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リモートワーク時代のチーム運営~松下幸之助のマネジメントに学ぶ

2020年7月29日更新

リモートワーク時代のチーム運営~松下幸之助のマネジメントに学ぶ

働き方が大きく変化する状況のもと、組織のあり方やチーム運営の手法も変革を迫られています。リモートワークなどで物理的な距離があっても精神的なつながりを感じることができるようなチームをつくるにはどうすればいいのでしょうか? マネジメントの課題と解決のヒントを、松下幸之助の考え方から探ってみたいと思います。

INDEX

令和の時代に松下幸之助を学ぶ意義

松下幸之助は明治27年に和歌山で生まれました。9歳で大阪に出て丁稚奉公をしたのち、大阪電燈(現在の関西電力)を経て、23歳で松下電気器具製作所(現在のパナソニック)を創業しました。昭和21年にはPHP研究所を、昭和54年には松下政経塾をそれぞれ創設し、平成元年に94歳で亡くなりました。
没後、数十年経った今も、その経営哲学を学ぼうという方々が国の内外に多数存在します。その理由は、MBAに代表される分析主義的な経営手法が行き詰まり、人の心をベースにした経営の進め方について学びたいという方々が幸之助の経営に注目しているからだと考えられます。

「分化」と「統合」

幸之助のマネジメントの特徴を一言で言えば、「分化」と「統合」のバランスを重視したものであったということです。分化とは、個人が組織から物理的、制度的、認識的に分けられることを意味します。別の表現をするなら、自律しているということです。一方の統合とは、個人が同僚・組織・社会との一体感をもてることです。
分化と統合のバランスの取れた事例として、一昔前の「SMAP」や最近の「嵐」など、アイドルグループを例に考えてみましょう。彼らは、一人ひとりが自律(分化)していて、グループの看板がなくても独立した俳優やタレントとして活躍しています。かといって、皆がバラバラになっているわけではなく、グループとしての活動にも力を注ぎ、メンバーがそろった時には、より大きな力を発揮しています(統合)。
分化と統合は一体で運用することが大事です。なぜならば、分化だけだとメンバーがばらばらになり、統合だけだと依存心が生まれるリスクがあるからです。したがって、分化と統合をセットでバランスをとることが大事なのです。
次に、分化のマネジメント、統合のマネジメント、それぞれについて松下幸之助の考え方・手法をご紹介いたします。

分化のマネジメント

幸之助がマネジメントを行う上で目指していたのは「社員稼業(しゃいんかぎょう)」の意識をもった集団をつくろうということでした。社員稼業とは、「自分が経営者である」という意識で自分の仕事に取り組むということです。そのために幸之助が実践していたことが、以下の3つです。

1)問いかけの多用
幸之助の口癖が「君、どない思う」(どう思う)でした。問いかけられることによって、仕事の意味を考える社員が育っていきました。

2)任せて任せず
任せることで人を育てましたが、任せっぱなしということではありませんでした。中間報告、結果報告も受けながら、最後の結果は自分がもつという自覚をもっていました。

3)寛厳よろしきを得る
人を指導する際、寛大さと厳しさを絶妙に使い分けていました。やさしいだけでは、仲良しグループになってしまいますし、厳しさだけでは社員が委縮してしまいます。その絶妙なバランスが、組織に対するロイヤリティ向上と、高いハードルに向かってチャレンジする風土を作るのです。

統合のマネジメント

統合について、幸之助は著書の中で次のように言及しています。

会社というものは、個々の社員の実力が高まることが肝要です。しかし、個々の実力が高まったからその会社はうまくいくかというと、必ずしもそうではありません。個々バラバラではうまくいかないのです。それをうまくまとめていく力がその会社になければいけません。

また、統合の状態を組織の中につくるために、幸之助は次のようなことを心がけ、実践していました。

1)ミッション・ビジョンの共有にこだわる
2)「対話中毒」になるほど、あの手この手のコミュニケーションに徹する
3)感謝し、ねぎらい、自らの過ちには謝るなど、ありのままの自分をさらけ出す

部下に素直に感謝する

最後に、個と組織が統合するエピソードをご紹介しましょう。
松下電器の創業60周年の記念式典(1978年)でのこと。冒頭、創業者・松下幸之助が挨拶に立ちましたが、延々と社員に対する叱責(「最近の松下電器は創業の精神を失っている」等々)が続きました。
お祝いの場なのに、叱責のまま挨拶が終わるのかと誰もが思っていたとき、幸之助はステージの中央に歩み寄り、「この60年間、大きな仕事をして下さったみなさんに心よりお礼を申し上げたい」と言って、深々と3回、最敬礼をしたのです。その瞬間、重苦しい雰囲気に覆われていた会場が、感動の涙にあふれ、出席者の多くが幸之助のためにがんばろうと強く感じました。
組織のつながりをつくるうえで、リーダーが部下に対して感謝する素直さをもつことが大事であるということを示唆する事例と言えるでしょう。

リモートワーク時代のチーム運営

ここまで松下幸之助のマネジメントの考え方や発言、エピソードをご紹介しましたが、そのほとんどが、昭和30年代から40年代の日本の高度成長期に残されたものです。しかし、時代を超えた今も、その本質は色あせることなく、個と組織を活かす方策を示してくれます。
今後ますますリモートワークが広がって、個と組織との関係性が希薄になる可能性があるからこそ、分化(「自分の仕事を経営している」という感覚)と統合(「自分は組織や他のメンバーとつながっている」という感覚)のマネジメントが重要性を増すと思われます。

参考文献:『なぜ日本企業は勝てなくなったのか』太田肇著(新潮社選書)

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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