革を考えている場合、部長クラスを育成の対象としたり、役職の新設を検討したりといったことも必要でしょう。対象となるポジションを決めることにより、選抜基準や育成プログラムの決定もスムーズになります。

ステップ3.具体的な人材要件を決定する

対象ポジションに応じて人材要件を決定します。人材要件とは、企業のビジョンや経営戦略を踏まえて、自社に必要な人物像を明確化したものです。企業が求める継承者を具体的に明確化することにより、候補者を選出する際の軸を決めることができます。
候補者の選出時におけるミスマッチも防げるため、この時点で対象ポジションの人材要件を決めることが大切です。それぞれのポジションに求められる知識やスキル、ノウハウ、マインドセット、コンピテンシーなどの要件を具体的に洗い出します。選抜基準の見える化により、サクセッションプランの候補者選びがスムーズになるでしょう。

ステップ4.候補者を選出する

具体的な人材要件を決定したならば、サクセッションプランの候補者を選出します。サクセッションプランの候補者を選出するうえで重要なのは、キャリアや過去の成果ではなく、企業が求める要件を満たせるかどうかといった対象者の成長の可能性を図ることです。
論文や面接に加え、ディスカッションを実施するなど、多方面から候補者を評価できる試験方式を採用することが求められます。また、経営に対する熱意や性格、周りからの人望、社員に対する思いやりがあるなど、経営者として活躍できる人材であるかどうかを見極めることが重要です。

ステップ5.候補者ごとに育成計画を作成、実行する

サクセッションプランの導入効果を高めるためには、候補者一人ひとりが強化すべき能力や特性に応じて育成計画を作成することが必要です。たとえば、配置転換やジョブローテーションで異なる業務を体験したり、複数部署で管理職を経験したり、視野を広げるために海外に派遣したりなどがあげられます。
また、計画に沿って後継者を育成するために、適切な目標管理も必要です。近年は目標管理方法として、OKR(Objectives and Key Results)が注目されています。
OKRは、組織目標と個人の成果を結びつけて管理するフレームワークです。本来は達成できそうな目標を設定しますが、OKRでは少し高いレベルの目標設定をおこないます。高みを目指すことになるため成長が生まれるのです。

ステップ6.進捗状況に応じて計画を見直す

サクセッションプランでは、中長期的な取り組みが求められます。とはいえ当初の計画に固執するのではなく、ビジネス環境の変化や経営戦略の見直しに応じて柔軟に育成計画を修正していかなければいけません。育成計画を実行したならば、その成果を評価して改善に活かすというように、サクセッションプランではPDCAを回すことが重要なのです。

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大企業におけるサクセッションプラン5つの事例

サクセッションプランを導入した企業の成功事例を参考にするのがおすすめです。大企業5社の事例をご紹介します。開始時期や実施概要など、それぞれの事例について詳しく確認していきましょう。

事例1.花王株式会社

日用品や化粧品を取り扱う大手消費財化学メーカー・花王は、基幹人材を育成するために、人財の定義を以下の3つに分けてサクセションプランを実施しました。

今すぐに後任となれる人財(Ready Now)
現任者が何らかの理由で明日いなくなった場合にでも、即後任として対象役割の基本使命、達成責任を遂行出来る知識、経験、スキル等を有する人財

1~3年で後任として育成する人財(Ready Soon)
現職でのパフォーマンスを勘案し、1~3年のスパンで後任候補として育成する人財。現業務(業務拡大を含む)及び育成プログラムを通じての育成がメイン

3~5年で後任として育成する人財(Mid Team)
3~5年のスパンで対象職責を負うポテンシャルをもち、後任候補として育成する人財。育成プログラム及びローテーションを通じての育成を検討

サクセションプラン対象者は、サクセションプランフォームを作成して基本的な使命や求められる経験や知識を把握します。それぞれの課題達成度は、360度評価などで対象者本人にフィードバックされる仕組みです。上司や同僚、部下のフィードバックにより、対象者本人に気づきを促します。

参考:総務省・地方公共団体における人事評価制度の導入にかかるシンポジウム│先進事例紹介「花王の人財開発」(2015年10月30日)

事例2.日産自動車株式会社

日本を代表する自動車メーカーの日産は、グローバルな主要ポストの発掘と育成のために、2000年に役員で構成する人事委員会(NAC:Nomination Advisory Council)を立ち上げました。情報収集のために、すべての会議に自由参加できるキャリアコーチという役職を5名選出しています。

人的な情報を集められるキャリアコーチが次世代リーダー候補を発掘し、継承者になりえる人材をNACへ提案する仕組みです。NACは国内向けに実施されている施策ですが、国外向けのRDP(Nissan Rotational Development Program)と呼ばれる採用の取り組みも実施しています。

RDPは、ビジネススクールから卒業生を採用して海外の優秀な人材を集めるのが特徴です。採用後は日本で業務を習得し、その知識やノウハウを本国に持ち帰ります。このサクセションプランの実施により、国内外を問わず人材の底上げを図ることに成功しているのです。

参考:厚生労働省 キャリア支援企業表彰2012 好事例集「日産自動車株式会社」

事例3.りそなホールディングス

りそな銀行、埼玉りそな銀行等を傘下に置く金融持株会社・りそなホールディングスは、2015年に役員の選抜や育成を目的として、次世代トップ候補者や新任役員候補者を階層ごとに分けた育成プログラムを策定しました。育成プログラムでは客観的な視点を重視しており、外部コンサルタントから助言を受けられるのが特徴です。育成プログラムに関する評価はすべて指名委員会に報告され、選抜の透明化を図りました。

指名委員会とは、経営陣の選解任を議論するために取締役会のなかに設ける組織のことです。経営陣が人事を自分の裁量で決めず、透明性のある選解任プロセスを担保する役目があります。また、りそな銀行では役員に求められる人材像を明確に定めており、それに基づいて評価しているのも特徴です。

参考:りそなホールディングス りそなのコーポレート・ガバナンス(2017年1月)

事例4.帝人グループ

日本の大手化学メーカーである帝人は、役員候補者を選抜して育成するために、1999年に経営者育成制度「ストレッチ」を設置しました。役員自身に後継者を推薦させ、人事委員会で選抜する対象者を審議するものです。選抜時は経歴が重要視され、海外のビジネス経験や交渉能力が高く評価されます。

また、対象層をSTRETCH I・STRETCH II・SLPの3段階に分けて選抜型の育成プログラムを実施しているのも注目です。3年かけて次世代リーダー候補を育成するサクセションプランで、それぞれの段階に応じた研修を実施しています。ビジネススクールに通わせるなど外部組織もうまく活用し、人材育成につとめているのが帝人グループの特徴です。

参考:2011年 帝人グループ CSR報告書

事例5.TOYOTA

世界的自動車メーカーであるTOYOTAは、1999年に役員や部長クラスの人材育成プログラムとして「GLOBAL21プログラム」を策定しました。経営哲学や幹部への期待の明示や人事管理、育成配置・教育プログラムの3つの軸を用意し、グローバル幹部に見合う能力開発を目的としています。

経営哲学においては、知恵と改善や人間性尊重といった社員に求められる根本的な考え方を共有するために、2001年に策定された「トヨタウェイ 2001」を配布しました。人事管理に関しては、グローバル評価制度を導入しており、評価基準やプロセスを統一しています。

育成配置や教育プログラムでは、地域や機能を問わずグローバルで適切な配置を目指した取り組みを推進しました。具体的には、海外地域本部を含めたすべての本部長を集めて異動や配置、将来の役員候補者の育成について議論する「Global Succession Committee」を開催しています。

参考:TOYOTA「Sustainability Data Book 2018」

まとめ:企業の未来を形成するサクセッションプラン

企業の未来を形成するサクセッションプラン

後継者や幹部候補者を育成するためには、サクセッションプランを導入する企業が増えています。経営の知識やスキルをもつ後継者の不足による存続リスクを軽減できるだけではなく、組織全体が活性化される効果が期待できます。また、日本でも大企業での成功事例が報告されています。

サクセッションプラン導入は、ビジョンを明確化し経営戦略を策定する、育成対象となるポジションを洗い出す、具体的な人材要件を決定するといったステップを踏んで進めていきます。特に、候補者の選出は十分に検討する必要があります。辞退や退職といったリスクも想定されるため、慎重に進めることが求められるでしょう。

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