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小倉昌男「どんな提案にもまずイエスと言ってから考えて欲しい」~名経営者の人材育成

2016年7月 6日更新

小倉昌男「どんな提案にもまずイエスと言ってから考えて欲しい」~名経営者の人材育成

ヤマト運輸のトップとして宅急便を開発し、流通に一大革命を起こした小倉昌男氏。「ゼロから新しいものをつくる」歴史のなかで、小倉氏が部下に求めたのが「イエス、バット」の姿勢でした。

企業の荷物から家庭の荷物へ

ヤマト運輸のトップとして宅急便を開発したのが2代目社長の小倉昌男氏である。1971年、46歳で父親の跡を継いで社長となり、傾いた会社の再建策として打ち出したのが、家庭から家庭へ荷物を運ぶサービスの商品化だった。

それまでは百貨店配送など企業の荷物を扱っていた。企業の荷物は、競争は激しいが、仕事そのものはある程度安定している。それに対して家庭からの荷物となると、いつどこから何個荷物が出るのか皆目見当がつかない。しかも、当時は国鉄と郵便局が扱う以外、個人の荷物を扱う運送会社などどこにもなかった。

はたして企業の荷物から家庭の荷物に転換して大丈夫なのかという声が多かったが、小倉氏は再建のためには新市場を開拓するほかはないと、反対の声をはねつけている。76年、宅急便事業はスタートしたが、初日の取扱個数はわずか11個だった。当然、利益などは見込めなかったが、小倉氏は「サービスが先、利益は後」と推進し続けた結果、80年度には取扱個数は国鉄(現JR)小荷物と並ぶ330万個を突破、経常利益も前年度の3・3倍となっている。

以降、小倉氏は路線トラックの免許を獲得するために当時の運輸省と戦う一方で、ゴルフ宅急便やクール宅急便といった新しいサービスを次々と開発、日本に宅急便という素晴らしいサービス網を開拓、日本人の食生活、物流に一大革命を起こすことになった。

管理職には「イエス、バット」を強く求める

宅急便の歴史は「ゼロから新しいものをつくる」歴史であり、数々の規制や反対意見と対決した歴史でもある。そんな小倉氏だけに社員や管理職に対して強く求めているのが「ノー、バット」ではなく、「イエス、バット」で過ごすということだ。

ある時、小倉氏が担当者にある提案をしたところ、担当者から即座に「それはダメですね」と言われてがっかりしたことがあるという。担当者はたしかにその業務の専門家だけに、ダメだという理由をただちに列挙することができる。それどころか、「部外者が分かりもしないのに余計なことを言うな」という顔さえする。

しかし、こうした姿勢では変化の激しい時代には対応できないし、宅急便のような誰もがノーという仕事が生まれることはなかったというのが小倉氏の考え方だ。たとえば、部下が新しいアイデアを思いついて、上司に提案した時、即座に「ノー」と言われたら、部下は「なんだよ、せっかく考えたのに」とやる気をなくし、以降、新しいアイデアも考えなくなるし、上司に提案などしなくなる。

反対に部下のアイデアには必ず「イエス」から入ったらどうだろう。まずは部下のアイデアに真剣に耳を傾け、「いいアイデアをありがとう」と感謝をする。そのうえで、「でも、ここをもうちょっと詰めたらもっと良くなるんじゃないか」とアドバイスをする。これだけで部下は前向きになるし、もっといいアイデアを考えようという気持ちになるものだ。

たしかに上司から見ると、部下のアイデアなど取るに足らないものかもしれないが、部下のアイデアを育て、そして新しいことをやるためには「ノー」から入るのではなく、「イエス」から入るという姿勢が欠かせない。

みんながみんなのアイデアに「イエス」から入る会社、そんな会社こそが新しいものを生み出せるし、アイデアを生む社員を育てることができるのである。

もし「ノー」から入ったら宅急便が生まれることはなかった。「どんな提案もまずイエスと言ってから考えて欲しいものである」は、宅急便の生みの親・小倉氏からのとても大切なメッセージと言える。

参考文献『やればわかる やればできる』(小倉昌男著、講談社)、『運が開ける!名経営者のすごい言葉』(桑原晃弥著、PHP研究所)

日本の企業家

桑原晃弥(くわばら・てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)、『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(PHPビジネス新書)などの制作を主導した。
著書に『スティーブ・ジョブズ全発言』『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』(以上、PHPビジネス新書)、『スティーブ・ジョブズ名語録』『サッカー名監督のすごい言葉』(以上、PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の遺言』『天才イーロン・マスク 銀河一の戦略』(以上、経済界新書)、『ジェフ・ベゾス アマゾンをつくった仕事術』(講談社)、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)などがある。

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