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問いかけの効果~イノベーションを促進し、部下を育てる

2021年6月 1日更新

問いかけの効果~イノベーションを促進し、部下を育てる

昨今、「問いかけ」の重要性が再認識されています。効果的な問いかけは、固定概念を崩し、新たな気づきとひらめきを誘発して個人の成長・組織のイノベーションを促進するといわれています。本稿では、能力開発・組織開発につながる問いかけの効果について考察したいと思います。

INDEX

なぜ、思考が停止するのか

年々、コンプライアンスへの注目度が高まっているにも関わらず、企業や公的機関での不祥事が絶えることはありません。特に最近では、経営理念を重視してきた名門企業で不祥事が起きる事案が増えています。
なぜ、理念を重んじる組織で数多くの欠陥や誤りがなくならないのか、米国の組織心理学者 A・タッカーとA・エドモンドソンは、そのことに注目しました。二人が調査した、ある病院では「間違わないことが重んじられる文化」が根付いていて、それがかえって正しい行為から遠ざかってしまう結果につながっていました。(※1)。
つまり、その病院が掲げている理念や、長年踏襲されてきた仕事の進め方が、あまりにも強固に確立され、浸透・共有されるがゆえに、誰もがその正しさや妥当性を疑うことなく、唯々諾々と業務に取り組んでいたのです。

「問いかけ」こそが、思考にスイッチを入れる

部下の視点を変える問いかけ

このように、ある考え方や文化が組織に根付くと、一体感が高まる一方、逆機能として思考停止を招き、イノベーションの阻害要因になる可能性があります。そうならないために、タッカーとエドモンドソンが主張しているのは、「従来のやり方を受け容れたり、守ろうとしたりする前に、まずそれでいいのかどうか、たえず問う」人の存在が大切だということでした。
組織にゆさぶりをかけ揺らぎを生み出すことが、組織の機能不全を防ぐのです。従って、経営者・リーダーは、同質性を担保しつつ、異質な主張や価値観を排除しないマネジメントを実践すること。そして、指示・命令よりも問いを多用し、思考を深掘りするような刺激を与え続けることが大切なのです。
また、経営理念についても「お客様を大切にします」というような言い切り型の表現よりも、「われわれの顧客は誰か」(※2)という問いかけ型のほうが、仕事に関わる一人ひとりの思考にスイッチが入りやすくなるのです。

松下幸之助「道はいくらでもある」

松下幸之助は、視点を変えることの重要性について、以下のように述べています。

富士山は西からでも東からでも登れる。西の道が悪ければ東から登ればよい。時と場合に応じて、自在に道を変えればよいのである。道はいくらでもある。一つの道に執着すれば無理が出る。無理を通そうとすると行きづまる。
何事も行き詰まれば、まず自分のものの見方を変えることである。案外、人は無意識の中にも一つの見方に執着して、他の見方のあることを忘れがちである。そして行き詰まったと言う。行き詰まらないまでも無理をしている。われわれはもっと自在でありたい。自在にものの見方を変える心の広さを持ちたい。
深刻な顔をする前に、ちょっと視野を変えてみるがよい。それで悪ければ、また見方を変えればよい。そのうちに、本当に正しい道がわかってくる。

『道をひらく』 松下幸之助著(PHP研究所)

道(視点)はいつも複数あるということを意識し、今の道が正しくないと思えば、違う道を探す柔軟性が求められるでしょう。

視点を変える4つの問いかけ

問いかけることが、個と組織に刺激を与え、視野の拡大を促進するのは前述のとおりです。だからといって、やみくもに問いかければいいというものではありません。その時々の状況に応じて、適切な問いを使い分ける必要があります。問いかける目的は、異なった視点を提供することです。そこで、視点を変える上で有効な問いを下記にご紹介いたします。

(1)掘り下げる問い
「氷山モデル」(※3)で水面下に何があるか考える

例:「今回の提案に対してお客様が即断で断ってきたのは、どんな背景があるのだろう?」

(2)視点を上げる問い
現在の自分より高い視点から、現状を俯瞰する

例:「自分が課長だったら、この問題にどう対処するかな?」

(3)視点の主体を移すための問い
立場を入れ替え、周り・相手の視点で考える

例:「今日のA社へのプレゼンについて、A社の担当者はどのように受け止めたかな?」

(4)時間軸で視点を変えるための問い
将来から今を見る

例:「5年後の自分はどうなりたいか? そのためには今何をするべきか?」

問う力の鍛え方

いい問いかけは、視点の転換を促し相手に気づきを提供します。また、組織で共有された固定概念を崩し、人びとを新たな発想へと誘います。したがって、組織を率いる経営者・リーダーはいい問いを数多くもっておきたいものです。
問う力の鍛え方には諸説ありますが、大切なのは、日常的に自らに問いかける営みを継続することです。高い問題意識をもって社会全般の動きや目の前で起きてくる事象を見つめ、「What」「How」「Why」を多用しながら自分に問いかけていくこと。こうした地道な日々の努力が、「問いのエキスパート」への道を拓いてくれるでしょう。

部下の視点を変える「問い」

部下の視点を変える問いかけ

自分で視点を変えることができればベストですが、それができる人は数多くないでしょう。したがって、人を育てる責務を負っている人には、相手の視点を変えるサポートが求められます。視点を変える上で効果的なのが、先述の4つの問いをなげかけることです。

今、多くの企業で「1on1」が導入されていますが、うまくいっていないケースが多いようです。「1on1」を成功に導くためには、上司が問いかけ上手になると同時に、問いかけへの答えをしっかり傾聴する必要があるでしょう。
PHP研究所では、立教大学経営学部の中原淳教授と協同して『上司と部下がペアで進める1on1』(研修、映像教材)を開発しました。上司の問いかけ力を高めるための研修・教材としてご活用ください。

※1 Anita L.Tucker and Amy C.Edmondson,"Why Hospital Don`t Learn from Failures:Organizational and Psychological Dynamics That Inhibit System Changes,"California Management Review 45,no.2(Winter 2003):68
※2 ドラッカー「5つの質問」
※3 発生している事象は、目に見える特性だけでは判断できず、水面下に隠れている特性に大きく影響を受けるという考え方

「1on1研修」無料体験会(オンライン開催)はこちら

DVD「上司と部下がペアで進める1on1」はこちら

的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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