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採用成功は企業と人との「相思相愛」

2014年2月14日更新

採用成功は企業と人との「相思相愛」

企業の採用活動において大切なことは何か。中小企業の採用現場を長年取材してきた平田未緒さんは、そのポイントは「相思相愛」につきると力説しています。

なぜあの会社には使える人材が集まるのか』(PHPビジネス新書)より、その一部をご紹介します。
 
 
*   *   *
 

「いい人が来ない」「使えない」「すぐ辞める」には理由がある

 
「いい人が応募して来ないんだよね」
「募集しても、そもそも応募が全然なくて困っている」
「しかも、せっかく採用しても続かないで、すぐ辞めてしまう」
 
企業で採用を担当する方々から、こうした声を聞くことが増えています。「使えない人ばかり」といった、乱暴な感想も少なくありません。
パート・アルバイトなど有期契約社員については、企業規模を問わず、多くの会社から同じ悩みを相談されます。正社員に関しては、「応募がない」「いい人がいない」「使えない」は、新卒・中途とも中小企業に多い悩み。一方、新卒正社員の「せっかく採用しても、続かない」は、大企業にも多い悩みです。
 
これは、いったいなぜでしょうか? 「世の中、そんなに 使えないに人だらけになっちゃったのかな?」と、冗談っぽく思ってしまいそうになります。でも、そんなわけはありません。実際、「いい人」を採用し、仕事がうまく回っている会社はたくさんあります。
 
もちろん、働く側の意識の変化もあり、多くの企業に共通するような、基本的な「採用基準」とは異なる人が増えてきている面もあるでしょう。しかし、だからといって、「自社に応募してくるのは使えない人ばかり」と言うのは、短絡的です。
 
「いい人が来ない」「すぐ辞める」のは、会社側にも理由があるのです。
 

目指すところは、企業と人との「相思相愛」

 
では、「いい人」が採用でき、仕事がうまく回っている会社は、いったいなぜ、そうした状況をつくり出せているのでしょうか?
 
その理由であり、鍵となっているのが「相思相愛」。私が17年間、企業と働く人の取材をしてきて、「これしかない」と思い至り、たどり着いた答えです。
 
相思相愛とは、要するに、雇う側が「この人に働いて欲しい」と思い、一方働く側も「ここで働きたい」「働き続けたい」と思っている状況です。こうした状況を作り出せている企業では、採用がうまくいき、定着もしています。結果、企業業績も伸びています。
 
ちなみに、人の採用から戦力化までの各段階を、相思相愛を切り口に考えると、「男女の出会いから継続的な結婚生活(共同生活)」の各段階に、驚くほどぴったりとなぞらえることができます。
 
たとえば募集は、お見合いの相手を探すこと。「結婚相手を探しています」「探しているのはこんな人です」「一方私は、こんな人です」ということを、周囲にきちんと伝えます。結婚紹介所に登録したり、顔が広く世話好きな親戚や知り合いに「誰かいませんか」と相談することもあるでしょう。求人の場合は、求人広告を出したり、エージェントに紹介を依頼します。
 
その後、お見合いは、写真や自己紹介書などの情報を手がかりに、候補の中から会う相手を決定します。求人なら、履歴書や職務経歴書の情報をもとに、面接する人を決める段階です。
 
こうしてお見合い相手、つまり面接相手を決定したら、会ってみていろいろと話をし、お互いの希望や価値観を確認します。「自分がどんな生活をしたいのか」「相手はどんな家庭を築きたいのか」、つまり「どんな仕事をして欲しいのか」「どんな働き方をしたいのか」など、お互いの望みを確認し合います。ここが合致しない結婚は、破綻しやすいものだからです。
 
その結果、「この人なら」と思えたら、結婚の申し込み、つまり「採用」を決定するわけですが、このとき、こちらが「いいな」と思っても、相手から断られる可能性があることまで、実際のお見合い結婚そのものです。
 

募集・採用後も続く「相思相愛」の大切さ

 
募集・採用が、出会いから結婚に至る各段階であるならば、その後の定着・戦力化は、末永く幸せな結婚生活を手にすることと、そのための努力そのものです。たとえば、入社は入籍です。雇用契約を結ぶことは、婚姻届に署名・捺印し、届けること。つまり、雇用契約なら働く条件について互いに合意し明示して、入籍であればお互いの気持ちを確かめ合って、今後の関係を約束する瞬間です。
 
しかしながら、こうしてきちんと書類を交わし、約束しても、まだまだ油断はなりません。一緒に生活することで、お見合いの場や事前情報ではわからなかった相手の意外な一面を見て、「こんなはずじゃなかった」「もう嫌だ」という思いに至ってしまう可能性はゼロではありません。もちろん、こんな状態では結婚生清は続けられず、最悪の場合離婚となってしまいます。
 
こうした悲しい結果を防ぐには、お互いが思いやりの気持ちを持って、相手を理解するよう努めること。会社であれば、新人の受け入れや初期教育を、丁寧にしっかり行うことでしょう。
 
ようやく2人の生活が走り出しても、まだまだ山あり谷ありです。互いが生活に充実感を感じ、満足感を得ていくためには、公平な家事分担や、日々の会話、情報共有や、まめな連絡などのコミュニケーションが欠かせません。また、相手の個性や考え方を尊重し、認め合った上で、日々接していくことが大切でしょう。
 
 

時給を上げたら「利益が上がった」スーパー

 
「相思相愛」で成功している企業の事例をご紹介しましょう。
 
東京に隣接する首都圏で、県内に10数店を展開する地元密着型スーパーの事例です。このスーパーでは、「パートが採用できない」状況が続いていました。これに困った同社は熟考の末、あるとき「パートの時給を全員一律、一気に100円アップさせる」決断をしたのです。
 同社のパートは約1000人。この時給を一律100円上げるというのは、大きな経営判断です。それでも断行し、結果は「正解」。人件費は上がったものの、利益も増えました。理由は、こうです。
 
「時給を上げたら、応募者が増えただけでなく、応募者の質が明らかに変わりました。かつて正社員として働いていた、あるいは同業他店で働いていた、能力が高く経験豊富な応募者が増えたのです。彼らはまさに即戦力。また、時給をアップし、そうした “できる新人”が入ってきたことが刺激となって、既存のパートさんたちのモチベーションが上がりました。結果、仕事の質が上がり、販売のチャンスロスや、廃棄ロスが激減し、人件費コストの上昇を上回る、経費節減ができたのです」
 
ここで注意したいのは、すでに雇用されていたパートのモチベーションが上がったのは、「単に時給が上がったから」だけではないことです。上げることによって、どんな働きぶりを期待するのか。上げるからには頑張って、自社のために正社員と一丸となって貢献して欲しいことなどを、会社がパートにしっかり伝えていたことが、パートの意識を変えました。
 
時給アップは、会社側の「本気度」の表現として、受け止められたのです。
 
 

タイムカード打刻機に人だかり?

 
実際、このスーパーの取材では、この話を裏付ける場面に遭遇しました。朝からの社長インタビューを終え、写真撮影や現場で働く人の声を聞くため、バックヤードを歩いていたら、制服に着替えたパートさんが、タイムカードの打刻機を取り囲むようにして、二重、三重に立っているのです。
 
思わず「何をしているのですか?」と聞いたところ、「1時になるのを待っているんです」という答え。
 
同社では、給与は1分単位で支払っています。これに対し、「それでなくても、時給が大幅にアップしている。勤務開始時刻より早く打刻すると、会社に迷惑をかけてしまう。とはいえ、遅刻するわけにはいかないので、勤務開始となる午後1時の直前に、皆が一斉に打刻できるよう、機械を囲んで待っている」というのが、タイムカード打刻機を取り巻く、不可解な人だかりの理由でした。
 
企業側と、働く側が、まさに「相思相愛」の関係になっています。さらによいことは、こうした風土の会社に入った新人は、自然とその風土に従った行動をしていくようになることです。他社での正社員経験があったり、他のスーパーでの仕事経験があるなど、スキルを持った人でも同じです。先輩パートの、まさに「背中を見て」育っていくのです。
 
もちろん、「こんな職場は合わない」と、早期に辞めていく人もいるでしょう。でも、それでいいのです。逆に「そのほうがいい」とも言えるでしょう。
 
これはパートタイマーの事例ですが、パートもアルバイトも正社員も、要するに「人」。相思相愛は、雇用形態の違いを超えて共通する、普遍的な成功事例の共通点です。
 

なぜあの会社には使える人材が集まるのか
 
優良企業だけが知る、募集広告、メディア選択、応募受付と面接方法の秘訣を大公開!中小企業の採用現場を長年取材し、数多くの現場の声を知る著者が、丁寧に解説します。全ての採用関係者と企業経営者にとって、必読の一冊です。
 

平田未緒(ひらた・みお)

株式会社働きかた研究所代表取締役。早稲田大学卒業後、情報誌記者・編集者として勤務。その後、求人広告企業・株式会社アイデムに入社、同社の人と仕事研究所にて人事マネジメント情報誌3誌の編集長を歴任する。この間、CS、ES、人事制度、マネジメント、能力開発、パート・アルバイトの戦力化などをテーマに、数多くの企業ならびに働く個人を取材。雇用に関する現場情報に詳しい。2009年、同研究所所長に就任。2013年、同職を辞し、「企業に対するパート・アルバイトの活用支援」事業にて独立。
著書に 『パートのやる気を120%活かす法』(ダイヤモンド社)、『パート・アルバイトの活かし方・育て方~「相思相愛」を実現する10ステップマネジメント~』(PHP研究所)などがある。 

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