組織の『成長哲学』は明確になっているか?
2018年10月11日更新
社員一人ひとりの成長哲学を明確にし磨いていくためには、組織側もまた「組織としての成長哲学」を持つことが大切です。そして、組織の成長哲学を明確にするためには、次の3つのポイントを意識するとよいでしょう。
【組織の成長哲学を明確にするための3つのポイント】
1.組織にとっての成長とは何かを明確にする
2.組織として、社員にどのような人間的成長を望んでいるかを明確にする
3.組織として、社員の人間的成長に対してどのような姿勢でいるかを明確にする
前回の記事では、「1.組織にとっての成長とは何かを明確にする」について解説をしました。今回は「2.組織として、社員にどのような人間的成長を望んでいるかを明確にする」について解説を行います。
会社組織は、人間性の向上を図る場所でもある
組織で働く人々にとって、会社組織は単なる「お金稼ぎの場」ではありません。生きるため、食べるためだけに働くというのであれば、人の一生は野生動物と同じです。慶應義塾の創設者である福沢諭吉も、次のように語っています。
蟻などは、食物を得るだけでなく、冬に備えて穴を掘り巣を作り、食糧を貯えている。ところが世の中には、この蟻と同様の行為だけで、すっかり満足している人間がいる。
(中略)
一身の衣食住が確立すれば、それで満足するというのなら、人の一生はただ生まれて死ぬだけのことになる。
(中略)
わが心身の活動も活発におし進めず、人間本来の目的を達成しないような者は、虫けらと同じ愚か者と呼ぶしかない。
『学問のすゝめ』(福沢諭吉 檜谷照彦現代語訳 三笠書房)
虫けらと同じ愚か者とは、福沢諭吉はなかなか厳しい表現をしますね。ですが、私は福沢諭吉の言っていることは一理あると思っています。
物に溢れた現代は、人類史上もっとも衣食住に恵まれた環境です。特に日本という国は、世界レベルで見ても恵まれた環境と言えるでしょう。日本の歴史上では、たしかに国民の衣食住がままならい時代もありました。
しかし、現代の日本では飢饉で大勢の人間が亡くなることもありません、内戦や革命や国家間の戦争で多くの命が奪われることもありません。そのような時代に生きているにもかかわらず、衣食住のためだけに生きる働くというのであれば、それはもはや自ら人間らしく生きること放棄しているといっても過言ではありません。
人間性の向上とは、人間らしさを磨くこと
話を戻しますが、福沢諭吉の言葉にある「心身の活動」や「人間本来の目的」とはいったい何でしょうか。それは、人間性の向上を図りながら社会活動を行うことではないでしょうか。
人は働くことを通じて、その職に関する専門性の向上だけではなく、「人間性」の向上をも図っていかねばなりません。
人間性とは様々な解釈があってよいと思いますが、筆者なりに簡単に言わせてもらえるならば、それは「らしさ」ではないでしょうか。人間性の向上とは、つまるところ人間らしさを磨く、ということです。
例えば、人間らしさのひとつに哲学があります。因果関係を突き止めようとしたり、原理原則を求めたり、より良い人生観を追求するというのは、人間性と言えるのではないでしょうか。倫理・道徳などもそうですし、感性を磨き豊かにすることも人間らしさと言えるでしょう。
組織として、社員にどのような人間的成長を望んでいるかを明確にする
それでは、組織の側は働く人の人間的成長(=人間性の向上)をどのように図っていけばよいのでしょうか。働く人の個人任せにするのは論外ですが、組織として人事部や人材開発室を設置したり、研修計画を立てるだけでよいのでしょうか。
組織の規模やあり方によってそれらが必要な場合は当然あるでしょうが、それ以前に、すべての会社組織に必要なのは、その組織で働く人々の人間的成長について、組織の側が明確な方針を持っているかどうかです。
どのように持つかは組織次第です。ある組織は「経営理念」の文中にちりばめられていたり、ある組織は「人事理念」を持っていたり、またある組織では「わが社で働く人々のあるべき姿」といった形で明文化していたり。
ここでは、伊那食品工業の経営理念にある「社是を実現するための社員としての心がけ」を紹介します。伊那食品工業と言えば48期連続で増収増益を達成し有名になった、長野県にある寒天の製造会社ですが、48基増収増益という数字以上に、働く社員皆さんの人間性の高さが大変有名です。
【社是を実現するための社員としての心がけ】
■ファミリーとしての意識をもち、公私にわたって常に助け合おう。
■創意、熱意、誠意の三意をもって、いい製品といいサービスを提供しよう。
■すべてに人間性に富んだ気配りをしよう。
■公徳心をもち社会にとって常に有益な人間であるように努めよう。
(伊那食品工業株式会社 ホームページより)
この文章を読むと、伊那食品工業がいかに人間性の向上を重視している組織であるかが本当によくわかり、読む者の心がギュッと引き締まります。
私はほとんどすべての組織は、「組織としての成長哲学」をすでに持っていると考えています。しかしその「組織の成長哲学」を、明確にできていない組織、本音と建て前が違う(いっていることと、やっていることが違う)組織、組織で働く人々に「組織の成長哲学」をしっかりと伝えきれていない組織、が多いのもまた事実です。
次回は、【組織の成長哲学を明確にするための3つのポイント】の「3.組織として、社員の人間的成長に対してどのような姿勢でいるかを明確にする」について解説いたします。
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延堂溝壑(えんどう こうがく)
本名、延堂良実(えんどう りょうま)。溝壑は雅号・ペンネーム。一般社団法人日本報連相センター代表。ブライトフィート代表。成長哲学創唱者。主な著書に『成長哲学講話集(1~3巻)』『成長哲学随感録』『成長哲学対談録』(すべてブライトフィート)、『真・報連相で職場が変わる』(共著・新生出版)、通信講座『仕事ができる人の「報連相」実践コース』(PHP研究所) など。