部下のじゃまをしない~松下幸之助「人を育てる心得」
2017年8月29日更新
人間というものは、もともと働きたい、人のために役立ちたいという気持ちをもっているものです。「君は、仕事をせんで遊んでおったらいい」と言われたら、一時的には喜ぶ人もあるでしょうが、時間がたてば、たいていは困ってきます。
そういう人間本来の性質を思うとき、私は部下に大いに働いてもらうコツの一つは、部下が働こうとするのを、じゃましないようにするということだと思います。もともと働こうと思っているのに、それに水をさすようなことを言われれば、部下としては面白くありません。「きょう一日、休んでやろうか」といったことになってしまいます。
私は、社員の人たちが一生懸命働いているのを、できるかぎりじゃましないよう心がけてきました。しかし、それでは注意も何もしないのかというと、そうではありません。責任者として言わなければならないことは、ちゃんと言うように努めてきましたが、その際に、働くのをじゃまするような言い方をしないよう気をつけたわけです。
よく、「あの人のもとだと、なんとなしに働きやすい」とか、「あの人は自分をよく理解してくれる」といったことが言われますが、それは結局、じゃまをしないからだと思います。ところが実際には、部下に一生懸命働いてもらおうと願いながら、そのなすところが、かえってじゃまをしている場合が少なくないのです。
このじゃまをしないということは、いいかえれば、その人を信頼して任せることを基本とすることだと思います。もちろんお互いに神様ではありませんから、部下を100パーセント信じて任せるということは、なかなかできることではありません。60パーセントは大丈夫だと思うけれど、あとの40パーセントはどうか分からんという危惧の念が生ずることもあるでしょう。しかし、そういう場合でも、60パーセント以上の可能性があれば、「君、やってくれよ。君ならできる。頼むわ」ということで任せる。そういう態度を基本にして、その過程で気づいた大事なことは、その人の自主性を尊重しつつ遠慮なく注意する。そうすると、失敗するよりも期待にこたえて成功してくれるほうがはるかに多い。そういうことが私の体験上からもいえるように思うのです。
日ごろ、部下に働いてもらうことに熱心である人ほど、ときに自分が部下の働きをじゃましていないかどうか、省みてみたいものだと思います。
【出典】 PHPビジネス新書『人生心得帖/社員心得帖』(松下幸之助著)