徳性を養う~松下幸之助「人を育てる心得」
2016年6月 1日更新

指導者に徳があってこそ、はじめてもろもろの力が生きてくる
大東亜戦争が終わった時、当時の中国国民政府の?介石主席は、"怨みに報いるに徳をもってする"ということを声明し、日本に対して報復的なことや賠償の要求をしなかった。これはお互い日本人としてはまことにもって多としなければならないところであると思う。
このことはもともと中国の昔の聖人である老子のことばだという。それが二千五百年にわたって中国では、指導者としての一つの心がまえとされ、よき伝統となっていたのであろう。たとえば諸葛孔明が辺境の蛮族を帰順させるのに、単に武力をもってするのではなく、七たび捕えて七たびこれをはなち、ついに完全に心服せしめたというような話も伝えられている。そうした中国のよき伝統を?介石主席みずから実践したのだと思うが、これは指導者にとってきわめて大事なことだと考えられる。
というのは、人間が人間を動かすことは、実際はなかなか容易ではない。力で、あるいは命令で、あるいは理論で動かすということも、それはそれでできないことではない。「これをやらなければ命をとるぞ」といわれれば、たいていの人は命が惜しいから、不承不承でもやるということになるだろう。しかしいやいややるのでは、何をやっても大きな成果はおさめられない。
やはり、武力とか金力とか権力とか、あるいは知力といったものだけに頼っていたのではほんとうに人を動かすことはできない。もちろんそれらの力はそれなりに有効に活用されるべきではあろうが、何といっても根本的に大事なのは徳をもって、いわゆる心服させるということだと思う。
お釈迦様は偉大な徳の持ち主で、その徳の前には狂暴な巨象までひざまずいたといわれるが、そこまではいかなくても、指導者に人から慕われるような徳があってはじめて、指導者のもつ権力その他もろもろの力も生きてくるのだと思う。
だから、指導者はつとめてみずからの徳性を高めなくてはならない。指導者に反対する者、敵対する者もいるだろう。それに対してある種の力を行使することはいいが、それだけに終わっては、それがまた新たな反抗を生むことになってしまう。力を行使しつつも、そうした者をもみずからに同化せしめるような徳性を養うため、つねに相手の心情をくみとることにつとめ、自分の心をみがき高めることを怠ってはならないと思う。
【出典】 PHPビジネス新書『人生心得帖/社員心得帖』(松下幸之助著)





































































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