松下幸之助に学ぶ「自然の理法」
2020年4月17日更新
自然の理法とは、人間の力を超えた、世の中を支配している原理原則のことです。パナソニック創業者であり、PHP研究所を創設した松下幸之助の思想・哲学の根幹をなす重要な概念です。
この世のあらゆることは、やるべき当たり前のことをきちんとやっていればおのずとうまくいきますが、逆にそれらをやっていなければうまくいかないように仕組まれています。それが自然の理法なのです。
自然の理法の特質
松下幸之助は、94年の生涯を通じて数々の逆境に見舞われましたが、それらの苦難を乗り越えるたびに、人間の力を超えた法則・真理のような存在を強く意識するようになっていきました。それに関して、次のような表現をしています。
「人間が自ら考え、そして働く部分は、全体から見れば百分の一、二百分の一であって、大部分は自然によってすでに仕組まれ、裏づけられている」(『PHPのことば』)
「証明されるもの、論理的に適合するものだけが存在価値があると考えたら、間違いだと思う。いま言ったような、目に見えない力、目に見えない運命、そういうものがいかに大きく働いているか」(『リーダーを志す君へ――松下政経塾塾長講話録』)
いつごろからそういう境地に至ったのかは明らかではありませんが、幸之助には、この宇宙・大自然には、人間の意志や意欲を超えた法則・真理、すなわち自然の理法が働いており、それに順応することが大切だという考えをもっていました。
松下幸之助が説く「生成発展」「対立と調和」
さらに幸之助は、こうした自然の理法が宇宙・大自然にもたらす特質として、「生成発展」と「対立と調和」があると説きます。
「生成発展」
幸之助は、自然の理法が目指している方向は、万物、万人、さらには宇宙全体のかぎりない生成発展だと考えました。生成発展とは、古いものが滅び新しいものが生まれるということで、生あるものが死にいたるのも、生成発展の一つの姿なのです。
世の中にあるすべてが生成発展のリズムに則っているならば、お互いに日に新たな心構えで創意と工夫(≒イノベーション)を重ねることで、繁栄、平和、幸福を生み出すことができるというのです。そう考えると、「なすべきことをなしていれば、物事はうまくいく」という希望や安心が生まれ、活動への前向きなエネルギーが高まります。
「対立と調和」
もう一つ、自然の理法の特質として考えられているコンセプトは「対立と調和」です。ここでいう対立とは、一般的な概念とは異なり、万物それぞれが個性、特質をもち、独立して存在している姿をいいます。どんなものでも、それぞれに与えられた天与の個性や特質があって、他のものがこれに代わることはできません。この関係を保つことが対立という概念です。
この考え方を組織マネジメントに応用するならば、一人ひとりが個性・特徴を活かしてその人らしい仕事をしつつ(対立≒ダイバーシティ)、お互いが尊重しあい協力すること(調和≒インクルージョン)で、仕事の成果が上がるのです。
これからのリーダーが学ぶべきもの
「自然の理法」という概念が、どのようにして松下幸之助のなかで芽生えていったのか、そのプロセスは明確ではありませんし、なぜそう言えるのか、主張の根拠になるエビデンスもありません。しかし、戦後のPHP研究を通じて、その概念が整理され深化していくにつれて確固とした思想哲学に昇華し、松下電器(現・パナソニック)の経営を進めていく際の指針となっていったことは紛れもない事実なのです。
ひるがえって、現代社会を見た時、全世界で混乱が続き、終息の兆しも見えません。この状況下で、我々には何が求められているのでしょうか? それは、人間が大自然の中で生かされているという事実に感謝の気持ちを抱くことと、人間の力を越えた大きな存在に対して謙虚に素直になることではないでしょうか。
「平凡なリーダーは見える(visible)ものだけを見るが、非凡なリーダーは目に見えない(invisible)ものも見る」という名言を残した経営者がいました。目には見えないけれど、厳然として存在するものを追求した松下幸之助の思考法・発想法を、これからのリーダーにはぜひ学んでいただきたいと思います。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。