部下がわからない上司。フォロワー視点に立ったマネジメントとは?
2022年3月 7日更新
部下指導が思うようにいかない要因の一つに、コミュニケーションギャップがあります。上司が、部下の考えや思いを読み違えているため、間違った指導の仕方をしてしまうのです。そこで本稿では、視点をリーダーの側からフォロワー(部下)の側に移すことによる効果的なマネジメントについて考えてみたいと思います。
部下がわからない上司が増えている!
長時間労働やパワハラを規制する法律の制定、働き方改革の推進に伴って多様化するワークスタイル、テレワークの普及、等々、ここ数年、企業の労働環境が大きく変わりました。
当然、こうした変化は職場のマネジメントに影響を与えます。上司は、部下が残業をしないよう、過度な負荷をかけなくなりました。また、「パワハラ上司」と言われるのを恐れて、厳しい要求や指導をしない、「ものわかりのいい上司」が増殖しました。それに加え、テレワークによって上司-部下間の物理的な距離が広がった結果、お互いの意思疎通が機能不全に陥るケースが頻発しています。
こうなると、上司は部下のことがわからなくなり、当たり障りのないコミュニケーションがますます増えていってしまうのです。
部下(若手社員)の本音
では、フォロワーである部下の側に視点を移してみましょう。最近の若手社員は、成長志向が高い傾向にあると言われています。パーソル総合研究所の実施した調査(※1)によると、「『働くことを通じた成長』は重要だと思うか」という質問に対して「重要と思う」と回答した人の割合は82.3%(N:10,000人)に達しました。また、「過去1年間で、『働くことを通じた成長』を実感したか」という質問に対して、「実感した」と回答した人の割合は56.1%でした。2つのデータが示しているのは、「成長したい」と考えている人は多いけれども、そうした人たちのすべてが「成長している」と感じているわけではないということです。
次に上記の定量調査の結果に加え、弊社で実施した定性調査の結果もご紹介しましょう。PHPゼミナールに参加した若手社員に対して、アンケート調査を行った結果、以下のような回答を得ました(※2)。
Q1.現在、困っていること、不安に思っていることは何か?
「例年より学ぶ機会が少ないため、来年の新人に追い越されるのではないかとい
う不安がある」(25歳、女性)
「在宅期間が長く、他の会社の新入社員と比べて遅れている気がする」(23歳、男性)
「スキルがなかなか成熟しない(肌感覚です)」(22歳、男性)
Q2.上司(先輩)や会社に対して要望があるとすれば、どんな支援をしてほしいか?
「こまめにフィードバック、アドバイスをもらいたい」(22歳、女性)
「週一回でも授業のような感じで学習の場が欲しい」(22歳、男性)
「定期的な面談(20分程度)をしてほしい」(23歳、男性)
これらのデータが物語っているのは、フォロワーである若手社員は、強い成長願望をもっているけれど、今の職場環境では思うように成長できないと受け止めている、ということです。そして、彼らがそのことに焦りや危機感を感じると同時に、事態が好転する兆しが見えなければ転職する意志をもっているということも容易に推測できます。
部下(フォロワー)視点に立ったマネジメント
では、上司はどうすればいいのでしょうか。大前提は、日々の仕事を通じて部下の能力開発を支援することです。つまり、部下一人ひとりの能力を見極めたうえで、ストレッチ目標を設定してチャレンジさせるのです。そして、ことあるごとに対話を重ねて、課題解決の支援をしたり、適切なフィードバックによって気づきを誘発します。また、部下の成長に対して具体的な事実をもとにした承認を行うことも重要です。
要するに、愛情と厳しさをもって部下に真剣に向き合い、彼らの成長を後押ししてあげることです。実は多くの若手社員はそのことを望んでいるのであり、それがフォロワー視点から見たあるべきマネジメントなのです。
上司の想像力が問われる
以前、大手総合商社に勤務している若手社員の方と話をする機会がありましたが、その方の発言が印象的でした。
「大前提として、今の会社に勤めあげるということにはこだわってはいません。今の仕事はやりがいがあるし、会社の看板を使っていろいろなことができるので、今の環境でもっと成長したいと思います。でも、この環境に10年もいると、凝り固まって成長が止まるような気がします。また、この業界もこの先、どうなるかわからないので、その変化に敏感になって生きていきたいです」
転職するか否かはその人の価値観によるので、それを議論しても仕方ありません。ただ、現状に満足しているように見えても、問題意識をもっている人ほど、内面ではいろいろなことを考えているのです。
したがって、上司には部下の表面的な事象だけを見るのではなく、「この人はいま何を考えているか」を察する想像力が求められています。そして、そのためにもリーダーの側からフォロワーの側に視点を移すという発想が必要なのです。
※1 『働く10,000人の就業・成長定点調査2021』パーソル総合研究所
※2 PHPゼミナール「新入社員研修フォローアップコース」(2020.12.9開催)の受講者42名から回答を回収
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。