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松下幸之助「自己観照」から「自社観照」へ~内省する経営者が成功する?

2022年4月12日更新

松下幸之助「自己観照」から「自社観照」へ~内省する経営者が成功する?

松下幸之助の経営のキーワードに「自己観照」「自社観照」があります。経営者自身、そして自社の現状、実力を把握することこそ、企業の存続成長の出発点だというのです。幸之助の実践事例をご紹介します。

※本稿は2022年2月24日に開催した「経営者のための〈良い会〉社塾」プレゼンセミナーにおける渡邊祐介(PHP研究所理念経営研究センター代表)の講義要旨を掲載しています。講義内容全編は、動画をご視聴ください。

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「成長ドライバ理論×松下幸之助
経営者のための〈良い会社〉塾」詳しくはこちら

松下幸之助の「自己観照」

一代で世界的企業を創り上げたパナソニックグループ創業者・松下幸之助の成功が、何によってもたらされたものかを考えるとき、人間の資質という点で、非常に内省する姿勢が強かったことが上げられる。9歳で実業の世界に入り、学校教育をほぼ受けられなかった彼にとって、学びの多くは自分の周りのすべての人や物すべてであった。それは幸之助自身が認め、意識していたことでもある。

なかでも、実業の現場で人の浮き沈みを眺めてきた幸之助にとって、学びとして感じられたのは、自分の力量を見極めているか、そうでないかという問題であった。過信をすれば無理が生じるし、謙虚に過ぎれば挑戦できず、成長もできない。

ただ、理屈では分かったとしても、主観を抑えて客観的に自分を観ることは簡単ではない。そうしたこともあって幸之助は幸之助なりの工夫として、「常に"自己観照"をして、自分というものをよく知るように努めよう」という呼びかけを事あるごとにしていた。

「自己観照をするためには、自分の心をいったん自分の身体から取り出して、遠くに離して眺めてみる必要がある。外から改めて自分というものを見直してみる。そうすると、ここはいいけれど、この点はよくないなといったことが分かってくる。

しかし実際には、自分の心を外へ離して見ることは、なかなか容易ではない。その場合には、他人の力を借りればいい。上司や先輩、あるいは部下や友人に、自分の欠点はどこにあるかを尋ねてみる。そうすれば、他人は自分よりよく見ているもので、自己観照をするのと同じ結果が得られるものだ」。

この発言は1980(昭和55)年の夏、経営幹部を集めた懇談会で述べたものだ。85歳にもなった相談役が主事研修のようなビジネスパーソンとしての基本的な振る舞いを力説している点に、かえって巨大化した組織に対する幸之助の危惧が感じられる。

経営者として大成している人は、元来、自己観照こそ大切だと考え、これを正しく行なって過ちなきを期していこうとしているものだ。それは誤りなく組織を率いていこうという強い志の表れである、と幸之助は言いたかったのではないか。

「自社観照」の実践

一方、このことは、個人に限らず会社に対してもいえることで、常に"自社観照"をし、総合実力の範囲で事業を行わなければならない、と幸之助は考えていた。

会社の場合、自社を表現するものは様々だ。売り上げ、利益、従業員数、組織図等々。それらは紛れもなく会社の実体を示す客観的な事実である。しかし、それらが組織の質や従業員の心の内を示しているとはいえない。自社観照もむずかしいが、自社観照もまた何を知るべきかという問題意識次第でよりむずかしい。

こんなエピソードがある。戦後の復興期、50万本の真空管の月産に成功して、松下電器が当時、真空管メーカーではトップのT社の45万本を上回って日本一となったことがあった。その祝杯をあげているところへ、幸之助がやってきて、担当責任者が呼ばれた。彼は当然、ほめられると思っていた。実際、幸之助はその労に謝意を述べたが次の言葉が続いた。

「きみはT社が真空管をいつからつくっておるのか知っているか」
「もう34、5年になると思います」
「それに対してわが松下の真空管の歴史は何年や」
「まあ4、5年です」
「だとすれば、T社の生産力、技術力と、松下の生産力、技術力とどちらが上や」
「それはもう言うまでもありません」
「そやろ、きみ。早い話、T社がネコだとすれば、松下はネズミや。しかし、きみは今、T社を追い抜いたと得意になって喜んでいる。これは、弱いはずのネズミが、ネコの頭をコツンと叩いているのと同じや。きみ自身が言うように、T社が35年でうちは5年ということは、T社のほうがうちよりはるかに力がある。だからきみのしたことは、世間の常識に反している。ネズミは、ネコには勝てない。T社は必ず手を打ってくる。もし、きみに真の経営的考え方があるならば、T社が100万本の真空管をつくれば、うちは99万9999本、1本差の2位に甘んじるような心の余裕をもつことが大切や。事業というものは、力任せにやればいいというものではない」

そこまで言われてやっと責任者は幸之助の真意を理解した。実際、幸之助の予言通り、T社は翌月から真空管を増産し、日本一を保てたのは、たったひと月だけであったという。

この例のように、経営はときに冷静さを欠き、自分の実力を見誤ることは多分にある。「経営者のための〈良い会社〉塾」は「会社の健康診断」という科学的手法によって会社の実体をつかみ、松下幸之助の事例を丹念に検証して知見を高める。その上で、自社の抱える課題をあぶり出し、適切なアプローチで解決を探るという、画期的な講座である。

個としての自己観照から、むずかしい自社観照を実践できる。自社の何が課題かが分からない、自分も何から手をつけていいのか分からないという、経営者の悩みに確実にお応えできるものとして受講をお奨めしたい。

【動画】「自己観照」から「自社観照」へ

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