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なぜ経営理念が重要なのか。浸透しない理由とは?

2024年7月29日更新

 なぜ経営理念が重要なのか。浸透しない理由とは?

組織の求心力を高めるために、あらためて経営理念の重要性が声高に叫ばれるようになってきました。なぜ、経営理念が重要なのか、そしてどうすれば理念が浸透するのか、その考え方と手法を考察いたします。

INDEX

理念の重要性の高まり

パーパスや、ミッション、ビジョン等、表現はさまざまですが、企業経営を行う上で、自社の存在価値や使命を明らかにすることの重要性が高まっています。企業を取り巻く環境がドラスティックに変化する中で、明確な理念をもっていないと優秀な人材を確保できませんし、金融市場から資金を調達することが難しくなります。そして何よりも、消費者から自社商品・サービスが選ばれなくなり事業がシュリンクしていく事態に陥りかねないのです。

松下幸之助が語る経営理念の重要性

PHP研究所創設者・松下幸之助は、経営理念の実践にこだわった経営者の一人でした。彼は自著の中で、経営理念の重要性を次のように説いています。

私は60年にわたって事業経営に携わってきた。そして、その体験を通じて感じるのは経営理念というものの大切さである。いいかえれば"この会社は何のために存在しているのか。この経営をどういう目的で、またどのようなやり方で行なっていくのか"という点について、しっかりとした基本の考え方をもつということである。

『実践経営哲学』(PHP研究所)

この本が発刊された当時(1978年)は、経営理念がそれほど重視される時代ではありませんでした。しかし、50年近い歳月を経て、社会全体がその重要性に気づくようになってきたのです。

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形骸化する経営理念

前述のような社会的風潮を背景に、今ではほとんどの企業が経営理念を制定し、社内外に公表しています。しかし、それが組織内に浸透しているケースは少ないようです。
パーソル総合研究所の調査によると、経営理念の「理解」「同意」に比較して「実践」「習慣」ができていない人が多いという実態が明らかになりました。つまり、頭では理解していても行動が伴っていないのが、企業の現場における理念の浸透の実態なのです。

【図表】理念の浸透の実態(※1)

理念の浸透の実態

※1 出典
「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」(パーソル総合研究所)
調査期間:2023年4月4日‐6日
調査対象者:全国の男女・正規雇用就業者(年齢20-59歳)1,500名
調査方法:インターネット定量調査

「お説ごもっとも」が思考停止を招く

ではなぜ、経営理念が浸透しないのでしょうか。この問題は、従業員たちが理念の意義や意味について、思考を巡らせる機会が少ないことに起因すると思われます。
経営理念が高邁な内容でまとめられたり、美辞麗句で語られると、それを見たり聞いたりする人びとが否定的な意見や感情をもつことが少なくなります。しかし、その一方で理念の重要性を意識したり、それがなかったらどういうことになるかについて考える機会が奪われていくのです。つまり、理念で語られていることが、常識的で誰もが納得するような「お説ごもっとも」的な内容になればなるほど、人びとは思考停止に陥り、その存在を自覚することがなくなっていくのです。あたかも日常生活において、空気の存在を意識することなく呼吸を繰り返しているように。これが、経営理念が浸透しない最大の要因と言えます。

理念浸透 3つのアプローチ

では、経営理念を浸透させるにはどうすればいいのでしょうか。効果的な取り組みとして、以下の3つのアプローチをご紹介します。

1.対話の場

理念の意義や意味について、定期的に語り合う場を設けることで、組織内での浸透・共有が促進します。某社では、「理念浸透カフェ」というイベントを月に一回、事業所ごとに実施し、理念と日々の業務とのつながりを見つめ直す場を設けています。

2.自分ごと化

対話の場では、「問い」を設定し、それに対する意見を全員が発言するようなしかけが必要です。話を聴くだけでは受け身の姿勢になりますが、自ら考え発言することで理念が内在化され、「自分ごと化」が促進します。

3.ファシリテーションスキル

対話の場をしきる経営者やリーダーは、自らが発言するよりも問いかけを多用して従業員・メンバーに考えさせることが重要です。これからのビジネスリーダーには、ファシリテーションスキルの修得は必須課題と言えるでしょう。

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理念実現の可能性が担保されているか

上記3つのアプローチが真に効果を発揮するには、理念の実現可能性が担保されているという前提が必要になります。
米国の組織・心理学者 エドガー・シャインは、「理念が共有され当然視されるのは、組織の新しいメンバーが創業者の信念、価値観、仮定のおかげで組織が成功を収めているのを見て取り、これは『正しい』に違いないと思うようになる」と述べています。つまり、経営理念の具現化が前進しているという実感を従業員がもてるようにならないと、理念の共有は難しいのです。
理念の浸透・共有を図るための施策を考える際、そもそも理念の内容や表現が現状のままでいいのか、再点検することから始めてみてはいかがでしょうか。

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的場正晃 (まとば・まさあき)
PHP研究所 経営共創事業本部 本部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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