取締役とは? 仕事内容や責任範囲、必要な能力を解説
2022年8月10日更新
取締役とは、会社から経営を委任され、業務執行に関する意思決定を行う者を指します。具体的には、経営を適切に進めるために方向性を定め、人員配置や予算配分などを行い、各部門に指示を出す立場です。今回は取締役の立ち位置や仕事内容、責任範囲、必要とされる能力などを解説します。
会社法に規定される取締役とは
取締役とは、経営に関する重要事項を決定する権利を持つ役員を指します。取締役を設置する目的は、主に社長の独断によるワンマン経営を回避するためです。取締役は株主総会で選任された特別な人材であり、会社を経営するにあたって社長が下す意思決定に問題がないかと、近くで目を光らせます。
従来は社内から取締役が選任されるのが一般的でしたが、近年は企業経営のチェック機能を果たす必要性から、社内業務に従事しない外部の人材を社外取締役に任命する事例が増えています。
また、一般社員は会社と雇用契約を結びますが、取締役は委任契約が基本です。委任契約期間は原則2年と定められていますが、株主総会で再度任命されることもあります。委任契約であるため、一般社員のように雇用が守られているわけではありません。取締役としての役割を適切に果たしていないと判断された場合は、契約解除を言い渡される場合があります。逆に、任期途中であっても辞任することが可能です。
取締役とほかの役職との違い
会社法に規定される取締役は、会社に所属する存在ではあるものの、雇用契約を結んで入社する一般社員とは、求められる役割や責任が大きく異なります。また、代表取締役や監査役とも役割が異なります。ここでは、取締役と一般社員や代表取締役、監査役との違いを確認していきましょう。
執行役員は一般社員と同じ扱い
執行役員は、取締役が決定した事業計画や方針を現場に伝え、従業員のトップとして業務を遂行する役職です。取締役と執行役員とでは、雇用形態が異なります。
執行役員は会社と雇用契約を結ぶため一般社員と同じ扱いですが、取締役は委任契約が一般的です。委任契約とは業務の遂行を目的とした契約のことで、取締役が行う業務に対して報酬が支払われます。
会社に対して労働力を提供する執行役員は、重大な就業規則違反がない限り解雇されることがありません。しかし、取締役は、適切に業務を遂行していないと判断されると解任されることがあります。
代表取締役は会社の最高責任者
会社法上で定められた企業の最高責任者が、代表取締役です。基本的には取締役の中から選任されますが、代表取締役は必ずしも一人であるとは限りません。会社によっては、代表取締役専務といったように、取締役の中から複数人が選出されて代表取締役になる場合もあります。
代表取締役は社長と同義で扱われることが多いですが、なかには別々に選任されることがあります。代表取締役と社長の存在が異なる会社の場合は、社内から最高責任者を社長として選出し、社外から代表取締役としての人材を選ぶことも珍しくありません。
監査役は株式会社の常設機関
監査役には、取締役の職務の執行を監査し、監査報告を作成するという職務があります。
監査役に選任される条件として「親会社や子会社の取締役や執行役、支配人などの使用人ではない」、「重要な使用人の配偶者や2親等内の親族ではない」など、複数の条件が設けられています。一方、取締役の選任について特別な条件はなく、株主総会における決議で任命されます。
取締役の任期が2年であるのに対して、監査役の任期は4年と定められています。
取締役の主な役割・仕事内容
会社法では、取締役会を設置する場合は3人以上、設置しない場合には1人以上の取締役を選任する必要があるとされています。取締役の役割は、取締役会を設置する会社と設置しない会社とで異なります。
取締役会の設置会社と非設置会社で役割が異なる
取締役会を設置する会社では、取締役はその構成員として、株式総会での決議以外の、経営や業務遂行に関する様々な事項について意思決定する役割があります。
具体的には組織の設置・変更・廃止について、支配人その他の重要な使用員の選任及び解任、重要な財産の処分及び譲り受け、多額の借財、代表取締役の選任や解任などが挙げられます。取締役会において、これらに関する方針を決め、判断を下します。
さらに、取締役には、自らが決定した経営や業務遂行に関する決定が、計画通りに進んでいるかを監督する役割があり、他の取締役や代表取締役などの職務執行を監督して、計画通りに経営を進めていきます。
一方、取締役を設置しない会社では、会社の業務に関する意思決定を行い、会社を代表して契約を行うなどの役割を担います。ただし、取締役の中から代表取締役を選定した場合には、代表取締役のみが代表権を有します。
取締役は主に以下のような役割を担います。それぞれの項目を確認していきましょう。
- 取締役会や株主総会に参加する
- ワンマン経営を防止する
- 顧客との良好な関係を構築する
取締役会や株主総会に参加する
取締役を設置する会社は、3ヵ月に1回以上、年に4回程度の頻度で取締役会を実施します。取締役会は、株主総会で選任された3名以上の取締役で構成され、業務執行や代表取締役の選定、解職など、会社の意思決定を行います。取締役は取締役会の構成メンバーとして、経営や業務遂行に関する意思決定に関わります。
また、取締役は株主総会にも参加します。株主総会とは、株主が会社にかかわる意思決定をおこなうために議案を検討し、決議する機関を指します。 株主総会において、取締役は前年度の事業内容や次年度の方針を説明します。それらに関する株主からの質問にも回答しますが、この受け答えによっては、株主の心証を悪くするおそれもありますので、重要な役割といえるでしょう。
ワンマン経営を防止する
取締役には、経営者による独断的なワンマン経営を防ぐ役割があります。経営者の独断による意思決定で会社運営に悪影響が出た場合、会社は不利益を被ります。こうした状況を回避するために、取締役は会社のトップに対して、自らの判断や意見を伝えます。
令和元年改正会社法では、上場会社等に社外取締役を置くことが義務づけられました。社外取締役の最も重要な役割は、株主の付託を受けて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る観点から経営を監督することであるとされています。
取締役のなかでも特に社外取締役には、ワンマン経営を防止するという役割が求められているといえるでしょう。
顧客との良好な関係を構築する
取締役には、顧客との良好な関係を構築するという役割もあります。取締役が自ら顧客に挨拶や交渉のために出向くことで、顧客には「取締役が訪問してくれるほど重要な顧客だと認識されている」といった感情が湧きます。その結果、商談がスムーズにまとまることがあるのです。
取締役の責任範囲
取締役の責任の範囲には、委託された会社に対するものと利害関係にある第三者に対するものがあります。それぞれの責任範囲について確認していきましょう。
委託された会社に対する責任
取締役は、善管注意義務や忠実義務に反して会社に損害を与えた場合、原則として責任を負わなければいけません。
善管注意義務とは「善良なる管理者の注意義務」の略であり、「当該職業又は地位にある人として通常要求される程度の注意義務を払うこと」が取締役に義務付けられています。この善管注意義務に反して会社に損害が生じてしまった場合、取締役は会社の損害を賠償する責任を負います。
忠実義務は、法令、定款、株主総会決議を守り、会社のために忠実に職務を遂行する義務のことです。善管注意義務と同じく、忠実義務に違反した場合にも、取締役に損害賠償責任が追及されることになります。
いずれの場合も、取締役が違反した場合は会社に対して損害賠償責任を負うことになり、違反行為は取締役解任の正当事由となります。ただし、取締役の判断の前提となる事実認識と判断の過程に不注意な誤りがなく、判断の内容が著しく不合理でない場合は、注意義務違反とならないという原則があります。
利害関係者のある第三者への責任
取締役は、ステークホルダーに対して責任を負います。ステークホルダーとは、企業経営で直接的または間接的に影響を受ける利害関係者のことです。たとえばクライアント、従業員、株主、地域社会、行政機関、金融機関などがステークホルダーにあたります。
取締役が悪意や故意によりステークホルダーに損害を与えた場合、会社から損害賠償責任を追及されることになります。
また、取締役が粉飾決算により自己や第三者の利益を図り、会社に損害を与えた場合は、刑事罰が科されることになります。
取締役に求められる3つの能力
会社経営に重大な責任を負う取締役には、さまざまな能力が必要になります。その代表的なものを3つご紹介しましょう。
●マネジメントスキル
●経営スキル
●ヒューマンスキル
1.マネジメントスキル
会社の意思決定と執行に携わる取締役には、会社のリソースを適切に管理し、会社を発展させ、ステークホルダーに利益をもたらす義務があります。 具体的には、会社のミッション・ビジョンを社員に伝える力、事業の進捗を管理する力、状況を把握し判断する力などについて、高いレベルでのスキルの発揮が求められます。
2.経営スキル
取締役には事業戦略や経営戦略、法務、組織戦略、財務戦略など、経営にかかわるスキルが求められます。状況に応じてそれぞれの専門家に相談してアドバイスを受ける会社のトップも多いですが、最終決定をするのは社長です。
しかし、その判断を大きく間違えてしまうと経営に多大な悪影響が出てしまいます。取締役は社長に適切な助言ができるように、経営について全般的に理解しておくことが求められます。
3.ヒューマンスキル
取締役には社内外で良好な対人関係を構築し、円滑なコミュニケーションをとるためのヒューマンスキルが求められます。自分の考えを正確に伝えたり、相手の考えを正しく理解したりするといった相互のコミュニケーションを図る能力です。
まとめ
取締役は、会社から経営を委任され、業務執行に関する意思決定を行います。雇用契約を結ぶ一般社員とは異なり、取締役は委任契約が基本で、任期は原則2年と定められています。
取締役は株主総会で説明責任を果たしたり、顧客との良好な関係を構築したりといった場面でも活躍します。
また、取締役には、会社に対する善管注意義務や忠実義務があり、それらに違反すると解任されたり、責任を追及されることになります。近年は、上場会社に社外取締役を設置することが義務づけられ、取締役会に経営を監督し、経営の透明性を高める役割が強く求められるようになりました。