リーダーに求められる「ポジティブ・エナジャイザー」の役割とは?
2022年8月 8日更新
優れたリーダーは「ポジティブ・エナジャイザー」として、職場のエネルギーをもたらします。本稿では、人間関係や生産性に大きな影響を及ぼす職場のエネルギーについて考察したいと思います。
組織を動かすエネルギーが不足している
一緒にいるとこちらまで元気になるような人や、そこに身を置くとワクワクするような組織があります。こうした現象は、人や組織に内在するポジティブなエネルギーが周囲に伝播することによって起こります。
組織をつくり、そこに人やその他の経営資源を配置しても、それだけで力強い活動が始まるわけではありません。高性能の機械があっても、電力等の動力源がないと機能しないのと同じように、組織を動かすにはエネルギーが必要なのです。
ところが、昨今の企業の現場では、活動に必要なエネルギーが枯渇しているケースが増えているように思われます。エンゲージメントの低下や、離職者の増加、コンプライアンス上のトラブルの多発等々、問題を抱える組織を見るたびに、職場のエネルギー不足がその原因であることを感じます。
リーダーに求められる「ポジティブ・エナジャイザー」の役割
職場にエネルギーを注入するのは、その職場の責任者(リーダー)の仕事です。日本には「職場は一将の影」ということばがあるように、職場の状況はリーダーのあり方が反映されると考えられてきました。また、海外の学術的な研究成果からも、リーダーのもつエネルギーの重要性が明らかになっています。
ミシガン大学のキム・キャメロン教授は、リーダーやマネジャーのもつ「影響力」「情報量」「ポジティブ・エネルギー」の3つが、成果にどのような影響を与えるかを調査しました。その結果、もっとも大きな影響を及ぼすのが「ポジティブ・エネルギー」であり、その影響力は他の2つの因子と比較しても4倍強いことが明らかになりました。そして、職場にポジティブなエネルギーを与えるリーダーのことをキャメロン教授は「ポジティブ・エナジャイザー」と呼びました。
閉塞感の強まる日本企業がブレイクスルーするカギは、職場にポジティブなエネルギーを満たすことです。そういう意味で、現場のリーダー、マネジャーがポジティブ・エナジャイザーとしての役割を自覚し実践することが大切になってきます。
松下幸之助の遺言
ところが実際は、部下のやる気をそぎ、職場の心理的安全性を壊すリーダー、マネジャーが少なくないのです。そのような、職場のエネルギーを奪う人のことを「エナジー・ヴァンパイア」と言います。
それに関連するエピソードをご紹介しましょう。1977年に「PHPゼミナール」を立ち上げ、自ら松下電器(現パナソニック)の幹部研修を担当していた岩井虔(元・PHP研究所専務取締役)は、ある報告の場で松下幸之助(PHP研究所創設者・パナソニック創業者)から次のようなメッセージを託されました。
上司にいちばん大切なのは愛嬌や。しかし、最近の松下(電器)の幹部には愛嬌がない。部下からの提案に水をぶっかけてやる気をなくしたり、自分の都合で部下を使ったりしている。愛嬌のない幹部が増えていることに憂いを感じる。これは創業者であるわしの遺言や! 幹部研修の受講者に言うといてんか
幸之助が言う「愛嬌」とは、前後の文脈から判断すると、一般的な愛嬌のことではなく、部下をやる気にする上司のあり方を指していると思われます。
このエピソードは45年前のものですが、当事者の岩井は、「わしの遺言や」とまで言い切った幸之助のことばが今でも脳裏に刻まれていると言います。
ポジティブ・エナジャイザーの特徴
ここまで職場のエネルギーという観点から、リーダー、マネジャーのあり方を考察し てきました。そして、前述のキャメロン博士によると、ポジティブ・エナジャイザーには以下のような特徴があるとされています。
- 他者が活躍するのを助ける
- 言動が一致している
- 気配りができる
- チャンスを見いだすことがうまい
- 笑顔を絶やさない
- 感謝の念を示し、謙虚である 等々
すべてのリーダー、マネジャーの方がたには、エナジー・ヴァンパイアではなく、ポジティブ・エナジャイザーを目指して上記の行動や考え方を実践していただきたいものです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。