今、問われる管理職の思考力
2020年6月12日更新
昨今の人材開発に関する相談事項として多くの企業から寄せられるテーマの一つに、「管理職の思考力強化」があります。 変化の激しい経営環境のもと、前例にとらわれない柔軟な発想や、先を見通す先見力、本質を見抜く洞察力などが部門責任者には求められているにも関わらず、そうした能力を磨き高める機会がないまま、管理職になった方が多いようです。そこで、思考力を強化するためには、どうすればいいのか考えてみたいと思います。
見えないものを見るためのフレームワーク
因果関係ということばがあるように、世の中のできごとは、すべて「原因」と「結果」から構成されます。両者のうち、「結果」は、販売計画達成率、在庫量、離職率、借入金残高、等々のように形式知化されていることが多いので認識しやすいものです。一方の「原因」は、暗黙知に覆われている部分が多いので認識しにくく、また認識できたと思っても実は真の原因(=真因)ではないということが往々にしてあります。
ともすると、目に見える「結果」だけを追い求めて自分はきちんとマネジメントができていると思い込みがちですが、結果を生み出す元である「原因」をつかまなければ、業績の向上やイノベーションの実現は難しいでしょう。
「氷山モデル」で思考を深掘りする
そこで、思考を深掘りするための便利なツールとして「氷山モデル」をご紹介いたします。
氷山は水面上の「見える部分」と、それを支え水面下に沈んでいる、「見えない部分」から構成されています。これをメタファーとして、目に見える事象(結果)は何か、それを引き起こしている目に見えない事象(原因、真因)は何か、それぞれを追究する際のフレームワークとして考案されたのが氷山モデルなのです。
例として組織風土の変革について考えてみましょう。組織風土とは、組織を構成するメンバーの思考や行動に影響を与える特性の総称です。組織風土は、ハード的要素(組織構造、制度、規則、業務内容・目標など、形式知化されたもの)と、ソフト的要素(仕事を進める際の前提、人間関係の背後にある暗黙の了解、信頼関係、協力関係、やる気、組織への忠誠心、無意識の行動など、暗黙知化したもの)の2種類の要素から成ります。
この2つの要素を、「氷山モデル」に当てはめると、ハード的要素は水面上にあって目に見える状況にあるのに対し、ソフト的要素は水面下に隠れているのでその存在を認識しにくいという状況にあります。
組織を変えていくためには、職場(水面上)で起きている現象だけにとらわれるのではなく、それらを引き起こしている水面下の真の原因(真因)を正しく把握することが不可欠です。
基本は素直な心で考え抜くこと
管理職の仕事は、部門経営に関するあらゆる事象(結果)を生み出した原因をつかみ、再現性のある仕事をすることです。そのためには、とらわれのない、素直な心になって、水面下にある、目に見えない真因は何なのか、意識を向けることが大切になります。
そして複雑性を増す困難な状況の下では、答えはそう簡単には見つかるものではありません。先日、将棋の藤井聡太・七段と対戦した渡辺明・棋聖が、勝負の白熱した終盤、次の一手を出すまでに1時間もの時間をかけて考え抜いたという報道がなされていました。また、松下幸之助は、「考えて、考えて、考え抜けば、天から答えが降りてくる」という趣旨のことばを遺しています。
アフターコロナの時代を生き抜くためには、部門責任者の方がたには、深く、そして繰り返し考え抜くという姿勢を大切にしていただきたいものです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部部長
1990年慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。