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アクションラーニングとは? 効果や進め方、注意点を解説

2024年3月21日更新

アクションラーニングとは? 効果や進め方、注意点を解説

アクションラーニングは、4~8名のチームを作り、コーチの指導のもと課題の解決方法を見出す研修の一つです。個人の能力開発や組織力の向上に資することから注目が集まっています。今回はアクションラーニングの進め方、注意点、参考になる企業の導入事例などを紹介します。

INDEX

アクションラーニングとは?

人材研修の場面で、アクションラーニングと呼ばれる言葉を耳にする機会が増えているようです。能動的な学習手法を表すアクティブラーニングと字面は似ていますが、別の概念であるため、両者を混同して使わないように注意が必要です。
はじめにアクションラーニングの概要や注目度が高まった背景、アクティブラーニングとの違いを解説します。

アクションラーニングの概要

アクションラーニングとは、目の前の課題に対してチームで議論して解決策を見つけ、個人と組織の問題解決能力を高める手法です。
1930年代、イギリスの物理学者として名高いレグ・レバンス氏が考案したのが始まりです。第二次世界大戦の終わりごろ、鉱山組合のマネジメントを任せられるなかで構想をまとめ、その後、人材育成や高等教育の分野で徐々に普及が進みました。
2000年代に入ると世界アクションラーニング機構(WIAL)が、アクションラーニングに欠かせないコーチの育成に乗り出します。現在では、日立情報通信エンジニアリングやキヤノン株式会社など、国内の大手企業も研修の手法として導入しています。
アクションラーニングは現実の問題を扱うため、参加者は当事者意識を持って取り組む必要があり、モチベーションを高めやすいことが特徴です。

アクションラーニングが注目される背景

アクションラーニングが注目され始めた理由は、テクノロジーの急速な進化で先の読めない不確実な時代(VUCA時代)が到来したためです。組織が抱える問題も複雑さを増し、従来までのアプローチでは解決が難しいケースも珍しくなくなりました。個人の能力だけに頼るのではなく、組織が一体感を持って取り組まなければ解決しない課題が多く、チーム内でのコミュニケーションの取り方やリーダーシップも今までとは異なる在り方が必要です。
チームと個々の問題解決能力のどちらも伸ばせるアクションラーニングは、新たな時代に適した学習スタイルといえます。

アクティブラーニングとの違い

アクションラーニングは現実の課題をチームで議論する手法ですが、アクティブラーニングは受講者の能動的な学習の実現を目指す研修の方法です。どちらも能動的な学習という共通点はありますが、現実の課題を扱うかどうかという点でアプローチが異なります。
従来の知識の習得を目的とした研修では、講義が多用されるため、講師→受講者の一方向の学習スタイルになりがちです。講義を聞く、本を読むといった学習に対し、グループディスカッションやディベート、ワークショップといったアクティブラーニングは、学習の定着率が格段に高いことがわかっています。研修における学びの定着を促し、効果的に実践力を伸ばすために、アクティブラーニングは、大手企業の研修や教育現場でもとり入れられています。

アクションラーニングによる効果やメリット

アクションラーニングは組織と個人、双方にメリットをもたらす有意義な学習手法です。現場で使える従業員の実践的なスキルを伸ばせるほか、主体的に解決策を見つけて問題を乗り越える強い組織へと成長できます。
ここでは、アクションラーニングが企業に及ぼす影響を具体的に紹介します。

組織力が向上する

チームで議論を交わしながら問題の解決を目指す過程で、組織力の向上が期待できます。チームワークが醸成されるため、一人では解決策が見つからない難題でも壁を乗り越えられるようになります。
研修の受講後は、チーム内におけるコミュニケーションの活性化や団結力の向上などの効果を実感できるでしょう。組織力が高まるのは、小規模なグループによる議論や実行、リフレクションが行われるアクションラーニングならではの利点です。
組織の問題解決力が向上すれば、過去に出くわしたことがない未知の問題が発生した場合でも、培った思考力を発揮して解決の方法を見つけられます。
アクションラーニングを進める際に重要なキーワードとなるのは「学習する組織」です。現実の問題を題材として行動を起こし、内省を繰り返し、学習を深めるための活動です。各メンバーが既存の知識や経験に満足せず、問題解決に役立つ技術や思考を貪欲に吸収するため、組織としての力が底上げされます。

個人の能力向上につながる

アクションラーニングはチームを構成する個人の理解力や思考力、学習能力、問題解決能力をも伸ばす手法です。現実的で業務と近い観点からディスカッションが行われるため、従業員の能力開発に適しています。
根本の原因を見出す分析力や独自の解決策を出すアイデア力、議論を前に進める質問力や傾聴力も伸ばすことが可能です。アクションラーニングを通じて、チームで合意に至った解決策が現実に採用されれば、仕事のモチベーションも高まるでしょう。
チームで効果的な議論を実現するには、舵取り役やまとめ役となるリーダーの存在が必要です。アクションラーニングを行えば、経営陣や幹部を目指すうえで不可欠な、リーダーシップやメンバーたちと良好な関係を築くコミュニケーション力も身につきます。

企業が抱える問題・課題解決が期待できる

議論の対象は自社が実際に抱える課題となるため、既存の枠組みでは思いつかない新たな問題解決の手法が見つかるかもしれません。
個人や組織の能力開発を推し進めつつ、多様な視点から議論を交わすことで、企業が直面している問題の解決を目指せるのもアクションラーニングの魅力です。
自社が抱える議題を取り上げるというルールがあるため、経営会議で決まった対策よりも、優れたアイデアが出る可能性もゼロではありません。
このように思わぬ副産物が期待できるのも、ビジネスシーンでの注目が高まりつつある理由の一つであるといえます。

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アクションラーニングの基本的な2つのルール

アクションラーニングには「質問中心で進める」「コーチはいつでもセッション(議論)に介入できる」という2つの基本的なルールが存在します。取り組む際は、事前に前提条件を確認し、参加者間で共有することが大切です。

セッションは質問中心で進める

アクションラーニングのセッションは質問中心で進められ、基本的には議論中に意見を述べられるのは他メンバーからの問いに答える時のみです。発言の機会に制限をもたせる理由は、特定の人物が多くのオピニオンを出してその場を支配してしまう事態を避けるためです。
全員に質問を義務付ければ、メンバーがまんべんなく意見を表明できるうえに、建設的な話し合いで重要な傾聴力や内省力も伸ばせます。
アクションラーニングでは問題解決に主眼が置かれ、決して個人の表現力や発言力を高める場ではありません。対話を通して効果的な対策につなげるには、意見の表明と傾聴のバランスが重要です。
メンバー全員が問題解決能力を伸ばし、チームを底上げするには、質問中心の原則を導入しなければいけません。

コーチはセッションにいつでも介入できる

アクションラーニングではセッションをリードするコーチ役が1名置かれます。コーチは要点のまとめや時間管理を担い、議論が停滞した時は、サポートのために積極的にセッションへ介入します。
コーチから質問を投げかけられたら、メンバーは話し合いを中断して誠実に回答する義務を負うことも特徴です。
アクションラーニングのコーチは本来、課題解決には加わらず、メンバーが主体的に学べる環境作りに全力を注ぎます。しかし、議論がうまく機能していない、チームワークを意識すべきだと感じた時には介入が必要です。
コーチは中立的なポジションでありつつも、いつでもセッションに関与できる大きな裁量を与えられるため、アクションラーニングの成否を分かつ重要な役割といえるでしょう。

アクションラーニングの進め方5ステップ

アクションラーニングの進め方5ステップ

ここでは、アクションラーニングの基本的な進め方を5ステップで紹介します。

1 グループを編成する
2 課題や目標を設定する
3 質問を中心に話し合いを進める
4 セッションのリフレクションを行う
5 行動計画を実行に移す

上記のステップで進めることで、効率的な学びの場が実現します。各ステップの具体的な内容や注意点をチェックしましょう。

1.グループを編成する

はじめにセッションの母体となる4~8人程度の小規模なグループを作ります。制限時間内で全員に質問の機会が確保できるほどの人数を意識してチーム分けを行ってください。
グループ分けができたら、アクションラーニングに不可欠なコーチ役を1名ずつ配置します。
コーチは問題解決には関わりませんが、メンバー間では対処できないトラブルや議論の停滞が生じた時に、適宜セッションをコントロールします。

2.課題や目標を設定する

メンバー間で、普段の業務で困っていることや疑問に感じていることを出し合い、課題を設定します。解決策だけではなく、何を話し合うかまで決めることがアクションラーニングの特徴です。
最初に議題が明確にされていれば、途中で話題がずれてしまう事態を防ぐことが可能です。参加者から課題や目標が出ない時は、コーチが各自の業務内容を細分化して「〇〇の業務で不満や悩みはありませんか?」と聞いてみるのも大切です。
問題の設定ができたら、メンバー間で共有し、基本的なルールや進行の流れを確認します。扱うものは実際の業務に関わる事柄であるため、守秘義務に抵触しないことも意識しましょう。

3.質問を中心に話し合いを進める

セッションを開始した後は、メンバー同士で質問を繰り返しながら課題の本質を探ります。基本的にコーチ以外の参加者は、質問に答える場面以外では言葉を発することが認められません。
時間にして1時間以上、質問の仕方を変えたり、特定の回答方法を指定したりしながら課題の深掘りを進めます。メンバーからの質問が少ない場合、コーチが代わりに質問を投げかけるほか、「何か疑問はありませんか?」と参加者に発言を促す役割が求められます。
セッションは長丁場であり、途中で議論が横道に逸れることも珍しくありません。このような場合には話し合いを中断し、課題を再定義することも大切です。

4.セッションのリフレクション

最初に決めた時間になったら、セッションの内容を振り返る5~10分程度のリフレクションを行います。話し合いの大まかな流れや各自のやり取りを思い起こし、成果や反省点、手ごたえを確認します。
リフレクションは、目標の達成に必要な行動計画を決めるために行われます。議論の過程で出た意見を整理し、課題の解決につながる具体的な行動計画を策定しないといけません。
また、セッションで役立ったと感じた点や印象に残った質問を振り返れば、次回以降のリフレクションを有意義な機会にできます。

5.行動計画を実行に移す

アクションラーニングは一度のセッションで終わりにせず、参加したメンバーは策定した行動計画を実行に移さねばなりません。後日再び集まり、行動の結果を振り返る場を設定します。
前提として、各メンバーが迷わずに一つひとつの行動を起こせる、具体性が高いアクションプランの作成が必要です。

アクションラーニングの注意点

企業や従業員にさまざまなメリットを提供するアクションラーニングですが、実行に移す際には注意点が存在します。何も意識しないでフローに沿って進めるだけでは、想定した効果を発揮しないかもしれません。
アクションラーニングの代表的な注意点を2つ解説します。

個人やチームに対する責任追及で終わらせない

実際の課題に取り組む活動のため、個人や組織に対する責任追及に陥る場合があります。たとえば、「リーダーが仕事を抱え込むのが悪い」「企画部がプロジェクトに必要な工数を把握していないからだ」という状況です。
現実には、特定の個人や部署の失態で業務が滞ったのかもしれません。しかし、ミスをした張本人を吊るし上げ非難の対象にしても、次につながる生産的な話し合いにはなりません。
失敗や問題点に焦点を当てず、どうすれば問題を解決できるかポジティブで建設的な話し合いが重要です。個人や部署を責め立てる流れになったら、コーチが積極的に働きかけ、方向修正する必要があります。

アクションラーニングはコーチの存在が重要

アクションラーニングの肝となるコーチは、議論を牽引し、適宜メンバーに働きかけます。彼らが進行管理能力や質問力を発揮できれば、企業が抱える問題の解決と従業員の能力開発に資する質の高いセッションが実現します。
コーチの選定にあたり、高いコミュニケーション力や論理的思考力は不可欠です。社内から抜擢する際は、扱う議題とは直接関係がない第三者が好ましいといえます。
参加者全員が事前に取り決めた理解レベルに達しているか、深掘りが必要な場面で質問を投げかけられるかなど、高度な判断力も求められます。社内に適当な人物が見つからないのであれば、外部コーチの導入も選択肢として考えられるでしょう。

アクションラーニングの導入事例

アクションラーニングの導入事例

最後に、企業におけるアクションラーニングの導入事例をみてみましょう。導入に至った背景やプログラムの概要、振り返りの感想を中心にポイントをご紹介します。

株式会社 日立情報通信エンジニアリング

株式会社日立情報通信エンジニアリングは、日立コンピュータ機器と日立情報通信エンジニアリングが合併して2013年に誕生した会社です。設立当初は統合によるシナジーが発揮されない状況が続きました。
組織がバラバラの状況を何とかしようと、一体感の醸成につながる全社的な施策の推進が決定します。
実現のためには、従業員間の多様性への理解やリソースの共有が重要だと考え、多様なメンバー編成によるアクションラーニングの導入を決断しました。
所属や職位など属性が異なる従業員が集まって情報交換や議論ができる場が実現すれば、ダイバーシティに対する理解促進に役立つと予測したののです。
上記を目指すために取り入れた研修プログラムが、事業部や職位が異なる者同士でグルーピングできるアクションラーニングでした。
参加者からは「自分一人の問題だと思っていたら他の人も同じ悩みを抱えていた」「常識だと考えていた事柄が当たり前ではないと気づかされた」など、価値観の変化が伝わる意見が寄せられています。
多様な視点や価値観への気付きは、一体感の醸成と一本の線でつながるものです。実行に移してみて、当初の目的であった一体感の醸成への効果はあったと感じています。
これらの取り組みは、日本アクションラーニング協会から「エクセレントアワード(優秀プログラム)」の表彰を受けています。アクションラーニングの導入を検討している企業は参考にしたい事例だといえるでしょう。

参考:NPO法人 日本アクションラーニング協会「導入事例」
参考:株式会社 日立情報通信エンジニアリング「NPO法人日本アクションラーニング協会より「エクセレントアワード」を受賞」

キヤノン株式会社

キヤノンは生産性の向上を狙いとした「CKI(Canon Knowledge-intensive staff Innovation)」という課題解決に資するアプローチを取り入れている会社です。マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が唱える『成功の循環』理論をベースに、行動の質・結果の質・関係の質・思考の質を有機的に捉えてチームによる活動を推進。
上記4つのうち「行動の質」と「結果の質」は通常業務のなかで伸ばせる力ですが、残りの2つはカバーしきれません。「関係の質」と「思考の質」を高める有意義なアプローチとしてアクションラーニングの導入を決断します。
キヤノンのCKI活動は、管理職の経験者で構成された専任の組織開発コンサルタント主体で進められます。フィードバックや論点の抽出など、一方的な関わり方に陥らないようなコミュニケーションの取り方を推進してきました。
コンサルタントによるCKI活動を推し進めるなか、徐々にアクションラーニングのエッセンスが取り入れられ始めます。最初は外部の研修を受けるだけでしたが、受講者のなかからコーチを抜擢して、翌年以降の研修のサポート役に任命する形を取り入れま
この仕組みを導入したことで、アクションラーニングのノウハウが社内に蓄積され始めました。
管理職からコンサルタントに転身する際に求められるマインドの切り替えに、研修で得た学びが役立ったと受講した人は感じています。また、コンサルが離れた後のチームが、自走を始める際に重要な質問力も鍛えられたことに満足の声を寄せています。

参考:NPO法人 日本アクションラーニング協会「導入事例」

まとめ:アクションラーニングを導入し人材開発につなげる

アクションラーニングは組織力の向上・個人の能力開発、企業の問題解決に役立つ一石三鳥の学習手法です。ビジネスをとりまく環境が複雑さを増すなか、未知のトラブルや課題に直面しても負けない強いチームを作るうえで役に立つ活動です。
本記事を読んでアクションラーニングに興味を持った方は、外部の研修を受講したり、コーチ育成に取り組むなど、社員教育に一つずつ取り入れてみてはいかがでしょうか。

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