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危機的状況でリーダーに求められる「自主独立の気概」とは?

2020年4月 9日更新

危機的状況でリーダーに求められる「自主独立の気概」とは?

未曽有の危機的状況のなか、経営者・リーダーには「自主独立の気概」が求められています。

コロナ禍で問われる自主独立の気概

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて景気が急激に落ち込む中で、政府による大規模な緊急経済対策に注目と期待が集まっています。特に規模の小さい観光業や飲食業が受けた打撃は計り知れず、そうした企業が従業員と家族を守るために政府の補償などを求めることは当然の権利です。
一方で、第三者からの援助を当てにするだけではなく、自分にできる範囲で精いっぱいの努力をして、うまくいかなければ責任を取るという覚悟(=自主独立の気概)を経営者やリーダーがもっていなければ、危機を乗り切ることは難しいでしょう。

松下幸之助に学ぶ自主独立の精神

松下幸之助は、自主独立の精神を非常に重視していました。そのことが如実に表れている発言をご紹介します。

考えてみると、わが国の経済面の復興発展は、たしかにすばらしいものだと思う。(中略)けれども、終始一貫いわば自力によってこの復興発展をかち得たかというと、決してそうではない。これまでは国の防衛はもちろんのこと、新しい知識や技術、はては児童の給食に至るまで、アメリカやその他諸外国から受けた援助というか、他力というものは並大抵でなかったのである。
しかし、これだけ経済も発展し、独立国としての実力を身につけてきたわが国である。いまこそ、自主独立の精神を持ち、いろいろな意味において、ほんとうに自力で進まねばならないと思う。(中略)しかるにお互いの頭に、知らず知らず他に頼ろうという気持ちが、いまだに残ってはいないだろうか。(中略)
自主独立の精神なく他に頼ろうとするものは、いずれ他から見捨てられるだけでなく、おのずから滅亡の道を歩まざるを得ないと私は思うのである

『新政経』188号・新政治経済研究所

国家だけでなく、企業や個人も、自主独立の気概がなければ必ず衰退・滅亡していくというのが幸之助の持論でした。なぜ、幸之助はそれほどまでに自主独立の精神を重視していたのでしょうか。その原点は、わずか9歳で丁稚(でっち)奉公に出され、誰にも頼ることのできない環境下で独力で生きてきた自身の体験にあると思われます。好んでそういう状況を選んだわけではなく、依存が許されない厳しい環境で生きざるを得なかったみずからの可能性が大きく開花し、後々の成功につながった実体験をふまえ、「人間には無限の可能性がある。しかし、自主独立の状況におかれないとその可能性が発揮されない」という考えをもつに至ったのでしょう。
23歳で起業し、経営者としての経験を重ねる過程で、その考えは一層強くなり、一人ひとりが自主独立の気概をもって仕事に取り組めるような会社づくりに腐心しました。そして、そうした考え方に則った経営の進め方を、幸之助は「自主責任経営」ということばで表現したのです。

自主責任経営の実践を阻む3つの姿勢

自主責任経営は比較的シンプルな考え方ですが、いざ実践するとなると容易ではありません。「わかる」と「できる」は違うといいますが、わかっていてもできない典型例が自主責任経営といえるでしょう。
では、なぜ、実践が難しいのでしょうか。それは、組織のなかで仕事をしていると、往々にして次のような姿勢に陥ってしまうからだと考えられます。

1.他責の姿勢
うまくいかない(成果が上がらない、問題が解決しない、部下が育たない、等)原因を他に求め、自分には非がないと考えてしまう姿勢

2.他力本位の姿勢
うまくいかなくても、いざとなれば誰か(会社、上司、等)が何とかしてくれるだろうと考え、自分の力で打開する意識が希薄な姿勢

3.待ちの姿勢
自分の意志で仕事を創り出す意識が弱く、会社や上司から与えられた課題に取り組むのが仕事だととらえる姿勢

一方、自主責任経営の行き方を個人の心得のレベルで説いたのが、「社員稼業(しゃいんかぎょう)」という考え方です。松下幸之助が提唱する社員稼業とは、組織に属する一人ひとりが経営者の感覚をもち、主体的に創意工夫を重ねつつ仕事に取り組む態度を意味します。
なぜ、そうした働き方が大切なのか、その意義について幸之助は「そうすれば、単に月給をもらって働いているといったサラリーマン根性に終わるようなこともなく、日々生きがいを感じつつ、愉快に働くこともできるようになる(※1)」と述べ、そうした意識で仕事をしたほうが働きがいを感じるのだと、事あるごとに主張していました。
表現は異なりますが、同じような趣旨の発想・発言をする経営者はたくさんいます。代表的な例として2名の発言をご紹介します。

いわれたことしかやらない、いわれたことならソツなくこなす受け身型の秀才ではダメです。『自分が社長だったらどうするだろう』という経営者感覚=オーナーシップをもって、小さな仕事にも全力で取り組むことでおもしろさを見出し、あなたの能力を伸長させるのです(※2)

ユニ・チャーム株式会社 創業者 高原慶一朗

仕事ができる人は、『アイ・カンパニー(I company)の経営者』という意識で社会に関わり、自らの強みを見極め、アイ・カンパニーを繁栄させていくためのスキルを常に磨いている(※3)

株式会社リンクアンドモチベーション 創業者 小笹芳央

ここまで「自主責任経営」と、「社員稼業」の考え方についてご紹介しました。いずれの概念も、一人ひとりが「仕事や人生の主役は自分である」という意識をもてば、企業経営も個人の生き方も力強さを増すという考えがその根底にあります。
現在、世界中が危機と混乱の真っ只中に置かれていますが、いずれ事態は収束するはずです。そして、危機が去った後の世界には新しい機会が待っていることは、過去の歴史を振り返ってみても自明です。ただし、その機会を活かすことができるのは、自主責任経営や社員稼業の考え方を理解し、実践する人々に限られるでしょう。そうした人材をどのように育てればいいか、そこに知恵を絞っていくことがこれからの企業内人材育成のテーマとなると思われます。

※1 出典:『社員稼業』松下幸之助著(PHP研究所)
※2 出典:『賢い人ほど失敗する』高原慶一郎著(PHP研究所)
※3 出典:『アイ・カンパニーの時代』小笹芳央著(中央公論新社)

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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