イーロン・マスク「毎週100時間、地獄のように働くべき」~名経営者の人材育成論
2016年5月 2日更新
宇宙ロケット開発の「スペースX」、電気自動車の「テスラモーターズ」、太陽光発電の「ソーラーシティ」の三社を相次いで起業し、「ポスト・ジョブズ」の一番手と目されるイーロン・マスク。その人材育成論を桑原晃弥氏がご紹介します。
Vは「ビジョン」、Wは「ワーク・ハード」
人が何かを成し遂げようとするときに必要なものは何か。ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授は「VW」を挙げている。Vは「ビジョン」であり、Wは「ワーク・ハード」のことだが、まさに「VW」によって世界を変え、人類を救おうと奮闘しているのがイーロン・マスクである。
1971年に南アフリカで生まれたマスクは18歳の時に単身カナダに渡り、肉体労働の日々を経て大学を卒業、スタンフォード大学大学院をわずか2日で中退、「ジップ2」「ペイパル」の成功によって大金を手にしている。その資金を基に宇宙ロケット開発の「スペースX」、電気自動車の「テスラモーターズ」、太陽光発電の「ソーラーシティ」の三社を相次いで起業、今や「ポスト・ジョブズ」の一番手と目されている。
三社を起業した理由は限りある資源しか持たない地球のエネルギーや移動を持続可能性のあるものにして、かつ人類を火星に送り込むことで人類を救いたいという突飛なものだが、マスク自身は本気でこのビジョンを掲げ、電気自動車の普及やロケットの価格破壊に真剣に取り組んでいる。
多くの有能な人材が飛び込んでくる
ビジョンには人を魅了する力がある。しかもマスクはビジョンを口にするだけではなく、実現する力もある。それだけにマスクの会社には「野心溢れる優秀な人材」が次々と集まってくる。マスクは「1人の優れたエンジニアは、3人の平凡なエンジニアに勝る」と考える「Aクラス信奉者」であり、「企業をつくるというのは、トップレベルのプレーヤーが集まったナショナルスポーツチームをつくるようなもの」という「超Aクラス信奉者」だ。
当然、スティーブ・ジョブズがそうであったように、「ノー」は受け取らない。「できない」「無理」という部下はすぐにプロジェクトから外し、「代わりに私がプロジェクトを仕切る」というタイプだ。急用があって休んだ社員にこんなメールを送ったこともある。
「本当にがっかりした。何を優先すべきか考えたことがあるのか。私たちは世界を変えようとしているし、歴史を変えようとしている。やるのか、やらないのか、どちらかはっきりしてもらいたい」
そこにはワークライフバランスといった配慮はみじんもないが、にもかかわらず多くの有能な人材が飛び込んでくるのはやはりマスクの壮大なビジョンと、マスク自身の並外れたハードワークがあるからだ。マスクにはたくさんの伝説がある。ペイパル時代には「48時間ぶっ通しでオフィスに張り付いていた」こともあれば、「私たちが1日に20時間死ぬほど働いたと思ったら、彼は23時間働いているんですから」という社員の証言もある。
イーロン・マスクが語る起業家の心構え
マスクは起業家の心構えをこう語っている。
「起業家は毎週100時間、地獄のように働くべき」
明確なビジョンを掲げることもリーダーの大切な役目だが、その一方でリーダー自身が遮二無二ハードワークをしてこそ人はついてきてくれる。マスクはスペースXの人材募集で「不可能を恐れず、狂ったように挑戦的なプロジェクトに、タイトなスケジュールでも取り組める人材を求めている」とすさまじい言葉を並べているが、マスク自身がこの言葉を実践しているからこそ、たくさんの野心溢れる優秀な若者が集まってくるのである。
何かを成し遂げるうえで「VW」は欠かせない。それは人を採用し、育て、目標を達成するうえでも欠くことのできないものなのだ。
参考文献:『イーロン・マスク 未来を創る男』(アシュリー・バンス著、斎藤栄一郎訳、講談社)、『日経ビジネス』2014年9月29日号、『天才イーロン・マスク 銀河一の戦略』(桑原晃弥著、経済界新書)
桑原晃弥(くわばら・てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)、『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(PHPビジネス新書)などの制作を主導した。
著書に『スティーブ・ジョブズ全発言』『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』(以上、PHPビジネス新書)、『スティーブ・ジョブズ名語録』『サッカー名監督のすごい言葉』(以上、PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の遺言』『天才イーロン・マスク 銀河一の戦略』(以上、経済界新書)、『ジェフ・ベゾス アマゾンをつくった仕事術』(講談社)、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)などがある。