傾聴とは? なぜ必要なのか、実践が難しい理由や傾聴力を高める方法を解説
2022年10月17日更新
職場の活性化のカギを握る傾聴。一見、簡単な行為のように見えますが、実は奥が深く実践には困難が伴います。本稿では、傾聴とは何かや、傾聴が難しい理由を明らかにすると同時に、傾聴力の高め方、効果のあがる実践方法を考察したいと思います。
傾聴とは? なぜ必要なのか、意味と背景
傾聴(けいちょう)とは、相手の伝えたいことを遮らずに最後までじっくりと正確に聴きとり、言葉だけでなく、相手の「思い」まで理解することです。きちんと聴くことで、相手からより多くの話を引き出したり、信頼感や親密感が増して、良好な人間関係を築いたりすることにつながります。
傾聴の実践が職場のグッドサイクルを回す
職場にはさまざまな問題が存在します。過去のコラムでも何度か言及した「成功循環モデル」(※1)によると、職場の状態とパフォーマンスの関係は、「①関係の質」「②思考の質」「③行動の質」「④仕事の成果」の4つの要素で説明されます。そして、職場に問題を抱え、業績も上がらない組織の多くはバッドサイクル(④仕事の成果の低迷⇒①関係の質の悪化⇒②思考の質の低下⇒③の低下⇒④行動の質のさらなる悪化⇒...)に陥っているとされます。
このモデルが主張しているのはとてもシンプルなメッセージです。すなわち、職場の問題を解決して生産性の高い組織をつくるためには、グッドサイクル(①関係の質の向上⇒②思考の質の向上⇒③行動の質の向上⇒④仕事の成果の拡大)を回していく必要があるということです。
そしてグッドサイクルの起点である「①関係の質」を向上させるには、コミュニケーションの強化、特に傾聴の実践が決定的に重要なカギを握るのです。
※1 参考記事:「成功循環モデル」とは? 注目を集める背景や成功のポイントを解説
傾聴の効果~上司・部下間にどういう変化が起きるのか
上司が部下の話を傾聴すれば、どういう変化が起きてくるでしょうか。
部下の内面では、「自分は上司から必要とされている存在だ」という思いが強化され、自己肯定感の高まりや、上司への信頼感が醸成されるでしょう。一方、上司にとって傾聴は、部下や職場に関する情報を収集することができたり、部下との良好な関係をつくることができたりして、強いリーダーシップの発揮を可能にする原動力となるでしょう。
このように傾聴という地味な行為が、個と組織をインスパイアし、関係の質の向上につながるのです。
傾聴の難しさ~基本の型とマインド設定
傾聴を行う上で押さえるべき基本の型として、以下の7つがあげられます。
- 環境設定~相手がリラックスして話ができる距離や向き合い方、場所等を確認する
- アイコンタクト~時々、相手と視線を合わせて「話を聞いているよ」というメッセージを送る
- うなずき・あいづち・うながし~相手の話にリアクションを示す
- キーワードの繰り返し~相手が最も伝えたいことばを繰り返す 例)「将来的に営業の仕事がしたいんだね」
- 要約・確認~相手の話をまとめて確認する。 例)「あなたの話を要約すると、資格取得にチャレンジしたいということでいいですか」
- 受容~相手の話を受け止める
- 質問・提案~相手の同意を得てから質問・提案する
傾聴の難しさ
以上、7つの観点から傾聴の基本の型をご紹介しましたが、残念ながらそれらを実践するだけでは思うような効果が得られません。型の実践とあわせて、傾聴する際のマインド設定が重要なのですが、それが簡単ではないのです。
傾聴していると、相手から発せられた情報が自分にインプットされます。
例:「夏休みにハワイに行きました」
その過程でインプットした情報に刺激されて、自分の内面にある関連情報が想起されて、そちらに意識が向かっていくことが往々にして起こりがちです。
例:「ハワイと言えば大学時代の友人が住んでいたな。あいつ、どうしているかな」
つまり、形の上では傾聴しているけれど、内面では別のことを考えて、目の前にいる人の話に100%の意識を向けられないことが多いのです。これが傾聴の難しさの最大の理由と言えます。
傾聴のカギを握る人間観
松下幸之助(パナソニック創業者・PHP研究所創設者)のエピソードを見ていると、彼が傾聴の達人であったことがうかがい知れます。
例えば、松下政経塾で、問題を起こした若い塾生をいきなり叱責するのではなく、相手の言い分、意見にじっくり耳を傾けていたという事例や、松下電器(現パナソニック)の入社3年目の若手社員が経営方針と異なる提案をしても、最後まで相手の提案に耳を傾けたという事例などが残されています。
なぜ、幸之助はどのような相手に対しても傾聴をできたのでしょうか。それは、幸之助のもっている人間観に起因していると思われます。つまり、小学校3年までしか教育を受けていないという原体験が、「自分以外はすべて師である」という考え方に昇華され、誰に対しても謙虚に素直に人の話を聴く姿勢ができあがったのでしょう。
傾聴力を磨き高める方法とは?
松下幸之助と同じことはできないけれど、肯定的な人間観をもって、「この人の話からは何らかの学び・気づきを得ることができるはずだ」と考えてみてはどうでしょうか。そのようなマインドセットをしたうえで、上記の型を押さえた聴き方を繰り返すことで、人と組織を変える、力のある傾聴ができるようになっていく、すなわち傾聴のレベルの向上が図られるでしょう。
現場を預かる管理監督者の方がたには、傾聴の力を磨き高める努力をし続けていただきたいものです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。