リーダーの条件とは~田村 潤(キリンビール元副社長)
2021年7月26日更新
全国最下位の支店をトップにまで押し上げたリーダーの覚悟と使命感、その原動力となる理念、メンバー一人ひとりが「やりきる」組織づくりの極意――。キリンビール株式会社 元・代表取締役副社長である田村潤氏による「松下幸之助経営塾」特別講演のお話をご紹介します。
人間の能力は無限大
長くマネジメントに携わっていると、人間には無限の能力があると痛感します。ある日突然、能力が花開き、昨日とは別人のように感じることすらありました。それは、人の成長というものが、正比例の直線グラフではなく、階段状になっているからではないでしょうか。
現場で、愚直に、地道に、徹底的にいいものをつくる。決してあきらめずに続けていると、人も組織も、あるときパッと視界が開けるときがあります。
一人ひとりが成長し、素晴らしい人間になれば、お互いを尊敬し合うのでチーム力も強まり、その結果、企業ブランドへの信頼も高まっていきます。
極端な言い方をすれば、業績のみにとらわれず、上司が部下の能力を発揮させることさえしっかりやっていれば、組織がより強固なものになり、ひいては業績アップにもつながっていくように思います。
情報と価値観を共有化する
組織がうまく回っていくためには、情報の共有化が大切です。マネジメントが成功に結びついたのは、入社以来、非常に平等な社内環境だったことが大きかったと思います。
意見の違いは、だいたい情報量の違いで出てくるものです。年齢や序列、情報の大小を問わず、全メンバーが同じ情報を共有して意見を言うことで、一人ひとりの見解は違っていても、皆が公平に正しい結論を導き出すことができます。それをリーダーがリードして最終判断する。このプロセスが必要不可欠です。
リーダーは人の三倍努力する
成功している人、尊敬される人は、陰で人の何倍も努力しています。これまで頑張ってこられたのも、尊敬できる諸先輩がいて、その恩に報いたいと思ったからでした。
特に、リーダーとなる人は、部下の何倍も努力しなければなりません。リーダーが誰よりも頑張っている。苦労している。この本気なリーダーがそこまで言うのなら仕方がない、やるしかないと、行動で示し続けることです。リーダーが本気だということがわかると、メンバーも本気になり、少しずつ成果があがっていきます。
誰しも、尊敬できる人からのアドバイスは素直に聞くことができるものです。自分の思い、理念を、時間をかけて繰り返し伝え続けること。よく言って聞かせ、話して聞かせ、困ったことをサポートしながら部下を信じ、とにかく「やりきる」までマネジメントすることが、リーダーの行動規範といえるでしょう。
数字へのこだわり
数字へのこだわりは当然必要です。正しいビジョン・戦略・戦術が明確であれば、数字は必ずついてきます。数字こそが、その考えの正しさを証明するものであるといえます。
部下にしてみても、いきなり理念、理念と言われてもわからない。ただ、数字がついてくれば、理解することができます。「最初は支店長の言っていることが理解できなかった。でも、数字がついてきたから、ついていこうと思った」――転勤するときに、ほとんどの部下から言われた言葉です。正しい作戦を考え抜いて実行し、それを数字で実証する。リーダーは常に、数字へのこだわりを持つことが肝要です。
本質は現場にある
高知では、本社にいたら気づかないままだったかもしれないことを、現場の消費者に教えてもらうことができました。理念が徹底的に大事で、理念こそが競争力の決定的な要因であると。
いくら“正しい”マニュアルをつくって実行させようとしても、しょせんはそこで終わってしまい、長続きすることはありません。マニュアルではなく、自分の身の回りのお客様に喜んでもらいたい。その笑顔をもっとほがらかな笑顔にしたい。現場主義を貫くと、そのために自分が存在していることが理解でき、人も組織もだんだん変わっていきます。
リーダーは、徹底した現場主義であるべきです。会議の席だけでの机上論や、上辺だけの美辞麗句は何の役にも立ちません。現場のリアリティが、最も重視されるべきものです。
最も重要な市場の真実に向き合い、その事実を戦略立案につなげる。“現場で”率先垂範し、“現場に”強い。そんなリーダーが今、求められているのではないでしょうか。
田村 潤 (たむら じゅん)
100年プランニング株式会社 代表取締役
1950年、東京都生まれ。成城大学経済学部卒業。1973年、キリンビール株式会社に入社。1995年、支店長として高知に赴任した後、四国4県の地区本部長、東海地区本部長を経て、2007年、代表取締役副社長兼営業本部長に就任。全国の営業の指揮を執り、2009年、キリンビールのシェアの首位奪回を実現した。
2011年より100年プランニング代表。2016~2019年『松下幸之助経営塾』(PHP研究所主催)にてアドバイザーを務め、経営者育成に取組む。
著書の『キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え!』(講談社+α新書)はベストセラーとなる。近著に『負けグセ社員たちを「戦う集団」に変えるたった1つの方法』(PHP研究所)、『人生に奇跡を起こす営業のやり方』(共著・PHP新書)がある。