組織ミッションを浸透させるためのリーダーの役割とは?
2020年2月25日更新
昨今、組織のミッションの浸透・共有に関するコンサルティングの引き合いが増えてきました。それは裏を返せば、ミッションが形骸化している組織が多いということでしょう。では、どうすれば組織のミッションが浸透・共有されるでしょうか?
組織と個人のミッションを統合する
チームの一体感を強化し、一人ひとりのエンゲージメントを高めるためには、ミッションをメンバー全員で共有することは重要です。なぜならば、『組織のミッション』(institutional mission;以後、IMと表記)は、事業や組織の目的を指し示す機能があり、力強い活動のエネルギー源となるからです。
しかし、ミッションがあるのは組織だけではありません。組織と同様に「自分が何をなすべきか」という『個人のミッション』(personal mission;以後、PMと表記)が、人それぞれに存在します。(明確に自覚されているか否かは個人差がありますが)
それに関して、古今東西の知識人は、次のようなことばを遺しています。
「あなたも偉大な使命があって、この世に生まれている。そして、本当の成功をおさめる第一歩というのは、素直な心をもち、その使命を引き受け、自分の仕事を大業にすることである」(※1 ジェームス・スキナー)
「人おのおの運命(さだめ)に活きる人世なれば、心おおらかに過ごさんものを」(※2 中村天風)
人生の達人のことばからは、「人生を意味あるものにしようと思うなら、みずからのミッションを明確にせよ」というメッセージが読み取れるのではないでしょうか。
2つのミッションの統合を図る
IMとPM、これら2つのミッションはどのような関係にあるのでしょうか。
松下幸之助は、経営理念(ミッション)の重要性とそれを支える個人(リーダー)の「観」について次のように述べています。
「経営理念というものは、"何が正しいか"という、一つの人生観、社会観、世界観に深く根ざしたものでなくてはならないだろう。だから経営者たる人は、そのようなみずからの人生観、社会観、世界観というものを常日ごろから涵養していくことがきわめて大切だといえる」(※3)
こうした幸之助の考え方を現代風に解釈するならば、「IMはリーダーの人生観ともいえるPMに根ざしたものでなければならない」と表現できるでしょう。
では、なぜIMの根底に、リーダーのPMがなければならないのでしょうか。リーダーには、どんな困難な状況に立たされても"自分が"最後までやり抜くという覚悟が求められます。リーダーが一人称の発想で戦う姿を見せることで、メンバーの心に火がつき、現場の力が高まっていくのです。だからこそ、IMはリーダーの人生観ともいえるPMに根ざしたものでなければならないのです。
一方で、元Googleフェローのチャディー・メン・タンは、「あなたが本気で他人を助けるつもりになれば、その利他主義に人々が感動し、あなたを手助けしたいと願う。他人のためになりたいという志や、慈善の行為はすべて、他人を奮い立たせる。だから、利他的な志をもっていれば、そしてすでにその志にもとづいて行動を起こしているときにはなおさら、それを他人に伝えることを強くお勧めする」(※4)と述べ、利他的な視点に立った志、使命、ミッションが重要であると指摘しています。結局、考え方の根底に利他の精神がなければ他者からの共感は得られず、ミッションの実現も難しくなるのです。
したがって、リーダーのPMには、一人称の発想で語る統率力と、利他の精神で周囲を巻き込む共感力、この2つの要素が求められるのです。
組織ミッション浸透のためのリーダーの役割
ここまで、IMの根底におくべきリーダーのPMについて述べてきました。次に考えるべきは、IMとメンバー(部下)のPMをどう統合させるかというマネジメント上の課題です。2つのミッションが完全に一体化するのは稀なケースだとしても、両者が部分的に一致し、その一致する範囲が拡大していく状態が好ましい姿だと言えます。
そして、その好ましい姿に近づくためには、次のような取り組みを部門責任者(リーダー)が率先して実践することが重要になります。
1)IMの内容をくりかえし伝えて部門内で理解・共有すること
2)メンバー一人ひとりがみずからのPMについて考えるよう働きかけを行うこと
3)メンバーのPMの内容を、ある程度理解しておくこと
組織と個人のミッションが統合しないときはどうするか
しかし、こうした取り組みにもかかわらず、IMとPMがどうしても一致しない人も出てくるでしょう。
米国の経営学者・経営コンサルタントであるジム・コリンズは、著書(※5)で「リーダーは、まず初めに適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、次にどこに向かうべきかを決めています」と述べ、IMに共感できない"不適切な人"は組織から排除すべきとの考えを示しました。
日米の雇用環境が異なるので、日本ではそこまでドライな人材マネジメントはできませんが、コリンズが言いたかったのは、価値観のミスマッチが組織成果のみならず、個人の人生にとっても好ましくない状況をもたらすということです。そうであるならば、なるべく早い段階でミスマッチを解消したほうが、組織と個人、両方にとってメリットがあるのです。
したがって、IMに共感できない人に対しては、そのことを非難するのではなく、価値観が異なるという事実を受け入れたうえで、今後の方向性についてじっくり話し合いを重ねる必要があるでしょう。
※1 出典:『心をひらく あなたの人生を変える松下幸之助』ジェームス・スキナー著/柴田博人監修/PHP研究所経営理念研究本部監修(PHP研究所)
※2 出典:『運命を拓く―天風瞑想録』中村天風著(講談社文庫)
※3 『実践経営哲学』松下幸之助著(PHP研究所)
※4 出典:『サーチ・インサイド・ユアセルフ』チャディー・メン・タン著/一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート著/柴田裕之訳(英治出版)
※5 『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』ジム・コリンズ著/山岡洋一訳(日経BP)
参考文献:PHP通信ゼミナール『強い現場をつくるための5つの原則』
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。