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部下を叱れない管理職へ。「人材育成は公事である」~松下幸之助の部下指導に学ぶ

2022年9月13日更新

部下を叱れない管理職へ。「人材育成は公事である」~松下幸之助の部下指導に学ぶ

近頃、部下を叱れない管理職が増えているといいます。「叱る」ことが難しいのは今も昔も同じ。人を育てる名人と言われた松下幸之助は、どのように考えていたのでしょうか。

部下を叱れない管理職

最近、部下を叱れない管理職が増えていると聞きます。

その理由を尋ねてみると、「叱ったら人事部にパワハラで相談された」「叱った部下が出社しなくなった」「叱ったら、チッと舌打ちして反抗的な態度を示した」「叱った女性社員が泣き出して化粧室に駆け込んだ」などといった話が出てきます。

嫌われたくない、問題を起こしたくないというのは、誰もがもっている気持ちです。人の上に立つ管理職でも、それは同じです。けれども、本当に叱らないままでいいのかといえば、そんなはずはありません。ここで問われるのは、なぜ人を育てなければならないのかという理念を会社として確立していること。そして、その理念に上司が断固として徹することです。

「人材育成は公事」

人を育てる名人と言われた松下幸之助は、部下を叱る前提となる人材育成の理念について"人材育成は公事"という観点から、次のように語っていました。

「企業は公のもの、社会のためにあるもの、という認識に立つなら、企業の活動にあたって人を使うということも、私事ではなく公事である。自分1個の都合、自分1個の利益のために人を使っているのではなく、世の中により役立つために人に協力してもらっているのだということになろう。

そしてそう考えれば、やりにくいことをあえてなし遂げる勇気も湧いてくる。たとえば、人を使って仕事をしていれば、時には叱ったり、注意をしなければならないことも出てこよう。ところがそういうことは、人情として、されるほうもするほうも、あまり気持ちのよいものではない。ともすればめんどうだとか、いやなことはしないでおこうということになりがちである。

しかし、企業は社会の公器であり、人を使うことも公事であるとなれば、私情でなすべきことを怠ることは許されない。信念をもって、世の中のために、叱るべきは叱り、言うべきは言わねばならないということになる」

経営者、責任者も、さまざまな感情をもった人間ですから、ともすれば、その感情にとらわれて、なすべきことを怠ることになりがちです。けれども"人材育成は公事"という観点に立って、つねに私心にとらわれないように、叱るべきは叱るという姿勢に、まずは徹したいものだと思います。

「寛厳よろしきを得る」

そして、次なる問題としては、具体的にどの程度の叱り方が適切かという難題があります。一人の上司には性格も能力も違う部下が複数おり、同じように叱るというわけにはいきませんし、時にはほめることも大切です。

この点について松下幸之助は、著書『指導者の条件』のなかで、「指導者には適度のきびしさとやさしさが必要である」として次のように述べています。

「やさしいばかりでは、人びとは甘やかされて安易になり、成長もしない。かといってきびしい一方では、畏縮してしまったり、うわべだけ従うというようになって、のびのびと自主性をもってやるという姿が生まれてこない。だから、そのどちらにかたよってもいけないわけで、恩威あわせもつ、いわゆる寛厳よろしきを得るということが大切なわけである。

ただ、寛厳よろしきを得るということは、きびしさと、やさしさ、寛容さを半々にあらわすことではないと思う。きびしさというものはなるべく少ないほうがいい。20パーセントのきびしさと80パーセントの寛容さをもつとか、さらには10パーセントはきびしいが、あとの90パーセントはゆるやかである、しかしそれで十分人が使えるというようなことがいちばん望ましいのではないだろうか」

若手が望む上司像とは

いつの時代であっても部下が望む上司は、「優しい上司」「叱らない上司」ではないように思います。みなさんも、「あのときは厳しく叱られて落ち込んだけれども、あの上司に鍛えられたからこそ今の自分がある」というような経験があるのではないでしょうか。

部下である自分の行動をよく見、話を聞いて、なおかつ時にピシッと叱ってくれる上司は、若手社員がまさに望んでいる上司像です。そして、上司がそのように部下を育てることによって、「人を育てる企業風土」が育まれていくものと思われます。

管理職が人情の機微に通じ、松下幸之助の言うように、できるだけきびしさを少なくして、しかも"寛厳よろしきを得る"ことができるようになることは、これからのビジネス事情や会社の成長を考えれば、いっそう大事なのではないでしょうか。

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松下幸之助著『指導者の条件』

松下幸之助著『指導者の条件』

30年以上の永きにわたって読み継がれた好著が、装いを新たに登場。松下電器を興し日本を代表する巨大企業に成長させた経営者、松下幸之助。本書はそんな彼が経営者として永年の体験をもとに、古今東西の事例を交えながら、組織を率いる者のあるべき姿を説いたものである。「指導者は人、物すべての価値を正しく知らねばならない」「指導者は一面部下に使われるという心持ちを持たねばならない」「指導者は時には何かの権威を活用することも大事である」「指導者には一つの指導理念がなくてはならない」など――日本史上の名君、古代中国の英雄、思想家、近代の世界の政治家らの言行から、著者自身も絶えず反省、検討し繰り返し見出した「指導者の条件」を示す。著者は「本書は自分の勉強のための教科書のようなものであり」(まえがきより)とも言っている。企業や組織のトップのあり方が、改めて問われている今だからこそ読みたい、座右の書となる一冊。

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渡邊 祐介(わたなべ・ゆうすけ)
PHP理念経営研究センター 代表
1986年、(株)PHP研究所入社。普及部、出版部を経て、95年研究本部に異動、松下幸之助関係書籍の編集プロデュースを手がける。2003年、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程(日本経済・経営専攻)修了。修士(経済学)。松下幸之助を含む日本の名経営者の経営哲学、経営理念の確立・浸透についての研究を進めている。著書に『ドラッカーと松下幸之助』『決断力の研究』『松下幸之助物語』(ともにPHP研究所)等がある。また企業家研究フォーラム幹事、立命館大学ビジネススクール非常勤講師を務めている。

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