リーダーシップを高める目的とは? 定義や種類、効果的な高め方を解説
2021年6月 9日更新
リーダーシップとは、組織の目標を達成するためにメンバーの行動に影響を与えること、またその力のことを指します。端的に表現するなら「組織をひっぱる機能」といえるでしょう。
リーダーシップは、経営層や管理職だけでなく、社会で活躍する上ですべてのビジネスパーソンに必要不可欠なものです。ただし、必要性は理解しているものの、その定義や本当の意味についてはよく理解できていないという方も多いでしょう。リーダーシップを身につけるには、まずはその意味を正しく理解することからスタートする必要があります。
そこで本記事では、リーダーシップの定義やマネジメントとの違い、スタイルや種類、現場で発揮するために必要なスキル、さらに、その高め方についてもご紹介します。
リーダーシップの概要
リーダーシップについて、経営層や管理職だけに必要なものであると認識している方が多いかもしれません。しかし、実際には、すべてのビジネスパーソンに求められるものといえるでしょう。ここではリーダーシップの定義をはじめ、マネジメントとの違いやスタイルなどについて解説します。
リーダーシップの定義
リーダーシップについて、PHP通信ゼミナール『プレイングマネジャーの仕事術』では次のように定義しています。
【リーダーシップの定義】
組織の目標を達成するためにメンバーの行動に影響を与えること、またその力のこと。
その力とは、統率力・影響力・動機づけ能力(人をやる気にさせる力)など。
この定義の中にある「統率力」とは、目標達成に向けて組織やチームのメンバーを率いる力のことです。つまり、「自分はこの人についていきたい」と思わせる力を指します。「影響力」とは、こちらからの働きかけによって人の心を動かし、行動や考え方を変えさせる力です。自分がその場にいなくてもメンバーに自発性を促し、行動させる力を意味します。「動機づけ能力」とは、「人をやる気にさせる力」を意味します。人に動いてもらうには、何らかの「動機」が必要です。内発的な仕事の達成感や貢献感、外発的な収入や賞賛などを使い分け、メンバーが自ら動機づけできるようサポートする力がリーダーシップなのです。
リーダーシップを身につけるなら、この「統率力」「影響力」「動機づけ能力」の3つの力をまんべんなく伸ばしていく必要があるでしょう。
マネジメントとの違いは「視野」
リーダーシップとマネジメントとの違いは「視野」にあります。ここで言う視野とは「どの範囲を見るか」を意味します。
リーダーシップは前述のとおり、組織における目標達成に向けてメンバーの行動に影響を与える力のことです。目標と結果のいずれにも着目し、既存の仕組みをブラッシュアップするだけでなく、新たな創造によって組織全体の成果を導くことが役割といえます。
一方、マネジメントとは、目標達成に向けた方法を決めて管理することです。マネジメントの役割には次のようなものがあります。
・綿密な戦術の立案
・リスク回避を目的とした業務改善
・人やもの、お金などのリソース調整
組織の拡大局面においては、責任範囲の設定と、結果に責任を持つ人が必要となります。これがいわゆるマネジャーです。マネジャー はあらゆる仕組みやリソースを管理し、組織として成果を上げるよう率いる人を指します。
つまりリーダーシップは「どの目標に向かって進むのかを示すこと」、マネジメントは「いつ・どのように業務を進めるのかを示すこと」といった点で異なります。リーダーシップにおいては、将来に向けた長期的な視野で見る必要があるのに対し、マネジメントにおいては、より短期的な視野に立って考える必要があります。
いずれも組織において重要な役割を果たすものであり、目標の達成においても欠かすことができないものです。
スタイルは人それぞれ異なる
リーダーシップには十人十色のスタイルが存在します。なぜなら、人はそれぞれ異なる性格を持ち合わせているからです。
そこでまず、「これなら自分らしいリーダーシップを発揮できる」というスタイルを獲得 することが重要です。
例えばスポーツにおけるキャプテンのように、元気な声でメンバーを鼓舞したり、時に叱咤激励したりなど、「力強さ」を軸としたスタイルが適している人もいます。また物静かに、論理的にチームを導くほうが適している人もいるでしょう。さらに、メンバーの習熟度に応じて、これらのスタイルを上手く使い分ける必要もあります。
リーダーシップの4つの種類
リーダーシップは「指示命令型」「コーチ型」「支援・サポート型」「委任型」の4つの種類に分けることができます。 この4つは1977年にポール・ハーシーとケネス・ブランチャートが提唱した「状況対応型リーダーシップ」(Situational Leadership=SL理論)がベースとなっています。
SL理論は「部下の習熟度や状況に合わせてリーダーシップのスタイルを変える必要がある」という考えのもとにつくられています。つまり、画一的な方法ではなく、部下の習熟度に合わせた方法の選択が重要であると提唱しているのです。以下、リーダーシップにおける4つの種類について、それぞれの特徴を解説します。
新人向けの「指示命令型」
SL理論では、仕事を覚えきっていない 新人を対象とする場合、「指示命令型」のリーダーシップを使うべきとしています。指示命令型の特徴は、具体的な指示が多く、直接的なサポートはあまり行わない点です。
また長期間ではなく、短期間で完了できるタスクを与え、自分でやりきる経験をしてもらうことにより部下の成長を促します。この際、部下の成長のサインを見逃さないよう、注意深くモニタリングすることが必要です。
経験の浅いメンバー向けの「コーチ型」
業務をある程度こなすことができ、やる気はあるものの、経験不足に課題のある部下には「コーチ型」のリーダーシップを用いましょう。密にコミュニケーションをとり、業務の意義や目的をしっかりと伝えることで、やる気と自信を引き出します。
ただし業務内容については上司が決定し、その責任も上司が引き受けるようにしてください。「指示命令型」のリーダーシップと同様、部下の変化は注意深くモニタリングし、適宜フィードバックや助言をすることが必要です。
コーチ型のリーダーシップによって仕事に対する責任感を芽生えさせ、いずれは部下自身にリーダーシップを発揮してもらえるよう促しましょう。
中堅向けの「支援・サポート型」
業務への深い理解があり、遂行能力はあるものの、重要な場面での判断に課題がある中堅社員には「支援・サポート型」のリーダーシップを用いてみてください。
すでに自分で仕事を遂行できる中堅社員には、業務に対する具体的な指示は必要ありません。業務ではなく、事業全体のポイントや意思決定の判断基準などを細かく伝えます。
「支援・サポート型」のリーダーシップの目的は「自信を持ってもらう」ことです。適切な賞賛や承認によって部下をサポートしましょう。
ベテラン向けの「委任型」
自主性および業務の習熟度ともに高い安定したベテラン社員向けには、「委任型」のリーダーシップを用います。委任型では、仕事のやり方や内容はもちろんのこと、課題解決の方法や基準も、すべて本人の判断に任せましょう。
マネジャーが行うことは、問題提起です。なぜなら対象はスキルとモチベーションのいずれも高いベテラン社員であり、自身で結果を出せる人だからです。
部下との話し合いによって共通の目標や課題を設定し、その遂行には基本、口を出しません。「このプロジェクトをより効率的に進行するために不足しているものは何だと考えますか?」などといったように、導く質問でマネジメントをする必要があります。
ただし成果の報告については、「いつ」「どのように」といったルールを設ける必要があるでしょう。
リーダーシップの発揮に必要となるスキル
ここまで紹介したリーダーシップについて紹介してきましたが、その発揮には、まず何よりも「主体性」が不可欠です。そして「課題解決能力」「目標設定能力」「コミュニケーション能力」の3つのスキルが必要となります。組織を導くリーダーには、いずれも欠かせないスキルばかりです。以下、それぞれについて、解説していきます。
強い責任感がもたらす主体性
リーダーシップを発揮するためには「強い責任感がもたらす主体性」が欠かせません。主体性はリーダーシップの根幹となる部分であり、仕事に対する当事者意識ともいえます。
主体性は使命感とも言い換えることができるでしょう。主体性を持つ人は、指示されたことを実行するだけではなく、すべてを自らの課題として捉え、組織の中心となって仕事を推し進めていきます。
組織のリーダーとなる人は、メンバーの責任までも引き受けるほどの意識が必要です。その主体的な姿勢によって、メンバーに規範を示します。
チームによる課題解決能力
リーダーシップの発揮には「チームによる課題解決能力」も重要な役割を果たします。組織のリーダーはメンバーの目指すべき方向性を提示し、その実現を阻んでいる課題を具体的に伝えなければなりません。
まずはリーダー自身が自社の存在価値や経営理念、市場におけるポジションや優位性 などを正しく理解する必要があります。そして理想の姿と現状とを照らし合わせ、課題を抽出します。
ただしその課題を自分一人で解決してはいけません。どんなに優秀なリーダーでも、自分一人でできることには限りがあります。組織やチームとして課題解決に取り組み、成果を出すことが求められるのです。
つまり、リーダーには、抽象的な課題を組織全体や 部下が理解しやすいレベル、タスクにまで具体化し、チームの成果につなげていく力が求められるのです。
目標設定能力
リーダーシップを発揮する上では「目標設定能力」も重要です。リーダーが部下に対して指示をする際、目標が曖昧なものであれば、結果もおのずと曖昧なものになります。わかりやすく言うと、次の5つで構成された具体的な目標が必要です。
- いつ(When)
- どこで(Where)
- だれと(Whom)
- なにを(What)
- なぜ(Why)
- どのように(How)
この「5W1H」を軸として、実現可能な目標を掲げます。ただし、リーダーは計画を立てるとともに、急なトラブルなどに備えた代替案を準備しておかなければなりません。リスクに備えることも、目標設定能力の1つです。
会社全体の方針と自部門の目標のいずれをも考慮し、部下のスキルや経験に配慮しながらも、成果を最大化することがリーダーの役割といえます。そのためにも目標設定能力を普段から意識して、高めておきましょう。
人を動かすコミュニケーション能力
「人を動かすコミュニケーション能力」もリーダーシップの発揮には欠かせません。リーダーは組織全体やチーム、個人をコミュニケーションによって動かす立場といえます。
メンバーが主体的に活動する組織を形成するためには、リーダーが具体的な目標とタスクを正確に伝える必要があります。また、目標を達成にむけて高いモチベーションを維持するための優れたコミュニケーション能力が求められます。
また、コミュニケーションを取りやすい社風や組織文化の醸成もリーダーの役割といえます。リーダーシップを発揮するには、コミュニケーションなしには何も進まないといっても過言ではありません。
リーダーシップを高める3つの目的
リーダーシップを高める目的には「チームの団結を維持すること」「目標やタスクを完遂すること」「個人のスキルや能力を開発すること」の3つがあります。リーダーシップの発揮に必要となるスキルを高めたとしても、その目的について正しい理解がなければ、発揮する方向性を見失いかねません。ここでは代表的な3つの目的について詳しく解説し、その特徴について見ていきましょう。
チームの団結を維持する
リーダーシップを高める目的のひとつが、チームの団結を維持することです。優れたリーダーは自身が先頭に立つばかりではなく、部下やメンバーとのコミュニケーションによって形成された団結力をもってさまざまな課題に立ち向かいます。
例えば会議などの場面においては、リーダーが具体的な方向性を示し、建設的な議論になるよう見守ります。時には議論や論点を修正しながらも、基本的には脇役に徹することがチームの団結力を高めます。
一方、自身が掲げた目標に対し、メンバーから異論を唱えられる こともあるでしょう。そんな時も、ただ反論するのではなく、違った意見を受け容れることのできる寛容さがリーダーには求められます。
目標やタスクを完遂する
組織としての目標達成には、リーダーの適切な指示とチームの団結力が欠かせません。
リーダーは自身のリーダーシップの発揮によって組織全体を動かします。ただし、メンバーの能力には、それぞれ違いがあるのも事実です。 先述のように、メンバーの能力によって「委任型」や「支援・サポート型」のリーダーシップを用いてメンバー同士の協力を促しながら仕事を進める必要があります。
一方で、能力が不足しているメンバーが多いと感じる場合には、目の前にあるタスクの完遂と目標達成に専念しなければなりません。新人向けの「指示命令型」のリーダーシップを発揮して、ある程度一方的に各メンバーにタスクを割り振る必要があるでしょう。
リーダーシップを高め、さらには上手く使いこなすことによって、組織の能力に影響されることなく目標やタスクの完遂ができるというのが、リーダーの理想の姿といえるでしょう。
個人のスキルや能力を開発する
個人のスキルや能力を開発することもリーダーの重要な役割です。組織とは、個人の団結によって維持されるものであり、その主役はあくまで個人といえるからです。
優れたリーダーは、メンバーとのコミュニケーションによって、各メンバーの長所や短所、将来性を含めた適性などを把握しているものです。各メンバーの力量を把握したうえで、夢や目指す将来像を実現できるよう適切にサポートし、能力開発を行っていきます。
ただしコミュニケーションの要は信頼であり、リーダー自身が誠実な人でなければメンバーとの良質なコミュニケーションを図ることはできません。約束を簡単に破るようなリーダーに、本音を話す人はいないでしょう。
ですので、リーダーが自身の「人間力」を高め、メンバーからの信頼を得ることが、能力開発に成功するポイントになります。
リーダーシップの効果的な高め方
リーダーシップを効果的に高めるには、「理想とするリーダーの設定」と「管理職研修などへの参加」の2つをおすすめします。
理想とするリーダー像の設定
リーダーシップをより効果的に高めるには、理想とするリーダー像を設定することをおすすめします。優れたリーダーには、「この人のようになりたい」という理想の人物がいるケースが多いものです。
その理想とするリーダーの特筆すべき能力、普段の立居振舞いなどを真似ることで、それらが自然と身につきます。誰もが知る著名なリーダーを設定しなくても、自身の周囲にいる理想とすべき人を対象として問題ありません。
前述のとおり、リーダーシップのスタイルは画一的ではなく、自身の性格やメンバーの能力によって変化させるべきものです。経営者や他部門の管理職など、社内の人をモデルとすることで、より具体的なスタイルとして参考にすることができます。
理想とする相手の「思考」と「行動」のパターンを身につける手法を「モデリング」といいます。
具体的な方法として、まずは理想とする人になりきります。外見的なものだけではなく、思考法や行動、価値観などを体得していくのです。
その繰り返しによって、その人物の表情や態度、さらには信念までも理解することができ、その結果として、思考や行動のパターンを自身で体現できるようになります。
管理職研修などへの参加
リーダーシップを効果的に高めるには、管理職研修などへの参加も有効です。
リーダーシップを発揮し、組織としてメンバーと共に成果を出す結果をつくるためには、コーチングやフィードバックなどのコミュニケーションスキルはもちろん、リーダーとしての役割認識や人間観、さらには人間力といったものが求められます。
管理職研修などに参加して、リーダーに求められる基礎知識を体系的に学び、今自分に不足している能力を自覚することは、リーダーシップ開発に大いに役立ちます。また、公開セミナーであれば、異業種の同じ立場の受講者からも刺激が得られ、自身のモチベーションを高めることにもつながるでしょう。
まとめ
ここまで、リーダーシップが組織の目標達成においていかに重要なものであるか、おわかりいただけたかと思います。繰り返しになりますが、リーダーシップは、役職・権限のある特定の管理職だけが身につければよいものではなく、全員が早期から開発していくべきものです。
ただし人間の性格がそれぞれ異なるように、リーダーシップのスタイルも人それぞれです。自分にあったリーダーシップのスタイルを見つけ、発揮することが求められます。
またリーダーシップの発揮には「主体性」はもちろん、「課題 解決能力」「目標設定能力」「コミュニケーション能力」などのスキルが必要であり、そのいずれをも高めていく必要があります。これらの能力を効果的に高めるためにも、会社としてリーダーシップを学べる環境を整えることが重要です。リーダーシップを身につけた優れたマネジャーの創出は、企業の成長にも大きく寄与することでしょう。