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現代経営者が強いられる挑戦とは何か――理念を再解釈せよ!

現代経営者が強いられる挑戦とは何か――理念を再解釈せよ!

(2017年11月 7日更新)

 
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すぐれた経営理念を有する老舗企業が、なぜ不祥事を起こすのでしょうか。事業を継承する経営者が果たすべき役割とは? 松下幸之助の経営哲学を紐解きつつ解説します。

 

*  *  *

 

経営理念は何を示しているか

今あらたに企業の不祥事が連続して起こっています。ことに今回は日本の工業界を代表する老舗企業であったことが印象的です。これまでもそうでしたが、今回の不祥事にも共通するのは、その企業の世評が元々低いわけではなく、むしろ高い評価を受けていたこと、また掲げられている経営理念の内容も特に不備があるわけではないことです。高い理想を掲げていた名門企業がなぜ不祥事を起こすのか。不可解とさえ思われます。

 

経営理念とは何でしょう。確定された定義は実はありません。経営学で簡潔にいわれるのは、「経営体を貫く事業の基本的信条や指導原理」のこと。経営者の立場で松下幸之助は、自らの経営に対する基本の考え方を20項目にまとめた著書『実践経営哲学』の第一項に「まず経営理念を確立すること」を挙げ、経営理念について「“この会社は何のために存在しているのか。この経営をどういう目的で、またどのようなやり方で行なっていくのか”という点について、しっかりとした基本の考え方をもつということ」と述べています。

 

多くの会社には社是、社訓、綱領、信条、経営方針、行動指針、企業憲章、クレドといったさまざまな呼び名の経営理念があります。最近の研究では、理念の構造には「企業の存在目的」「企業の価値観」「企業の理想・精神・ ビジョン」「企業の行動規範」という4つの要素があると論じられ、それぞれの企業理念がすべての要素を備えているわけではないものの、個性ある表現を凝らしています。つまり、個々の理念はその企業の本質を表現するものであることは間違いのないことなのです。

 

理念の存在だけでなく、浸透こそ課題

それなのに、すぐれた経営理念を有した企業がなぜ不祥事を起こすのでしょうか。明快な事実は、経営理念とはただ存在するだけでは効力がないということ。ここで考えなければいけないのは、実際に企業の組織を構成している社員のことです。

 

社員が自社の経営理念をどこまで理解しているのか。その文言を記憶しているかどうかではありません。理念の内容をよく理解し賛同し、それに基づいて行動できているかどうか。そうした社員の内面にまで理念が浸透してはじめてモラルを保つことができるわけです。

 

組織は何をもって活動の実体を表現できるのでしょうか。組織図はイメージにすぎません。指揮系統が示されていても、組織の各単位(構成員)がその折々に適切な行動できているかどうかは別の問題です。立派な理念を掲げて“これがわが社だ”と声高らかに宣言しても、理念を理解しないたった一人の不道徳な行動一つで、組織はとんでもない評価を下されることがありうるのが現実です。

 

まして企業は営利を求める組織です。なおさらその存在意義や活動のあり方が正当性を問われるのです。信頼を勝ち得なければ存続することはできません。経営理念はその企業の理想を示す旗印とはいえ、掲げているだけでは不十分。社員に徹底して浸透・伝播していなければ、社会が認めてくれないのです。

 

不祥事が起きるのは企業が理念として当然有しているはずのモラルが浸透できていない、何か決定的な課題があるからにほかなりません。その課題がどこにあるのかを突き詰めることが最重要事項だといってよいでしょう。

 

現代の経営者に強いられる共通の挑戦

組織とは不思議なものです。出来上がった瞬間がベストな状態であり、どんどん堕していきます。たとえば、組織のヒエラルキー(階級)が強いと官僚化を起こして、いわゆるパイプが詰まった状態になり、事なかれ主義に陥ったりします。

 

産業社会が進化し、歴史を重ねた企業が多くなりました。伝統は大きな武器である一方、肥大化した組織に経営理念を浸透させることは、現代の経営者にとって至難の技になりつつあるといえましょう。というのは、すでに経営理念が自分の立てたものではなくなっているケースが多いからです。

 

先述のように、松下幸之助は自著『実践経営哲学』の冒頭に「まず経営理念を確立すること」を挙げました。そして、「“何が正しいか”という人生観、社会観、世界観に立った経営理念をもち、それに基礎をおいて、時々刻々の経営を行なっていくことがきわめて大切だ」と説きます。それは自分が創業経営者であることが前提になっています。

 

これを継承する側の現代の経営者の立場ならばどう考えるべきでしょう。果たして創業者の経営理念が「人生観、社会観、世界観」の部分も含め、今でも普遍的であるかどうかをよく吟味し、その理解を自分の言葉でも表現しなければなりません。それができなければ、経営理念に説得力が伴わないのです。もしも理念が時代に即していないと感じたならば、自分なりに新しい経営理念を打ち立てる必要があるはずです。

 

伝統ある大企業の経営者に共通して求められること。それは予断を許さない明日のための戦略の確立もさることながら、同じレベルの重要事項として自社の経営理念を徹底して再解釈すること。そして自ら確信した理念、方針を組織に浸透させること。その努力を怠れば、見えないところで着実に組織がほころびていくことを肝に銘じておかなければいけません。それは事業を継承する次代の経営者がこぞって強いられる、きわめて大きな挑戦だと言えましょう。

 

松下幸之助経営塾

松下幸之助に学ぶ5つの原則


 

渡邊祐介(わたなべ・ゆうすけ)
1986年、筑波大学社会工学類卒業。同年、PHP研究所入社。普及部門を経て、88年5月に出版部に異動。多くの単行本制作に携わる。95年10月に研究本部に異動、松下幸之助関係書籍の編集プロデュースを手がける。98年4月より3年間、紀要『松下幸之助研究』を企画編集。2001年4月、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程(日本経済・経営専攻)に留学。03年3月、同大学大学院博士前期課程修了。修士号(経済学)取得と同時に復職。松下理念研究部主任研究員、研究部長、研究出版事業部長、研究企画推進部長を経て、現在、経営理念研究本部 本部次長。経営哲学学会理事。企業家研究フォーラム幹事。

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