「やらされ感」では成長しない。研修を成功させるポイントとは?
2023年11月15日更新
貴社の社員は「忙しいのに研修に行かされる」「研修は参加することに意義があるから」というような話をしていませんでしょうか。社員が「やらされ感」で研修に参加していると、成果は期待できなくなります。成功させるポイントは「自修自得」ということばのなかに求めることができます。
「やらされ感」で下がる研修成果
研修を実施しても成果が上がりにくい場合、受講者が「やらされ感」で研修に参加していることが原因として考えられます。受講している人たちが、「自分には関係がない」「真剣に取り組む価値がない」「でも放棄するわけにはいかないから受講しているふりをしよう」といった考え方をもってしまうと、そこから得られるものはほとんどありません。こうした受講者の「やらされ感」をいかに排除していくかが、成功する研修実施のカギを握ります。
研修を成長につなげるには
結局、人は得た情報や知識を自分の状況に置き換えて、どう活かしていくかを考えることによって、「やらされ感」ではない「わが事化」発想で行動を起こせるようになるのです。
経営学者のCookとBrownは「Knowing」という概念を提唱し(※1)、他者から情報や知識を得てそれでよしとするのではなく、それらを参考にしながら、自分で考えて自分なりのアイデアを生み出す行為が伴わないと、人は成長しないと主張しています。
※1 Cook,S.D.N. and Brown,J.S.(1999) Bridging Epistemologies:The Generative Dance between Organizational Knowledge and Organizational Knowing.Organization Science.10(4):381-400
松下幸之助から研修受講者へのメッセージ
以前、松下幸之助(PHPゼミナール創設者、パナソニック創業者)が「PHPゼミナール」の会場にふらりと立ち寄り、受講者に対して下記のようなメッセージを贈ったことがありました。
(研修で学ぶ内容は)これはひとつの共通的な考え方やな。このときはこういうようにやったけど、今は時代も変っているからな。そのまま通用するかどうかわからん。だから、その精神を現在の時代なり、現在の商売の状態に合わせて自分で考えないといかんな。まあ、僕がやってきたのは、よそで聞いたこともあるけど、大部分は自分の独創的な考えでやったわけや。そやけど、まったく独創かというと、そうやない。やはり、小さいときから奉公したりして、いろいろ親方に教えてもらったり先輩から教えてもらっている。それが頭に残っているわけやな。それを参考にしながら自分で考えて、ひらめいて、自分というものを生かしているわけやな
自分なりの答えを導き出すには
私たち日本人は、目指すゴールとそこに至るプロセスが明確なとき、強みを発揮しやすくなります。明確な「答え」が存在していて、その答えのもとでいかにして(=how)成果を上げるかを考え、行動することが、日本人の強みとも言えます。
しかし、時代が変わり、世界レベルでの変革期に入った今、明確な答えが存在する場面は少なくなり、日本人の強みを発揮しにくくなりました。
こうした答えのない状況で求められるのは「問題の核心は何なのか?」「今、何をすべきなのか?」といった、自分なりの「何」(=what)を導き出す力、すなわち「創造力」なのです。
創造力を養い高める方法とは?
では、どうすれば創造力を養い高めることができるのでしょうか。そのヒントを「自修自得」ということばに求めることができます。
すなわち、自分の頭で考え抜き→時には世間の常識を疑ったり、過去の成功体験や手放し(学習棄却)→仮説を立て→実践して→結果を振り返り→自論を形成する→ というサイクルを自分で回すことです。
松下幸之助と「自習自得」
松下幸之助は、この「自修自得」の重要性について以下のように述べています。
生きた経営なり仕事というものは教えるに教えられない、習うに習えない、ただみずから創意工夫をこらしてはじめて会得できるものである。その自得するという心がまえなしに、教わった通り、本で読んだ通りにやったとしても、一応のことはできるかもしれないが、本当のプロにはなれないと思う。自得していこうという前提にたって、はじめてもろもろの知識も生かされ、人の教えも役に立つわけである
『その心意気やよし』PHP研究所
適切な問いかけによって自修自得をサポートする
ここで、人材育成を担う立場にある人に気を付けてもらいたいのが「教えすぎ」の弊害です。研修であれ、現場のOJTであれ、相手に知識や情報を与えることは大切ですが、教えすぎて考える行為を摘み取ってしまうことは逆効果です。
時には(形の上では)突き放し、「自分で考えてごらん」「常識を鵜呑みにしたらいけないよ」「とにかく、やってみなさい」「やった結果はどうだった?」「その経験から何を学んだ?」「自分のことばで表現したらどうなる?」といった問いかけ・要求をすることが重要です。
与えた知識や情報をもとに、そこからどんなレッスンを引き出せるか、適切な問いかけによって自修自得をサポートすることが、次代を担う人材の創造力を養成するカギになるでしょう。
的場正晃 (まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部兼人材開発普及部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。