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「人を育てる人」に求められる人間観

2021年2月24日更新

「人を育てる人」に求められる人間観

ワークスタイルの変化が上司と部下の関係に影響を及ぼし、OJTのやり方にも従来の常識にとらわれない新しい発想が求められています。一方で、どんなに時代が変わっても変わることのない人材育成の原理原則があります。それは、人を育てるためには、相応の人間観が求められるということです。
そこで、本稿では「人を育てる人」にはどんな人間観が求められるのか、考察したいと思います。

なぜ、人間観が大切なのか

自分がもっている「価値観」や「ものの見方・考え方」は、本人が自覚するのは難しいけれど、自分以外の第三者は敏感に感じ取るものです。
南山大学・人文学部の中村和彦教授は、「コーチングやファシリテーションをマネージャーやリーダーが学ぶ場合は、手法やスキルだけではなく、みずからのマネジメント観や価値観も点検する必要があります。マネージャーやリーダーがX理論というマネジメント観をもち続けながら、手法としてコーチングのスキルを実施したとしても、部下に見透かされる」(※1)と主張しています。

リーダーがもつべきマネジメント観や価値観のなかでも、人間をどう見るかという「人間観」が、仕事の成果にもっとも大きな影響を及ぼします。経営は人間を相手にして展開される営みなので、適切な人間観をもって人や組織を統率する姿勢がリーダーには求められるのです。

さまざまな人間観

しかしながら、人間観には古今東西さまざまな考え方があって、唯一絶対の考え方があるというわけではありません。以下に、代表的な4つの人間観とそれぞれの意味をご紹介しましょう。

◆「一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょうしつうぶっしょう)」
仏教の人間観
すべての人は、かけがえのない使命を天から与えられた大切な存在である

◆「X理論-Y理論」
米国の心理学者・経営学者であるダグラス・マグレガーが提唱した人間観とマネジメント理論
・X理論:人間は怠け者で放っておくと仕事をしなくなる
・Y理論:人間は自己実現のためにみずから進んで問題解決をする

◆「性善説」
古代中国の思想家・孟子(もうし)の説いた人間観
人間は善を行うべき道徳的本性を先天的に具有しており、悪の行為はその本性を汚損・隠蔽(いんぺい)することから起こるとする説

◆「性悪説」
古代中国の思想家・荀子(じゅんし)の説いた人間観
人間の本性を利己的欲望と見て、善の行為は後天的習得によってのみ可能とする説

X理論とY理論について

前述の「X理論」と「Y理論」について、もう少し掘り下げておきましょう。マグレガーのインタビュー調査によると、米国企業のマネージャークラスの人たちは、下記のような考え方でマネジメントを行なっていたそうです。

1)たいていの人は、仕事が嫌いで、できることなら働きたくない
2)たいていの人は、強制されたり、統制されたり、命令されないと十分な努力をしない
3)たいていの人は、命令されることを好み、責任をとりたがらない
4)たいていの人は、仕事が嫌いなわけではなく、条件次第で仕事は満足の素になりうる
5)たいていの人は、自分が打ち込む目標が達成されるように自己管理ができる
6)自我や自己実現の欲求が満たされるとき、人は目標に打ち込む
7)たいていの人は、適切な条件のもとでは、進んで責任をとろうとする
8)組織における問題を解決する能力を、組織を構成する多くの人がもっている
9)平均的人間のもつ地力の潜在的可能性は、ほんの一部しか活用されていない

これらのうち、(1)から(3)が「人間は怠け者である」というX理論の人間観で、(4)から(9)が「人間は自己実現を目指す」というY理論の人間観にあたります。マグレガーの理論には賛否両論ありますが、いずれにしても、リーダーがX理論をもつかY理論をもつかによって、職場が大きく変わるのは間違いないと考えられます。
X理論で考えるリーダーは、「メンバーは怠け者だ」という前提で取り組むため、メンバーにその意識が投影し、X理論に近い職場ができあがるでしょう。反対にY理論で考えるリーダーは、「メンバーの自己実現」を前提に取り組むため、前向きな気持ちが伝わり、Y理論に近い職場が形成されていくのです。つまり、「肯定的な人間観」が「強い現場」をつくっていくということです。

人間観については、上記以外にも多種多様な考え方が存在していますが、大別すると人間を肯定的に見るか、否定的に見るか、2つに分類されます。どちらが正しく、どちらが間違いという判定ができるほど単純ではないものの、組織マネジメントの観点に立つならば、好ましいのは肯定的な人間観をもつことです。

松下幸之助の人間観

肯定的な人間観に関してさらに理解を深めるために、人づくりの達人であった松下幸之助の人間観をご紹介いたします。幸之助は、著作の中で、リーダーがもつべき人間観についてたびたび言及しています。

人間はだれもが、磨けばそれぞれに光る、さまざまなすばらしい素質をもっている。だから、人を育て、活かすにあたっても、まずそういう人間の本質というものをよく認識して、それぞれの人がもっているすぐれた素質が生きるような配慮をしていく。もしそういう認識がなければ、いくらよき人材がそこにあっても、その人を人材として活かすことはむずかしいと思う

『人を活かす経営』PHP研究所

人にはおのおのみな異なった天分、特質というものが与えられています。私は、成功というのは、この自分に与えられた天分を、そのまま完全に生かしきることではないかと思います。それが人間として正しい生き方であり、自分も満足すると同時に働きの成果も高まって、周囲の人びとをも喜ばすことになるのではないか

『人間としての成功』PHP研究所

素直な心で人間一人ひとりを見れば、誰一人として同じ人はいない。そうであるならば、同じ使命をもつ人も、同じ才能をもつ人もいるはずがなく、よって成功とは人それぞれ異なるものであるはずだ。そのように考えれば、人間としての成功とは、その使命や才能を発揮させることにある。その前提に立てば、人を育てる際は誰もがすばらしい素質をもっていると考えて接すること、またその素質を見つけて磨くことが必要になる。
あたたかもダイヤモンドの原石のように、人間は磨き方、カットの仕方いかんで、さまざまな光を放つ存在なのである。

『[愛蔵版]松下幸之助一日一話』PHP総合研究所

肯定的な人間観をもつことのメリット

リーダーが肯定的な人間観をもてば、おのずと人と組織の可能性に意識が向かい、それらを引き出そうという行動をとる確率が高くなって、職場の生産性が上がります。肯定的な人間観をもつことで得られるマネジメント上のメリットには以下の3つが挙げられます。

メリット(1)リーダー自身の意識がポジティブになる

昨今の脳科学の研究から、ことばの使い方や思いのもち方によって、脳の働き方が変わってくることが明らかになりました。例えば、「できない」という否定的なことばを口にしたり思いをもったりすると、脳はできない理由を探し始めます。逆に「できる」あるいは「どうすればできるか」といった肯定的なことばを言ったり思ったりすると、脳はできる状態にするためのアイデアを模索するのです。 人に対する見方も理屈は同じです。「この人にはできる」ということばや思いをもつと、相手に対するポジティブな意識が芽生え、接し方や態度も変わってくるでしょう。

メリット(2)メンバーのモチベーションが上がる

既述のとおり、「ものの見方・考え方」は、本人が自覚するのは難しいけれど、自分以外の第三者は敏感に感じ取るものです。したがって、リーダーがメンバーに対するポジティブな意識をもてば、それは必ず相手に伝わります。そして、「自分の可能性を信じてくれている」「期待されている」という自覚が生まれ、モチベーションを上げると同時に、リーダーの期待に応えるための行動を起こすようになるのです。

メリット(3)メンバーの強みが引き出される

人は誰でも強みと弱みをあわせもっています。現代のリーダーシップ研究の分野では、「弱みを改善するよりも、強みに意識を向け、それを活かすほうが最大の能力発揮につながる」という考え方が主流とされています。リーダーがメンバーの強みに意識を向けるとともに、メンバーに自身の強みを気づかせることは、その人の成長を促すうえで重要です。

人間通のリーダーを目指す

すぐれたリーダーの多くは、"人間通"です。基本的に人が好きで、人への信頼や尊敬、思いやり、感謝の気持ちなど、肯定的な人間観をもつ傾向にあります。そうしたリーダーのもとでは、人の可能性ややる気が引き出され、組織が強くなるでしょう。 自身の現状が「人間通でない」と自覚しているリーダーもいるでしょう。でも、「人を好きになろう」「人を信頼しよう」「人のいいところを見ていこう」と心がけ、行動することで自身の人間観が変容し、人間通に近づくことはできます。
「人を育てる人」には、人間通を目指し、できるところからアクションを起こす地道な努力が求められるのです。

※1 出典:『入門 組織開発-活き活きと働ける職場をつくる』中村和彦著(光文社新書)
※2 米国のコンサルティング会社・ギャラップ社がアセスメントツール「ストレングス・ファインダー」を開発した際の基本の考え方

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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