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組織を変革するイノベーションリーダーの3つの条件

2019年7月11日更新

組織を変革するイノベーションリーダーの3つの条件

変化に対応していかなければ生き残れない今の時代、組織を変革していく「イノベーションリーダー」の存在は不可欠といえるでしょう。松下幸之助のエピソードをひもときながら、その条件を考えます。

イノベーションリーダーの条件

昨今のグローバルな規模での産業構造の変化が、企業に不断の変革を迫っています。変化の荒波を乗り越え事業を継続させるためには、環境変化に対応してイノベーションを起こせる人材、すなわちイノベーションリーダーを育成し、各現場に配置することが極めて重要な課題となってきました。そこで、松下幸之助のエピソードをひもときながら、イノベーションリーダーの条件を考えてみたいと思います。

条件1「ゼロベース思考」

昭和36年、カーラジオを製造していた松下通信工業(現・パナソニックモバイルコミュニケーションズ)に、納入先のトヨタ自動車から20%の値下げの要望が来ました。その対応を幹部が協議している時に、幸之助が通信工業を訪れました。

エピソード「設計からやり直してみ」
「今日は何の会議や」
「はい、実はトヨタさんから大幅な値引き交渉があって、その対応策を協議しているのです」
そこで幸之助はこう言った。
「常識的に考えたら、この話は断わるのが筋かもしれん。しかし、うちがトヨタさんの立場に立ったら、やはり同じ要求をするやろう。トヨタさんは、どうしたら日本の自動車産業を維持できるか苦しんではるのや。それを考えると、まず"できない"という考えを捨てることや。そして、一から新しい方法を生み出してみてはどうか。5%下げるより20%下げるほうが容易な場合が多い。それは発想が変わるからだ。性能を落とさず、かつ思い切ってラジオの設計そのものをやり直してみてはどうか。部分的な改良ではそれだけの値下げはできん」
その後一年あまりして20%の値下げに応ずることができ、しかも適正な利益が生まれるようなカーラジオが誕生した。抜本的な設計変更と、生産ラインの見直しによって、技術者たちの努力が実ったのである。

『エピソードで読む松下幸之助』(PHP研究所)

この事例から学べることは何でしょうか? 私たちが仕事をする上で、過去の経験や知識を参照することは大切ですが、それに固執し過ぎると自由な発想が妨げられてしまうことが往々にしてあります。特に現代のような変化の激しい環境下では、陳腐化してしまった過去の成功体験や常識を意図的に捨て去って(=学習棄却;unlearning)、ゼロベースで発想する必要性が高まっているのです。
「万物流転」という考え方のとおり、世の中は常に変化しています。だからこそ、素直な心で目の前の事象を捉え、過去の経験や知識にとらわれない、自由な発想で対応策を考えることが大切でしょう。そんな地道な努力を愚直に積み重ねることが、イノベーションリーダーへの第一歩になるのです。

条件2「ポジティブ思考」

次に、昭和2年、松下電器(現・パナソニック)が初めてアイロンの開発を手がけたときのエピソードをご紹介しましょう。

エピソード「君ならできる!」
(松下)幸之助は若い技術者を呼んで言った。
「今、アイロンを他社がつくっているが、価格が高く、便利なものなのに多くの人に使ってもらうことができない。そこで、わしは合理的な設計と量産によって、できるだけ安いアイロンをつくり、その恩恵にだれでもが浴せるようにしたい。それを松下でぜひやり遂げたいのだがどうだろうか」
技術者は、幸之助の熱意に感激した。
すかさず幸之助は命じた。「きみ、このアイロンの開発を、担当してくれたまえ」
ところがその技術者は、アイロンについては何も知らない素人である。当然辞退した。
「これは私一人ではとても無理です」
それに対する幸之助の言葉は、力強く誠意に満ちていた。
「いや、できるよ。きみだったら必ずできる」
そのひと言で青年の心は動いた。なんとかできるような気がしてきた。
「意義のある仕事です。及ばずながら精いっぱいやらせていただきます」
幸之助が願ったとおりの低価格で、便利な『ナショナルスーパーアイロン』ができあがったのは、それからわずか3カ月後であった。

『エピソードで読む松下幸之助』(PHP研究所)

何事もやる前から「できない」と考えたのでは、できることもできなくなってしまいます。イノベーションを実現するためには「必ずできる」と心の底から強く信じることが何よりも重要なのです。
ポジティブな発想については、単なる精神論ではなく脳科学の分野においてもその重要性が明らかになってきました。昨今の研究成果によると、「できない」というネガティブな発想をすると、脳はできない理由を探索し始めますが、逆に「できる」あるいは「どうすればできるか」というポジティブなことばや思いを持つと、脳はできる状態にするためのアイデアを探索すると言われています。
イノベーションリーダーの果たす役割の一つは、前向きで可能性に満ちたエネルギーを周囲に与えることです。そうであるならば、日頃からポジティブな発想を心がけると同時に、部下・メンバーに対して「どうすればできる?」というポジティブ質問を投げかけるなど、地道な取り組みに徹することがイノベーションリーダーを目指す人には求められるのです。

条件3「衆知を集める」

松下幸之助が初めてソケットを考案製造したときのこと。ソケットをつくりはしたが、いわばまったくの素人、それをいくらで売っていいかがわからなかった幸之助は、さっそく、できたソケットをふろしきにくるんで、ある問屋を訪れました。

エピソード「いくらで売ったらいいでしょう」
「実は私のところでこういうものをつくったんです。お宅で扱っていただけませんでしょうか」
「うん、ええやろ。うちで売ってあげよう。ところで、いったいいくらやねん」
幸之助は適当な値段を言いたいところであったが、言えなかった。それで正直に話した。
「実は、いくらで売ったらいいものか、私にはわからんのです」
「わからんでは商売にならんで」
「もちろん原価はわかっとるんですが......」
「なるほど、原価がそれくらいなら、このくらいの値段で売ったらええな」
問屋がソロバンをはじきながら考えてくれる。なかには、世間の相場を考慮して、値段を考えてくれる問屋まであった。幸之助が商売を始めた当初は、こうした姿のくり返しであった」

(『エピソードで読む松下幸之助』(PHP研究所)より)

明治時代の五箇条の御誓文に「広く会議を起こし、万機公論に決すべし」と記されているように、元来日本人は、多くの人の意見を集めたうえでものごとを決めてきました。
しかし昨今のグローバル化、スピード化、情報化の進展が日本人のマネジメントスタイルを変えつつあります。できるリーダーほど迅速な意思決定をしたいがために、自分の考えや、各種データ、インターネット情報に頼り、部下・メンバーの意見や知恵を取り入れようとしない傾向があります。
一橋大学・名誉教授の野中郁次郎氏は、衆知を集めた全員経営こそが知識創造企業の条件であると述べ、衆知とイノベーションの深い相関性を指摘しています。一人の知恵には限界があります。謙虚に素直に人の意見に耳を傾け、衆知を集める努力がイノベーションリーダーには求められるのです。


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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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