志をもったリーダーを育てる~目指すところは「自利利他円満」
2026年5月 1日更新

「志」ということばは、日常、使われる頻度が多くない用語ですが、その重要性は企業経営の現場で高まっています。今なぜ、リーダーに志が必要なのか、またどのようにして志を育めばいいのか、経営者教育の現場で得た知見をもとに、その要諦を考察します。
志の確立を求めて経営者が学びの場へ
志を立てよう。本気になって、真剣に志を立てよう。生命をかけるほどの思いで志を立てよう。志を立てれば、事はもはや半ばは達せられたといってよい
『道をひらく』松下幸之助
弊社が主催している「松下幸之助経営塾」は、2011年の開講以来、現在までに330名(2025年末現在)の卒塾生を輩出してきました。ここ数年は、毎期満席状態(定員12名)が続いているうえ、新規に受講を希望なさる方は、1年半以上お待ちいただかないと受講枠を確保できない状況になっています。
当塾は、テクニックやノウハウ(Doing)を教えるのではなく、経営者としてのあり方(Being)1に焦点を当て、最終的に「わが経営の志」を確立していただくことを目的とした講座です。効率とスピードが重視される時代において、コスパ・タイパ両面から、そのトレンドと逆行するかのような学習内容にもかかわらず、学びを求めて全国から経営者が殺到しています。
このような現象を見るにつけ、経営における「志」の重要性が年々、高まりつつあることを実感させられるのです。
志を構成要素と構造から探る
志とは、一般的に「目的をはっきりとさだめ、その実現のために努力しようとする気持」(『精選版日本国語大辞典』)とされています。一方、松下幸之助経営塾では志を「人生をかけて成し遂げたいこと。その目的が大義に則っていて、人々からの共感を得られること」と定義づけています。一般的な定義と比べると、自分のためだけではなく、他者への貢献という視点が含まれている点が特徴的です。その目指すところは、禅の教えにある「自利利他円満」(※2)の境地に近いかもしれません。
そして、志の構成要素とその構造は、下図のようなピラミッド状態になっていると考えます。図に示しているように、人生観、経営観、人間観などから成る「狭義の志」が土台にあり、その上の「経営理念」と「実践的方針」を支えているというイメージです。このピラミッド全体を「広義の志」であると説明しています。

このような志の定義や構造をデザインするうえで依拠した考え方が、「経営理念の根底には経営者の人生観、社会観、世界観がなければならない」という松下幸之助の経営哲学なのです。
なぜリーダーに志が必要か
なぜ今、志をもったリーダー育成の必要性が高まっているのでしょうか。産業界を取り巻く状況から推察すると、以下の2つの理由があるように思われます。
1つは、社外のステークホルダーからの信頼獲得という視点です。昨今の社会全般の公益性を重視する意識の高まりを受け、自社の利益だけを考える企業は市場からの撤退を余儀なくされます。組織をけん引するリーダーが、本気で「世のため・人のため」を考えて活動しなければ、社会、投資家、消費者からの支持を得ることが難しい時代になってきました。
もう1つは、社内の人材のエンゲージメント向上という視点です。最近の若い世代は、仕事をするうえでの大義名分にこだわる傾向があります。一緒に仕事をする上司や経営者の言動から志を感じることができなければ、失望感を感じて転職していく人も少なくありません。優秀な人材をやる気にさせ、組織につなぎ留めるためにも、志をもって仕事をするリーダーの存在が必要なのです。
リーダーの育成に有効な3つのアプローチ
志をもったリーダーの育成は、一朝一夕でできるものではありませんが、以下のようなアプローチが有効です。
自らの「観」を言語化する
前述の通り、志を確立するためには「人生観」「経営観」「人間観」といった、自分なりの「観」をもっておく必要があります。観を考えるうえで、有益な気づきを提供してくれるのがリベラルアーツです。歴史や哲学、文学、宗教などの学習を通じて、視野が拡がり新たな気づきが得られます。そのうえで自分なりの観を言語化し、それを何度もバージョ実践的方針(事業計画、戦略等)経営理念(使命、目的)わが志(人生観、経営観、人間観)ンアップしていくことで、志の解像度が上がっていくでしょう。
日々の自己観照
忙しい毎日であっても、その日一日を振り返る時間をもつことは大切です。松下幸之助は、自らを振り返る取り組みのことを「自己観照」ということばで表現していました。日々、自己観照をすることで、自らの課題に気づいたり、自分のやるべきこと、やりたいことが明確になってきます。そうした営みが、志の確立につながるのです。
フィードバックを受ける
自分のことはわかっているようで案外わかっていない部分が多いと言われます。自己認知を高めるために有効なのが第三者からのフィードバックです。ときには、耳の痛いフィードバックを受けることがあるかもしれませんが、それを受容することで自らの課題の克服、人間的な成長を促進します。志の確立のためにも、周囲の人たちにフィードバックを求めていく積極性が必要です。
切磋琢磨しながら取り組む
中国のことわざに、「燕雀(えんじゃく)安(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや」があります。このことばが意味しているのは、燕や雀のような低い空を飛ぶ鳥には、高い空を飛ぶ大型の鳥の気持ちはわからないということです。つまり、レベルが異なると相手のことを理解できないというたとえなのです。
そういう視点に立つと、レベルの高い人と交流することが自らのレベルを上げることにつながります。志をもつうえでも、自分一人で取り組むより、同じ目的をもった人同士が切磋琢磨しながら取り組むほうが、はるかに効果が上がるでしょう。
※1 Doingが具体的な行動や手段(何をやるか)に焦点を当てるのに対し、Beingは内面的な姿勢、価値観、人格、状態(どう在るか)に焦点を当てる
※2 自分自身を幸せにすること(自利)と、他者を幸せにすること(利他)は別々のものではなく、両方を完全に両立させるという仏教の理想
出典:『[実践]理念経営Labo』2026年WINTER1-3(Vol.16)
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP理念経営研究センター主席研究員
1990年、PHP研究所に入社、研修局に配属。以後、一貫して、PHPゼミナールの普及、および研修プログラムの開発に取り組む。2001年から2003年まで神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程にてミッション経営の研究を行ない、MBAを取得。中小企業診断士。「松下幸之助経営塾」ファシリテーター。著作に『"強い現場をつくるリーダー"になるための5つの原則』(PHP通信ゼミナール)』がある。




































































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