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問いかけの効果~イノベーションを促進し、部下を育てる

2022年5月18日更新

問いかけの効果~イノベーションを促進し、部下を育てる

昨今、「問いかけ」の重要性が再認識されています。効果的な問いかけは、固定概念を崩し、新たな気づきとひらめきを誘発して個人の成長・組織のイノベーションを促進するといわれています。本稿では、能力開発・組織開発につながる問いかけの効果について考察したいと思います。

INDEX

なぜ、思考が停止するのか

年々、コンプライアンスへの注目度が高まっているにも関わらず、企業や公的機関での不祥事が絶えることはありません。特に最近では、経営理念を重視してきた名門企業で不祥事が起きる事案が増えています。

なぜ、理念を重んじる組織で数多くの欠陥や誤りがなくならないのか、米国の組織心理学者 A・タッカーとA・エドモンドソンは、そのことに注目しました。二人が調査した、ある病院では「間違わないことが重んじられる文化」が根付いていて、それがかえって正しい行為から遠ざかってしまう結果につながっていました。(※1)。

つまり、その病院が掲げている理念や、長年踏襲されてきた仕事の進め方が、あまりにも強固に確立され、浸透・共有されるがゆえに、誰もがその正しさや妥当性を疑うことなく、唯々諾々と業務に取り組んでいたのです。

「問いかけ」こそが、思考にスイッチを入れる

このように、ある考え方や文化が組織に根付くと、一体感が高まる一方、逆機能として思考停止を招き、イノベーションの阻害要因になる可能性があります。そうならないために、タッカーとエドモンドソンが主張しているのは、「従来のやり方を受け容れたり、守ろうとしたりする前に、まずそれでいいのかどうか、たえず問う」人の存在が大切だということでした。

組織にゆさぶりをかけ揺らぎを生み出すことが、組織の機能不全を防ぐのです。従って、経営者・リーダーは、同質性を担保しつつ、異質な主張や価値観を排除しないマネジメントを実践すること。そして、指示・命令よりも問いを多用し、思考を深掘りするような刺激を与え続けることが大切なのです。

また、経営理念についても「お客様を大切にします」というような言い切り型の表現よりも、「われわれの顧客は誰か」(※2)という問いかけ型のほうが、仕事に関わる一人ひとりの思考にスイッチが入りやすくなるのです。

人材育成の達人・松下幸之助の問いかけ

松下幸之助(パナソニック創業者・PHP研究所創設者)の口癖の一つが、「君、どない思う(どう思う)?」でありました。小学校を4年で中退して商売の道に入ったため、学校教育をまともに受けることのできなかった幸之助には、すべての人が師(先生)に見えました。だから、頻繁に周囲の人の意見を求めて衆知を集め、それを意思決定の判断材料にしていたのです。

一方、問いかけられる側の部下たちは、その都度深く考えるようになり、課題発見・形成力が高まっていきました。何よりも、最高経営責任者である幸之助から意見を求められることが励みになり、「もっと喜んでもらえるような提案や情報を提供しよう」と前向きなエネルギーが高まっていきました。

幸之助は人材育成の達人と言われましたが、問いかけによって相手の可能性を開花させた「名コーチ」でもあったのです。

松下幸之助「道はいくらでもある」

松下幸之助は、視点を変えることの重要性について、以下のように述べています。

富士山は西からでも東からでも登れる。西の道が悪ければ東から登ればよい。時と場合に応じて、自在に道を変えればよいのである。道はいくらでもある。一つの道に執着すれば無理が出る。無理を通そうとすると行きづまる。
何事も行き詰まれば、まず自分のものの見方を変えることである。案外、人は無意識の中にも一つの見方に執着して、他の見方のあることを忘れがちである。そして行き詰まったと言う。行き詰まらないまでも無理をしている。われわれはもっと自在でありたい。自在にものの見方を変える心の広さを持ちたい。
深刻な顔をする前に、ちょっと視野を変えてみるがよい。それで悪ければ、また見方を変えればよい。そのうちに、本当に正しい道がわかってくる。

『道をひらく』 松下幸之助著(PHP研究所)

道(視点)はいつも複数あるということを意識し、今の道が正しくないと思えば、違う道を探す柔軟性が求められるでしょう。

視点を変える4つの問いかけ

問いかけることが、個と組織に刺激を与え、視野の拡大を促進するのは前述のとおりです。だからといって、やみくもに問いかければいいというものではありません。その時々の状況に応じて、適切な問いを使い分ける必要があります。問いかける目的は、異なった視点を提供することです。そこで、視点を変える上で有効な問いを下記にご紹介いたします。

(1)掘り下げる問い
「氷山モデル」(※3)で水面下に何があるか考える

例:「今回の提案に対してお客様が即断で断ってきたのは、どんな背景があるのだろう?」

(2)視点を上げる問い
現在の自分より高い視点から、現状を俯瞰する

例:「自分が課長だったら、この問題にどう対処するかな?」

(3)視点の主体を移すための問い
立場を入れ替え、周り・相手の視点で考える

例:「今日のA社へのプレゼンについて、A社の担当者はどのように受け止めたかな?」

(4)時間軸で視点を変えるための問い
将来から今を見る

例:「5年後の自分はどうなりたいか? そのためには今何をするべきか?」

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GROWモデルで重要な「選択肢の創造」

GROWモデルで重要な「選択肢の創造」

さて、コーチングの入門書などで、よく紹介されている概念のひとつに「GROWモデル」があります。
GROWモデルとは、「Goal」(目標の明確化)→「Reality」(現実把握)→「Resource」(資源の発見)→「Options」(選択肢の創造)→「Will」(目標達成の意志)の単語の頭文字をとったもので、このステップを意識して相手に質問を投げかけていけば、効果的なコーチングができるとされています。5つの要素のそれぞれが重要ですが、中でも「Options」をどれだけたくさん作ることができるかが、コーチングの成否のカギを握ると言われています。

多くの人は、ものごとがうまくいかなかった時、「目標達成のためにあらゆる手段を尽くしたのに、うまくいかなかった」という言い訳をしがちです。しかし、この人たちにさらに突っ込んだ質問を投げかけ、目標達成のために尽くした「あらゆる手段」の内容を詳しく聞いてみますと、せいぜい2つか3つの取り組みしかしていなかったことが明らかになるのです。

事ほど左様に、失敗する人の多くは目標達成に向けて努力はするものの、少しやってみて成果がでないとすぐやめてしまう行動パターンを持っているようです。これでは目標の達成など、とうてい望み得ないのです。

松下幸之助が「成功の要諦は成功するまで続けることにある」という名言を残しているように、目標を達成するまでにありとあらゆる施策を考え抜き、実際にそれに取り組み続ける姿勢こそが、成功する最大の条件なのです。

目標達成のための選択肢を部下に考え続けさせる

翻って日常の職場において、上司が部下を指導する際に、目標達成のためにどれだけたくさんの選択肢を出させているでしょうか。目標設定面談などの場面でも、立てた目標を完遂するような選択肢を可能な限りたくさん出させるような問いかけがなされているでしょうか。

部下の目標達成を実現するためには、上司が「ほかにやり方はないか」といった問いを頻繁に投げかけ、部下に新たな選択肢を考え続けさせることが重要です。深く考え抜いた結果、選択肢が増えれば目標達成への意欲は喚起され、成功するまで続けるスタンスに立てるのです。目標達成と成長はそこからスタートすると言っても過言ではないでしょう。

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問う力の鍛え方

問う力の鍛え方

いい問いかけは、視点の転換を促し相手に気づきを提供します。また、組織で共有された固定概念を崩し、人びとを新たな発想へと誘います。したがって、組織を率いる経営者・リーダーはいい問いを数多くもっておきたいものです。

自分に対する問いかけ

問う力の鍛え方には諸説ありますが、大切なのは、日常的に自らに問いかける営みを継続することです。

自分と向き合って内省をする際に、問いかけはさまざまな気づきを提供してくれます。ただし、内省する際には、「なぜ」という問いはなるべく使わないほうが良いでしょう。

組織心理学の研究によると、「なぜ」という問いに対して自分が考え出す理由が正しくない場合が多く、誤った自己認知につながる可能性があるとされています。また、「なぜ」という自問が「過度の自責の考え方(うまくいかない原因はすべて自分のせいだ)」を誘発し、ネガティブな思考パターンに陥ってしまうと言われています。

では、「なぜ」ではなくどんな問いを内省に使えばいいのでしょうか。組織心理学者のターシャ・ユーリックは、有効な問いについて次のように述べています。

「生産的な自己洞察を増やし、非生産的な堂々めぐりを減らすためには、『なぜ』ではなく『何』を問いかけるべきだ。『何』という問いは、客観性と未来志向を保つ一助となり、新たな洞察に基づいて行動を起こす後押しとなる(※4)」

例えば、「なぜ、うまくいかないのか」という問いよりも「うまくいくためには何をする必要があるだろうか」という問いの方が、前進するための前向きなエネルギーを生み出しやすくなります。

高い問題意識をもって社会全般の動きや目の前で起きてくる事象を見つめ、自分に問いかけていくこと。こうした地道な日々の努力が、「問いのエキスパート」への道を拓いてくれるでしょう。

上司の問いかけが部下の思考力を鍛える

最近、企業研修の現場で感じることは、受講者の考えがきわめて浅いレベルにとどまっていることが多いということです。それは、管理職研修であっても、若手社員研修であっても同じ傾向にあります。

誰もが、忙しい日々の中で、いろんなことを考えてはいるでしょうが、案外深く考えることなく、ものごとをやり過ごしていることが多いのではないだろうか? そんな思いが日ごとに強まってきます。

答が見つかりにくい時代は、見方を変えれば、人を育てるチャンスです。上司が部下に対して「ほかにやり方はないか」といった問いを頻繁に投げかけ、考え抜くよう要求することは、部下の思考力を鍛えることにつながります。

そのためには、まず上司自身が率先垂範して、自問自答する姿勢を貫き、考え抜く風土を職場に定着させる必要があるでしょう。一朝一夕にできることではありませんが、考え抜く風土づくりに地道に取組み、現状を打破するような新しい発想を現場から生み出していきたいものです。

※1 Anita L.Tucker and Amy C.Edmondson,"Why Hospital Don`t Learn from Failures:Organizational and Psychological Dynamics That Inhibit System Changes,"California Management Review 45,no.2(Winter 2003):68
※2 ドラッカー「5つの質問」
※3 発生している事象は、目に見える特性だけでは判断できず、水面下に隠れている特性に大きく影響を受けるという考え方
※4 『セルフ・アウェアネス』ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編(ダイヤモンド社)

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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