説得力~松下幸之助「人を育てる心得」
2016年7月26日更新

指導者は正しい主張でもその訴え方を工夫することが大事である
明治の初めに、日本でも鉄道を敷くことが計画された時に、当時の政府というか、首脳者の中にも、古い考えにとらわれて強く反対する人が少なくなかったそうである。その際に、岩倉具視公は、次のように説得したという。
「今度、東京に遷都になったけれども、皇室の千有余年来の山陵はみな京都方面にあるから、天皇陛下は時々ご参拝にならなくてはならない。けれども行幸が度重なっては、その都度沿道の人民を悩ますことになるだろう。しかし、汽車でご通過になればその心配もいらない。だから、陛下のご孝道のためにも、鉄道は大切だ」
そうするとこれまで反対していた人たちも、「なるほど、それもそうだ」ということで、意見の一致を見、鉄道の建設が実現の運びとなったというのである。
指導者として何か事をなしていくにあたっては、やはり多くの人を使い、あるいは動かすということが当然起こってくる。そしてその場合、自分の考えに共鳴、納得してもらうことがどうしても必要であろう。
そのためには、根本に正しい理念、正しい方針をもたなくてはならないのはいうまでもない。そういうものなくして、真に人を動かすことはむずかしいと思う。けれども、それでは正しい考え、正しい主張であれば、人は何でも受け入れ、共感してくれるかというと必ずしもそうではない。正しい主張であっても、その正しさにとらわれて、それを強引に相手に押しつけようとすれば、かえって反発を招くということもあるだろう。やはり、同じことを訴えるのでも、説き方、訴え方が大切で、いわゆる説得力というものが必要になってくる。
だから、根底に何が正しいかということに基づく信念をもちつつも、同時に時を考え、場所を考え、相手を考え、情理を尽くした十分な配慮というものがあって、はじめてその主張なり、訴えが説得力をもってくるのだと思う。
そのような説得力をもち得ない人は、指導者として人の上に立ち、人を動かしていくことはできにくいといえるだろう。そういう意味において、この岩倉公の説得法は、まことに味わうべきものがあるのではないだろうか。
【出典】 PHPビジネス新書『人生心得帖/社員心得帖』(松下幸之助著)





































































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