幹部社員の責任とは~松下幸之助「人を育てる心得」
2017年8月14日更新
幹部社員としての責任ということについてもう一つふれておきたいと思います。
会社では、物事を決めるのに、たとえば会議などを開いて慎重に検討し、皆の意見をとりまとめて決定するといったかたちがよくとられます。それがいわゆる民主主義的なやり方というわけですが、私は、そのようにたとえみんなで一緒に決めたというかたちになるにしても、その決定を実際に採用するか否かは、その部門の責任者、いわゆる"長"の判断によるものだと思います。
つまり長たるものは、その判断をするにあたって、最終的には自分一人の責任においてこれをしなければなりません。いくら大勢で決めたことだからといって、一度それを採用したからには、すべての責任をみずからが負うのがほんとうです。「それは私の責任です」ということが言いきれてこそ、責任者たり得るわけです。
ところが実際においては、そういうことをわきまえている人は、それほど多くないように思われます。したがって往々にして、「みんなの意見で決まったことですので......」といって、責任者が負うべき責任をも回避するというようなことが起こってきます。
しかし、たとえ多数決で決まったことであっても、その責任者が「これは絶対によくない。自分の責任においてできることではない」と判断した場合は、そのことをはっきりと明言してやめさせるか、それができなければみずから責任者としての地位を潔く退くということも考えられると思います。とにかく責任者としての出処進退を明らかにするということです。それをせずして、「自分としては賛成しかねるのだけれど、全体で決まったことなので......」などというのは、責任者としてとるべき責任の自覚が欠けているということになるのではないでしょうか。
そうした態度が必要なのは、自分の部内の問題に限りません。会社全体の問題についても、必要があれば社長や重役に対して、みずからの責任において言うべきことを言わなければならない。そういう責任ある姿勢、態度をとってこそ部下や上司の信頼も集まり、力強い仕事を進めていくことができるのではないでしょうか。
【出典】 PHPビジネス新書『人生心得帖/社員心得帖』(松下幸之助著)