メンタリングとは? コーチングとの違いや目的、進め方を解説
2023年8月15日更新
メンタリングとは、1対1の対話で自律的に行動できる人材を育成する方法です。従業員のキャリア形成の支援や悩みの相談などに対応し、離職を防止するなどのメリットがあります。
本記事では、メンタリングの効果や導入のステップ、実施の際の注意点を解説します。人材育成の手法にメンタリングの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
メンタリングとは
メンタリングとは、人材育成手法のひとつです。メンターと呼ばれる先輩社員とメンティという後輩社員が1対1で対話を行い、メンティのキャリアに関する課題や悩みを解決しながら成長を支援します。メンターは直属の上司ではなく、基本的にメンティと年齢や立場の近い社員が選ばれます。
ここでは、メンタリングとほかの人材育成手法との違い、注目される背景をみていきましょう。
コーチングとの違い
メンタリングと似た手法に、コーチングがあげられます。コーチングとは、相手の可能性と自主性を引き出しながら目標達成を支援するコミュニケーションの技術です。コーチングを通して相手に新たな気づきを与え、具体的な行動をサポートします。
1対1で対話を行い、成長を支援するという点ではメンタリングと似ていますが、アドバイスの有無が異なります。コーチングは相手に質問し、傾聴しながら社員自身で答えを引き出すことを促す手法です。これに対してメンタリングは、対話を通してメンティの課題や悩みを明らかにし、必要に応じてアドバイスを行います。先輩としての経験、知見を共有しながら課題解決を支援するのが特徴です。
コーチングは相手の具体的な課題解決や目標達成に焦点を当てるため、比較的短期間で行われます。一方、メンタリングはメンティの中長期的なキャリア形成を目的にしているため、期間も長くなる傾向があります。
OJTとの違い
メンタリングは、OJTとも異なります。OJTとは、実際の業務を行いながら、新入社員に知識やスキルを指導する人材育成手法です。OJTでは新入社員に実務の手順を教え、即戦力になってもらうことを主な目的としています。実務の指導のため、主として直属の先輩や上司がOJT担当者となります。社会人として自発的な成長を促すメンタリングとは目的や指導方法が異なります。
注目される背景
メンタリングは、もともとアメリカで活用されていた手法です。日本では2000年代以降、大企業を中心に導入が始まりました。
2010年以降は女性社員の管理職登用といった場面で活用する企業も増え、厚生労働省では女性社員の活躍を推進するために、メンター制度導入マニュアルも公表しています。
また、近年は労働人口の減少で人材不足に悩む企業が多いです。特に新入社員の早期離職が課題となり、人材の定着を目的にメンタリングを導入する企業も少なくありません。
参考:厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」
メンタリングの目的・効果
メンタリングを導入する目的は会社によりさまざまです。主に離職防止や社員のモチベーションアップなどを目的に行われ、高い効果を上げています。
ここでは、メンタリングの目的と効果について詳しく解説します。
自律的に行動できる人材を育成する
メンタリングは、メンティの悩みに対してメンターが相談に乗り、過去の経験などから解決策を探っていきます。悩みを相談できる先輩が近くにいれば、心理的安全性が確保され、自律的・主体的に行動ができるようになるでしょう。
また、ロールモデルとなるメンターの過去の経験やアドバイスを参照して、次第に自ら考えて行動する習慣が身につくことも期待できます。
メンターの導きによっては、問題が起きたときも成長のチャンスととらえ、自発的に解決策を見出すことができるでしょう。メンティ自らが目標を設定し、達成に向けて積極的に取り組むことができます。
メンターにとっても、後輩社員であるメンティのお手本となる行動が求められることで責任感が芽生え、自律的に行動できるというメリットがあります。
離職を防止する
メンタリングの導入は、離職防止にもつながります。メンターはメンティの精神的な悩みも必要な範囲でサポートします。気軽に相談できるメンターという存在がいることで、メンティは1人で悩みを抱えることが少なくなるでしょう。心理的な負担が軽減され、離職防止の効果が期待できます。
定期的にメンタリングの対話を行うことで、メンティが何か問題を抱えている場合に早期発見が可能です。離職につながる問題を早めに察知し、サポートを行うことができるでしょう。
社員のモチベーションを高める
仕事に対し不安や悩みがあるとモチベーションが低下し、働く意欲も下がります。しかし、メンタリングの実施により、メンティはモチベーションを高めることが可能です。
メンターとなる先輩社員は、これまでの仕事の経験から、不安や悩みをどう解消し、立ち直ったのか、仕事の成功でどのような気持ちになったのかなど、メンティに伝えられる経験談があるはずです。メンティの仕事の経験が浅い場合には、不安や悩みへの対処法が分からなかったり、成功体験がイメージできない場合があります。そんな時、メンターが過去の経験を語れば、メンティの不安が軽減され、モチベーションアップが期待できます。
社内の良好な人間関係を構築する
メンタリングではメンターとメンティの信頼関係が築かれることで、社内に良好な人間関係を構築する効果が期待できます。
メンタリングによるコミュニケーションでメンターとの相互理解を深めたメンティは、職場に早く馴染めるようになります。例えば、メンターとなる先輩社員の同期や、同じ部署のメンバーなど、メンターをきっかけにほかの社員ともつながりができ、社内全体に良好な関係が広がるでしょう。その結果、社内コミュニケーションの活性化につながります。
メンタリングを行う6つのステップ
メンタリングを効果的に行うには、目的の設定から実施、効果測定まで手順を踏む必要があります。その前提として、担当者がメンタリングについて理解することが必要です。
基本的な6つのステップを解説します。
1.目的を明確にする
メンタリングの導入にあたり、どのような成果を得たいのか目的を明確にします。自社の現状・課題を分析し、解決したい課題や強化したいことなど、メンタリングを行う目的を設定しましょう。
メンタリングを導入する目的は、主に以下のようなものがあげられます。
- 新入社員の離職率を改善する
- 女性社員の活躍を推進し、管理職登用数を増やす
- 社内のコミュニケーションを活性化し、社員満足度を高める
- 経営理念を浸透させる
目標を設定する際は、「来年度の離職率を20%改善」「今期中に社員満足度を30%高める」など、効果を測定しやすいよう具体的な数値で定めることも有効です。
2.ガイドラインを作成する
目的を設定したら、目的に基づいて制度を構築します。定めるのは、主に以下の内容です。
- メンター・メンティの選定方法
- メンタリングの頻度・回数・実施時間
- メンタリングの実施場所
- サポート体制
- 実施報告
- 事前研修
これら制度の内容と運用にあたってのルールを定めたガイドラインを作成し、メンターが行う業務の範囲を明確にしましょう。
ガイドラインでは、守秘義務の徹底や相談窓口へのアクセス方法など、メンターとメンティが気になるであろう項目を具体的に記述しましょう。
3.マッチングをする
メンタリングではメンター・メンティの選定やマッチングが成功を左右します。それぞれの選定方法と選定基準は、会社や社員の状況により異なります。
メンターは、メンティと年齢の近い社員を選ぶのが一般的です。メンティと同じ部署の社員を選ぶか、他部署の社員にするかは会社ごとの判断に基づきます。
同じ部署であれば、仕事上の悩みや課題を共有しやすいものの、指示命令の関係にあることでかえって仕事の相談がしづらいという側面もあります。
他部署であれば利害関係がなく気軽に相談ができますが、業務内容が異なることで、悩みや課題の共有が難しくなったり、メンターからメンティへのアドバイスが一般化してしまう場合もあります。
メンティの選定は、目的により異なります。新入社員のみを対象にするか、入社から数年の社員も含めるのかが判断の焦点になるでしょう。また、該当する社員全員を対象とするのか、一部の社員に限定するかも会社ごとの判断に委ねられます。
選定したメンターとメンティのマッチングも重要なポイントです。業務経験や実績、人材育成に対する理解の深さ、人柄など、相性も考えながら決定します。
重要なのは、メンターを直属の上司にしないことです。直属の上司がメンターになる場合、メンティは「評価が悪くなるのではないか」と考え、本音を打ち明けられない可能性があります。
メンタリングはメンティのキャリア形成をサポートすることも目的の一つであり、メンティのキャリア志向とメンターの経歴が合っていることも大切なポイントです。
4.目的・方法を共有する
メンタリングの成功は、メンターとメンティの双方がメンタリングに主体的に参画することにかかっています。メンタリングを実施する目的や意義、方法を共有し、理解を得ることが大切です。
経営トップや組織全体への周知と理解を得ることも、制度の運用に欠かせません。多くの会社では、メンタリングを業務時間内に実施します。日常の業務を中断する必要があるため、上司や社員の理解が必要です。導入にあたり、どのようなメリットがあるのかを説明し、メンタリングの意義を周知しましょう。
5.スケジュールを組む
メンタリングを成功させるには、十分な時間を確保して取り組む必要があります。曖昧なスケジュールでは、業務が忙しいことを理由にメンター制度が形骸化してしまう可能性があります。集中して取り組むためにも、メンタリングの時間として事前にスケジュールを組んでおくことが大切です。
実施前には、メンターへの教育も行いましょう。メンタリングの流れを把握するだけでなく、メンタリングの効果を高めるためのコミュニケーションスキルを学ぶことが必要です。
お互いの信頼関係を構築するため、メンターとメンティが一緒に研修を受講するという方法もあります。また、実際にメンタリングを実施してみて明らかになった課題を解決するために、フォロー研修を行うことも効果的です。
6.効果測定を行う
メンタリングを成功させるには、効果測定が欠かせません。制度の終了時だけでなく実施期間の途中でも調査・分析し、課題があれば改善が必要です。
調査ではメンタリングがスケジュール通りに実施されているか、問題が起きていないかをチェックします。
メンタリングの大きな目的であるメンティの心理的変化は見えにくいため、アンケートやインタビューを行うなど、定性的な変化でも良いので確認する工夫が必要です。
メンタリングの実施で注意したいこと
メンタリングの実施では、会社やメンターが特に注意すべき点があります。メンタリングの際に注意すべき3つのポイントをみていきましょう。
求められたアドバイスだけを行う
メンタリングの特徴のひとつにメンターからメンティへのアドバイスがあげられますが、アドバイスするのはあくまでもメンティが求めてきた場合に留めておくと良いでしょう。メンティが求めていない以上、どれだけ熱心なアドバイスをしてもメンティには響かない可能性があります。メンターがアドバイスをしたほうが良いと判断した場合には、「私からアドバイスをしても良いかな?」などと、メンティに許可を得ることも一つの方法です。
主役はあくまでもメンティであり、メンターの発言が命令や強制という形にならないよう注意しましょう。
評価とは無関係に実施する
メンタリングで話した内容は、人事評価に結びつけない仕組みが必要です。メンターは基本的に直属の上司など人事評価とは関係ない社員を選びますが、対話の内容が上司に漏れるなどして、評価に影響してしまう可能性はあります。
そのような事態があれば、メンターとメンティの信頼関係が壊れるだけでなく、メンティの組織への信頼も失われるでしょう。メンタリングで話した内容は評価に結びつけないルール設定が求められます。
守秘義務を遵守する
メンタリングでは、メンターとメンティのどちらにも守秘義務を守ってもらいましょう。守秘義務とは、定期的な面談で交わされた会話や知り得た情報を外部に口外してはならないというルールのことです。
メンタリングの成功には、安心して自由に発言できるという心理的安全性が不可欠であり、信頼関係を築くためにも守秘義務が徹底されなければなりません。
メンターは善意のつもりでメンティの直属上司にメンティが悩んでいることを伝えたところ、メンティと上司の関係が悪化してしまったという事例もあります。
メンタリングでの会話内容に、社内での共有が必要になるような重要な事項を含んでいる場合でも、メンターの独断で公表することのないようにしましょう。発言したメンティ本人から公表するか、メンターが公表する場合は必ずメンティの同意を得てから行うようにしてください。
メンターがメンタリングの実施状況を事務局などに報告する場合は、メンティの了承を得てから面談記録シートなどで報告します。メンティ自身が報告するのも良いでしょう。
まとめ:メンタリングで自律型の人材を育成しよう
メンタリングはメンターとメンティの対話を通し、キャリア形成やさまざまな課題の解決に対応する人材育成の手法です。メンターは先輩社員としてアドバイスを行い、経験や知見を共有しながら後輩社員であるメンティの自律的な成長を支援します。
社員のモチベーションアップや離職防止などの効果が期待でき、社内コミュニケーションの活性化にもつながります。新入社員の定着のために、メンタリングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。