すべてを生かす~松下幸之助「人を育てる心得」
2015年11月 8日更新

指導者はどんな人にも使い道があることを知らねばならない
秀政の家臣に、顔つきがいかにも泣き顔のような男がいた。いつも目をうるませ、眉間にしわをよせて、見るからにうっとうしい感じである。それで他の家来が、「あの男の顔つきはまことに不吉で、見るのも不愉快です。世間も殿のことをあんな者を召しかかえたと物笑いにしています。早くお暇をやってはいかがでしょう」といった。それに対して秀政は、「お前たちのいうことはまことにもっともだ。しかし、法事とか弔問の使いにやるのに、あれほど適任の者はいない。どんな人でもそれぞれに使い道があるのであって、だから大名の家にはいろいろな人間を召しかかえておくことが大事なのだ」といったという。
人間というものは顔かたち一つをとってみても一人ひとりみなちがっており、全く同じという人はいない。まして、性格、気質、才能、ものの考え方というものを考えれば、いわゆる十人十色、万人万様にちがったものをもっている。したがってまた、あらゆる面ですぐれているという人もいなければ、反対にすべての面で他よりも劣るという人もいない。それぞれに一長一短、なんらかの長所、短所をあわせもっているわけである。
だから、そうしたそれぞれの人の持ち味をよく見きわめて、その長をとり短を捨てて、すべての人を生かしていくことが、指導者にとってきわめて大事である。
しかし実際にはなかなかそれができにくい。ともすれば限られた面だけを見て、人の長短を判断し、あれは有能な人材、これは無用の存在といったふうに決めつけてしまいがちである。秀政の家臣たちは、戦国の世のこととて武勇といったことを中心にものを考え、それで、その泣き顔の男に暇をやれといったのだろう。しかしいかに戦国の時代でも、戦争ばかりしているわけではないし、また戦にしても、単に武勇にすぐれた人だけでなく、いろいろな役割が十分に果たされて、はじめて戦力となるのである。秀政はさすがにそのことを知って、大名の家にはいろいろな人材が必要だといったのだろう。
まして今日の社会は戦国時代とは比較にならないほど複雑多岐にわたっている。それだけ多種多様な人が求められているといえよう。したがって、今日の指導者は秀政以上に、いろいろな人を求めることに意を用いなくてはならない。無用の人は一人もいない。そういう考えに立ってすべての人を生かしていくことがきわめて大事だと思う。
【出典】PHPビジネス新書『指導者の条件』(松下幸之助 著)





































































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