目標管理研修を実施する目的は? MBOの課題と研修プログラムの事例も
2021年9月22日更新
目標管理(MBO)は経営学者・ピーター・ドラッカーが提唱したマネジメント手法で、すでに多くの日本企業で導入されています。しかし、せっかく導入した目標管理がうまく機能せず、課題を抱えたままという企業も少なくありません。
そこで今回は、目標管理の課題やその解決法、研修プログラムの事例について紹介します。
ドラッカーが提唱した目標管理(MBO)とは
ドラッカーによって提唱された目標管理(MBO)は、日本でも1970年代から徐々に企業での導入がすすみ、今ではほとんどの企業で用いられています。ただし、成果主義の弊害が指摘されるようになった2000年代以降、目標管理のあり方もまた、見直しがすすんでいます。ここでは、目標管理とは何かをあらためて確認し、その現状を確認していきましょう。
目標管理=組織のマネジメント手法のこと
MBOとはManagement by Objectivesの略語です。組織マネジメントの手法のひとつで、日本では目標管理と呼ばれます。目標管理では、メンバーは目標を設定してその達成をめざし、管理職は適切な指導・支援を行うことにより、組織・チームとしての目標・ミッションの達成をめざします。
しかし、実際の現場では、期初に目標は設定されるものの、その後は単なる進捗管理、ノルマ管理がなされるだけで、「目標を管理する」制度となっているケースが多いようです。目標管理は本来、「目標」を活用して「マネジメント」を行う制度であり、そうした問題が起こるのは多くの場合、管理職がこの制度の意義や目的を正しく理解していないことに原因があるようです。
目標管理の導入背景と現状の普及率
目標管理は、ほとんどの企業で用いられています。2018年に実施された労務行政研究所による「目標管理制度の運用に関する実態調査」では、目標管理の普及率は79.3%に達していると報告されました。(※1)
※1 労務行政研究所「民間企業440社に見る人事労務制度の実施状況」(2018年)
現代では目標管理の活用が一般的になっていますが、日本で一斉に導入され始めたのは、1990年半ば以降です。この時期の日本はバブル経済の崩壊と共に、生産年齢人口の伸びも低下し、戦後経済成長からの果実はその残滓もほぼ採り尽くされました。
このような状況の中で、日本企業では成果主義を導入し、「トップダウン」「ボトムアップ」から「ミドル・アップダウン」と呼ばれる意思決定プロセスに移行していきます。ミドル・アップダウンとは、経営者と現場社員の中間に位置する管理職が意思決定の調整役となり、変化の激しい市場環境に迅速に対応し、現場を動かして成果をあげていくというものです。管理職の職責は、従来以上に大きなものとなっていきます。
そうした中で導入が急速にすすんでいったのが目標管理です。経営目標を組織目標に落とし込み、管理職はマネジメントサイクル(PDCA)を回して、目標達成を推進していく。目標管理はそのためのマネジメント手法というわけです。
目標管理における典型的な3つの課題
現在、目標管理はほとんどの企業で用いられています。しかし、導入はしたもののうまく機能しないという声は多く聞かれます。
目標管理における典型的な課題は、以下のとおりです。
●社員の自律性や主体性の希薄化
●リスクを取らない目標を設定
●社員一人ひとりの孤立化と組織のサイロ化
それぞれの課題を確認していきましょう。
1.社員の主体性・責任感の希薄化
目標管理は、管理職(上司)と部下が話し合い、合意の下で目標設定するのが理想です。しかし、実際の現場では、達成すべき課題は上司から与えられる場合がほとんどです。このとき、きちんとした説明やコミュニケーションがなされなければ、部下は自分事であるべき「目標」を他人事の「ノルマ」ととらえ、主体性や責任感の希薄化が進みます。
それでも意欲がある社員は自らアイデアを出し、提案をしてきます。しかし、そうした提案も予算やタイミングなどの問題もあり、必ずしも採用されるわけではありません。一方的に却下されてしまったと感じた部下は、当然、モチベーションが下がります。そんな中で、上司が必要な支援やアドバイスをすることもできず、目標数字と進捗の管理だけをくりかえしていれば、部下の主体性はどんどん失われていきます。
2.リスクを取らない目標を設定する
程度の差こそあれ成果主義が採り入れられている現代の企業では、目標の達成度は給与や処遇に関係してきます。ですから、高い評価を得たい部下は達成度を高めるために、無難に達成できそうな目標を設定する傾向が強くなります。つまり、リスクを取らなくなるのです。
また、目標達成のための行動も、結果が読める施策に偏ることも少なくありません。できる限り失敗しない安全策を選択し、目標を達成しようとしがちです。
そうなると、部下のチャレンジ精神はどんどん失われていきます。企業や組織が抱える課題を打ち破るような革新的なアイデア、イノベーションは生まれませんし、部下自身の成長も望めません。
3.社員の孤立化と組織のサイロ化
目標を設定した社員は、個人の目標達成が最優先になるため、メンバー間の連携がおこりにくくなりがちです。目標と関係しない仕事を後回しとする、他のメンバーのサポートをしなくなるなど、チームワークが阻害されて社員の孤立化が進みます。
組織の雰囲気も、協力的ではなくギスギスしたものとなり、その結果、ますます個人の目標を達成することだけにコミットした働き方になってしまうのです。
また組織、部署の連携も失われ、サイロ化が懸念されます。部署の目標達成が最優先となり、周囲への関心が低下すると、ほかの部署がどのようなことに取り組んでいるのかもわからない状況に陥ります。しかも、この傾向はテレワークの普及が進むことで、ますます強まってきています。組織の縦割りというのは、一定規模以上の企業では指摘される問題です。なんらかの対策を講じる必要があるでしょう。
目標管理研修を実施する4つの目的
目標管理を導入している企業では、これまで紹介してきたような課題を大なり小なり抱えているものです。では、そうした課題を解決するにはどうすればよいのでしょうか。そのカギとなるのが、管理職を対象とした目標管理研修ということになります。
1.管理職に目標管理の意義を正しく理解させる
目標管理がうまく機能しない最大の原因は、その意義や目的が正しく理解されていないことにあります。まずは、目標管理はノルマ管理ではないということを管理職がきちんと認識し、行動することからはじめなければなりません。
くりかえしになりますが、目標管理とは「Management by Objectives」です。管理職が「目標を管理する」制度ではなく、「目標」を活用して「マネジメント」を行う制度です。ですから、管理職(上司)として部下の目標達成をサポートし、ともに達成していくのだという認識を植え付けることこそが、研修の出発点といえます。
この点を管理職がしっかりと理解すれば、日々のマネジメントスタイルも変わってくるはずです。部下とのコミュニケーションの取り方も変わり、部下の主体性を引き出し、目標に対する責任感=自分事としての意識を高めることも期待できます。
2.適切な目標設定の方法を習得する
いくら目標管理制度を導入しても、目標そのものを正しく設定できなければ、マネジメントは機能しません。しかし、目標設定のポイントをはずしている管理職は案外多いものです。それでは、部下は具体的な行動をとることができず、上司も日々のサポートができません。
目標を設定するときに大切なのは「指標」と「水準」を明確にすることです。指標とは「何を達成するか」を示すもので、水準は「どのレベルまで達成するか」ということです。
例えば、営業職であれば、「売上金額を**千万円」など、指標と水準は定量的に明確に設定できます。しかし、間接部門の事務職などでは、そうはいきません。定性目標をどのようなルールで設定するか、管理職どうしが共通見解をもつようにしてくべきでしょう。あわせて、そうした目標の達成度がどう処遇に結び付くのか、評価のルールも理解しておく必要があるでしょう。
なお、目標設定のフレームワークとしては「SMARTの法則」が有名です。その目標は「具体的か(Specific)」「測定可能か(Measurable)」「達成可能か(Achievable)」「関連性があるか(Relevant)」「期限はあるか(Time-bound)」といった視点で設定していくものです。こうしたことも参考にプログラム内容を検討しましょう。
3.マネジメントサイクルの回し方を考えさせる
目標を設定できたら、部下は目標達成に向けて活動を進めます。仕事は部下自身がセルフマネジメント(PDCA)しながらすすめていくことになりますが、上司も進捗を把握し、必要な支援をおこない、PDCAを回していかねばなりません。
1on1ミーティングなどを通じて、もし活動に遅れが目立つなら、早めに適切なサポートをすべきですし、必要に応じて計画の見直しをしなければなりません。期初に設定した目標は絶対に変えてはいけないなどということはありません。そうしたこともしっかり理解してもらいましょう。
近年は働き方が多様化しており、リモートワークや在宅ワークを導入する企業も増えています。直接会って部下と会話をする手段が軽減するなかで、上司はどのようにマネジメントサイクルを回していけばよいのかを討議するのもよいでしょう。
4.部下とのコミュニケーションスキルを身に付けさせる
目標管理のマネジメントサイクルを的確に回すためには、管理職(上司)としてのコミュニケーション能力も必要不可欠です。目標設定、期中の1on1やOJT、期末の評価面談など、上司のコミュニケーション能力が、目標管理の成否を大きく左右するといってもよいでしょう。
特に、処遇に結び付く評価面談はなかなか難しいものです。部下自身の活動を振り返りながら達成具合を合意し、未達であれば部下と一緒に原因や問題点を分析し、管理職から解決するためのフィードバックを行わねばなりません。
目標管理研修では、部下とうまくコミュニケーションをとる方法、フィードバックのポイントもしっかりと学ばせたいものです。
目標管理研修の1日プログラム事例
目標管理の課題や研修の目的、ポイントを紹介してきましたが、さいごにまとめとして、研修プログラム事例を紹介します。ここで紹介する項目を参考に、貴社にあった目標管理研修のプログラムを策定してください。
・目標管理の意義と目的
目標管理とは何か
目標管理を行うメリット
目標管理における管理者の役割
・マネジメントサイクルの回し方
目標管理のマネジメントサイクル(PDCA)
進捗の確認と把握〜日常のコミュニケーション
状況に応じた計画の見直し
目標達成へ向けたモチベーション付け
・目標設定の具体的な方法
目標とは何か
SMARTの法則
定量目標と定性目標
職種別ケーススタディ
・目標管理における面談の進め方
目標設定面談のポイント
期中のフォロー(1on1、OJTなど)のポイント
評価面談と育成計画立案のポイント
・コミュニケーションスキルの高め方
目標設定面談や中間面談、評価面談などの機会設定
コーチングスキルの習得(傾聴、ペーシング)
承認(アクノレッジメント)で相手に寄り添う
効果的なフィードバック
限られた研修時間では、自社の制度理解や趣旨説明、目標設定のポイントなどでめいっぱいかもしれません。ただ、くりかえしますが、目標管理はノルマ管理ではなく「目標を活用したマネジメント」というのが本来の意義です。ですから、管理職(上司)には部下への積極的な支援、ともに目標を達成するためのコミットメントが不可欠です。そうした意味では、コミュニケーションスキルを高める教育は、研修機会をあらためてでも、必ず実施することをお勧めいたします。