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トップマネジメントに必要な発想法~コンセプチュアルスキルと経験学習モデルから考える

2024年8月 5日更新

トップマネジメントに必要な発想法~コンセプチュアルスキルと経験学習モデルから考える

経営者や経営幹部には、他の従業員には見えないものを見る力が求められます。本稿では、トップマネジメントに必要な能力であるコンセプチュアルスキルの意味や構成要素を解説したうえで、その高め方を考察いたします。

INDEX

コンセプチュアルスキルの重要性

変化の激しい時代にあって、トップマネジメントに求められる能力として「コンセプチュアルスキル」(概念化能力)の重要性が増しています。コンセプチュアルスキルは、カッツモデル(※1 下図表参照)を構成する3つの能力の1つで、ものごとを概念化してとらえる力のことを言います。
概念化とは、個々の事象間の共通性や関係性を理解し、その背後にある法則を明らかにすることです。例えば、ある商品の販売状況と購入客の属性から両者の関係性を見抜き、効果的な販売戦略(法則)を導き出すような発想をするのが概念化です。
カッツモデルにおいては、組織の中で上位階層に上がるほど、概念化する力であるコンセプチュアルスキルの重要性が増すとされています。重要な職責を担っているトップマネジメントが、間違った判断を行わないようコンセプチュアルスキルを高める必要に迫られていることは、至極当然のこととも言えるでしょう。

【図表】カッツモデル(マネジメントに求められる能力)

カッツモデル

※1 ハーバード・ビジネス・スクールのロバート・カッツ教授が提唱している「組織内の職務遂行において重要なビジネススキル」のことで、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルを図式化したもの

参考記事:コンセプチュアルスキルの高め方とは? 構成要素一覧も紹介│PHP人材開発

体験の重要性

では、どうすればコンセプチュアルスキルを高めることができるのでしょうか。この問いに対する絶対的な解答は存在しませんが、プロフェッショナルと言われる人たちの思考・行動パターンからはヒントが得られます。
例えば、ベテランの医師は、短時間の問診で患者の状況を把握し、即座に処方箋を出しますが、こうした離れ業ができるのは、過去に数多くの症例に接してきた体験の積み重ねが医師としての判断力を高めているからです。医療業界以外でも、ビジネスやスポーツ、伝統芸能等、あらゆる分野で、達人の域に達している人たちに共通しているのは、豊富な体験を通じて概念化能力が磨き高められてきたということです。

 

気づきを引き出す「ふりかえり」

しかし、ここで留意すべきは「体験しっ放し」にしないということです。体験には自分にとっての学びがたくさん埋め込まれていますが、見たり聞いたりするその瞬間には気づかないことが多いもの。従って、気づきを引き出すためには「ふりかえり」によって体験を見つめ直す作業が求められるのです。
ふりかえりについて、松下幸之助は以下のような表現でその重要性を述べています。

今日一日をふりかえり、失敗や成功を見出し、その味をかみしめる。これが体験である。反省することなしにポカンと暮らしてしまえば、これは体験にならない

『物の見方 考え方』PHP研究所

また、組織行動学者のD.コルブは、人の成長は経験を省察(≒ふりかえり)することで促進すると主張し、「経験→省察→概念化→実践」という4段階の学習サイクルから成る「経験学習モデル」理論を提唱しました。
このように、経営者が構築した実践知も、研究者の提唱する理論も、表現は異なりますが、いずれもふりかえりの重要性を指摘しているのです。

参考記事:経験学習モデルとは?~D.コルブが提唱する「経験を学びにする方法」│PHP人材開発

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経営者に必要な抽象化能力

ここまで、コンセプチュアルスキルの意味と高め方について考察してきましたが、同義の概念である「抽象化能力」について言及しておきます。
抽象化能力の重要性について、成人発達理論の研究者 加藤洋平氏は、以下のような主張を展開しています。

経営者が行う意思決定というのは、具体的な経営事象を観察しながら、それらの現象の本質を抽出するという「抽象化」を行いながら、複数の現象に潜む本質の関係性をもとにして、一つの経営判断を下すことなのです

『能力の成長』加藤洋平著(日本能率協会マネジメントセンター)

昨今の社会の風潮として、「タイパ」などのことばに代表されるように、短期間で効率的に成果が上がるようなノウハウやテクニックが尊重される傾向にあります。しかし、「ほんとうに大切なこと」や、世の中の普遍的な「原理原則」というものは、じっくり考え抜かないと手に入れることは難しいことが多いです。
「急がば回れ」ということわざの通り、思考の次元を上げて、目の前に起きてくる事象をしっかり見つめ、その背景にある原理原則を解釈するという抽象化の訓練が経営者、経営幹部には求められるのです。

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 経営共創事業本部 本部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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