ネガティブorポジティブ どちらのフィードバックが有用なのか?
2018年1月12日更新
フィードバック研究では、ネガティブなフィードバックがよいのか、ポジティブなフィードバックがよいのかが議論されることがあります。どちらが有用なのでしょうか。『フィードバック入門』の著者・中原淳氏の解説をご紹介します。
ネガティブフィードバックとポジティブフィードバック
フィードバックでは、「ネガティブなフィードバックがよいのか、ポジティブなフィードバックがよいのか」という研究がよくなされるのですが、これまでの論文で決定的証拠と考えられるものはありません。両者それぞれを支持する膨大な論文が併置しているというのが現状です。
ワンセンテンスで申し上げますと、「ネガティブなフィードバックがよいのか、ポジティブなフィードバックがよいのかは、時と場合による。That's all」です。
要するに、どんな言い方をしようが、パフォーマンスを通告するときは、ショックはショックなのです。研究会で読んだ論文では(この論文は極めて引用回数の多いものです)、むしろ、「disるな、ほめるな」とすらありました(論文に「disるな」とあったわけではありませんよ)。なぜなら、そのようなフィードバックを行ってしまいますと、感情に焦点があわされ、タスクに注意資源が向かないからです。
「鏡」のように結果をそのまま忠実に返す
拙著『フィードバック入門』では、フィードバックには「ポジ」も「ネガ」も必要であることを明記しつつ、しかしながら、その「二分法」にとらわれないことの重要性を書かせていただきました。僕がお伝えしたかったことは、ポジとネガを分けて、どっちが先か、どっちが有用か、という議論をすると、結論はつかない、という指摘です。
むしろ必要なことは、相手に、今の相手の状況を、「鏡」になって、時にスイートに、時にスパイシーに、しっかりと伝えることです。
むしろ、わたしたちは、「魔法」のように効くフィードバックの返し方がどこかにあるのではないか、と考えるパラダイムから抜け出さなくてはならないのではないかとすら思います。
「ポジティブフィードバック」のポイント
そして、ここからは僕自身の反省点なのですが、拙著『フィードバック入門』では「ネガティブフィードバック」の記述が多くなっており、「ポジティブフィードバック」については、あまり触れられていないという欠点があったように思います。
しかしながら、「ポジティブフィードバック」のポイントは、それほど「ネガティブフィードバック」と変わりません。相手の「SBI情報」をしっかりと観察し、それを具体的に行動レベルの表現で、相手に通知することです。
SBI情報とは、以下の3点が一揃いになった、相手の状況に関するデータのことです
・Situation(状況):「 」さんの、「 」のとき(状況)の
・Behavior(行動):「 」の行動が
・Impact(成果):「 」のような点でよかったと思います
「ざっくり、ばっくり、ポジティブフィードバック病」
「SBI情報を明示した具体的なポジティブフィードバック」に対して、あまり相手に「刺さらない」のが、「ざっくり、ばっくり、頑張ってるね」とか、「まるっと、いいじゃん」といってしまうようなフィードバックである、と教科書的には言われております。相手のことを賞賛しているようで、何が「頑張ってるね」なのか、何が「いいじゃん」なのか、さっぱりわかりません。
僕自身は、どうもこの「ざっくり、ばっくり、ポジティブフィードバック病」に罹患しているような気がします。だから書かなかった(笑)いや、そんなことはない。
大切なのは「なるべく具体的に」です!
フィードバックとは、相手への情報通知による行動の強化と修正なのですから、強化したい行動や修正したい行動を、なるべく具体的に告げることが重要です。そして、そのためには「相手を観察」していなければなりません。
リーダーシップとは「観察」にはじまり、「観察」に終わるものだと僕は思います。
中原 淳(なかはら・じゅん)
立教大学 経営学部 教授。立教大学リーダーシップ研究所 副所長(兼)。大阪大学博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学准教授等をへて、2018年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。
単著(専門書)に「職場学習論」(東京大学出版会)、「経営学習論」(東京大学出版会)。一般書に「研修開発入門」「駆け出しマネジャーの成長戦略」「アルバイトパート採用育成入門」など、他共編著多数。働く大人の学びに関する公開研究会 Learning bar を含め、各種のワークショップをプロデュース。
民間企業の人材育成を研究活動の中心におきつつも、近年は、最高検察庁(参与)、横浜市教育委員会など、公共領域の人材育成についても、活動を広げている。一般社団法人 経営学習研究所 代表理事、特定非営利活動法人 Educe Technologies副代表理事、特定非営利活動法人カタリバ理事。