小事を大切に~松下幸之助「人を育てる心得」
2015年11月22日更新

指導者は小事をおろそかにしてはならない
三菱の創業者である岩崎弥太郎が、ある時幹部の一人を自室に呼び、机の上にある紙を示して、「きみ、これは何ごとだ」と声荒く叱りつけた。その人が驚いて見ると、自分が前に出した欠勤届で、それは会社の用箋に書かれたものであった。弥太郎はさらに語気鋭く、「いやしくも本社の最高幹部たるきみが、公私をわけず、私用の欠勤届に会社の用箋を使うとはもってのほかだ。厳罰に処する」と、一年間の減俸を命じた。その幹部の人も、自分の非を覚って深くわび、一年間の減俸を甘受するとともに、以後ますます力を尽くして活躍したという。
今から見ると、これはいささかきびしすぎるような感じもしないではない。まあこの程度のことなら、というので見過ごしたり、せいぜい「きみ、気をつけてくれたまえ」と注意するくらいであろう。それを、きびしく叱るだけでなく、一年もの減俸という重罰を課したほうも課したほうだが、それを喜んで受け、以後大いに発憤、奮起したその幹部の人も偉いと思う。指導者として何よりも見習うべきは両者の火の出るような真剣さだろう。そうした真剣さがあって、大三菱というものが建設されたのだと思う。
同時に、弥太郎がこのような小事ともいえることを叱ったのはそれなりの理由があるのではないかと思う。ふつうであれば、大きな失敗をきびしく叱り、小さな失敗は軽く注意するということになろう。しかし、考えてみると、大きな失敗というものはたいがい本人も十分に考え、一生懸命やった上でするものである。だから、そういう場合には、むしろ「きみ、そんなことで心配したらいかん」と一面に励ましつつ、失敗の原因がどこにあったのかをともどもに研究して、それを今後に生かしていくことが大事ではないかと思う。
それに対して、小さな失敗や過ちは、おおむね本人の不注意なり、気のゆるみから起こってくるし、本人もそれに気がつかない場合が多い。そして、"千丈の堤も蟻の穴から崩れる"のたとえ通り、そうした小さな失敗や過ちの中に、将来に対する大きな禍根がひそんでいることもないとはいえない。
だから、小事にとらわれて大事を忘れてはならないが、小さな失敗はきびしく叱り、大きな失敗に対してはむしろこれを発展の資として研究していくということも、一面には必要ではないかと思う。
【出典】PHPビジネス新書『指導者の条件』(





































































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