課長のリーダーシップ開発のポイント~ワンマン部長やモーレツ課長はどこへ?
2015年9月28日更新
経営環境がこれまでにない速さで変化していくなかにあって、「ビジョン型」リーダーシップを発揮する課長の育成が、喫緊の課題となっています。
ワンマン部長やモーレツ課長はどこに行った?
かつて私が入社した会社の上司は、ワンマン部長とモーレツ課長でした。部長も課長も朝早くから夜遅くまで働き、部下を叱咤激励して馬車馬のように働かせ、売上ノルマを達成していました。
当時は、率先垂範と権限で部下を強制的に動かす「指示命令型」リーダーシップが最高のマネジメントでした。部下は、ワンマン部長の方針に従い、モーレツ課長の指示通りにやっていればよかったのです。
しかし、パワハラ、ブラック企業が社会問題になり、「指示命令型」のリーダーシップが機能しなくなりました。また、仕事が高度化・専門化・多様化したことで、課長が現場の変化についていけなくなりました。同時に、コーチングやファシリテーションが普及しました。このような理由から、次第に部下の意見を聞いてみんなで決める「民主型」のリーダーシップに転換していったのです。
課長に求められるリーダーシップ
経営環境は、これまで以上の速さで変化しています。企業が経営環境の変化に柔軟に対応していくためには、ビジョンを掲げて部下を導くリーダーシップを発揮しなければなりません。「ビジョン型」リーダーシップとは、あるべき姿や進むべき方向性を示し、多様な価値観の部下とベクトルをあわせて、社外の企業を巻き込みながら戦略を実行していくスタイルです。
欧米の企業では「ビジョン型」マネジャーが主流ですが、日本では「ビジョン型」課長はほとんどいません。なぜ欧米では「ビジョン型」マネジャーが育って、日本では育たなかったのでしょうか。
欧米の企業の特徴をあげてみましょう
●一つの職場に多様な価値観の人が集まって仕事をする
●部下の専門性が高い
●雇用が流動的である
このようなことから、欧米のマネジャーは、コミュニケーションを通じてビジョンを示さなくては組織をまとめることができません。環境のなかで「ビジョン型」マネジャーが自然と育っていったといえるでしょう。
一方、日本で「ビジョン型」課長が育たなかったのには、大きく3つの理由が挙げられます。
●欧米に追いつけ追い越せで、ビジョンを描かなくてもよかった
●終身雇用の下では、ビジョンが明確でなくても部下が辞めなかった
●OJT中心の教育で、実務研修しか受けていなかった
しかし、昨今のように先が見えない時代、民主型のリーダーシップで生き残っていくのは非常に難しくなっています。経営者だけでなく管理職層まで「ビジョン型」であることが求められ、「ビジョン型」課長の育成が喫緊の課題となっています。
人事や経営幹部が配慮すべきこと
それでは、課長に「ビジョン型」リーダーシップを発揮させ、成果をあげさせるために、人事や経営幹部にはどのような配慮が求められるでしょうか。
これまでの人事では、成果を上げてきた人を中心に課長に昇進させてきました。しかし、プレイヤーとして成果を上げて昇進した課長ほど、プレイヤーの仕事を抱え込む傾向があります。なぜ仕事を抱え込んでしまうのか原因を考えてみましょう。
●自分が成果を上げないと、部下に言いたいことが言えない
●部下に仕事を任せるよりも、自分がこなした方が早い
●プレイヤーの仕事の方に慣れ親しんでいるため、やりがいや充実感がある
しかし、このような意識でいると、課長の業務量が増え続け、忙しくなるばかりです。そのために次のような事態に陥ります。
●部下が課長に報連相をしにくくなる
●課長が部下を指導する時間が取れない
●組織全体を俯瞰できなくなり、部下の業務が滞る
このような事態が続くと、部下が育たないばかりか、業績も下がり、組織全体の生産性を悪化させて多くの問題を引き起こします。イライラしている課長は部下をこき使い、過酷な労働やノルマを強いるのです。そうして社員からブラック企業のレッテルが貼られ、社員のモチベーションとモラルを下げるどころか、社員からパワハラで訴えられるケースも出てきます。
こうした問題を引き起こさないためには、課長がプレイヤーの仕事の比重を軽くしてマネジメントに専念できるように人事や経営幹部は、職務や評価制度を変更する必要があります。
課長のリーダーシップ開発には、こうした環境づくりが欠かせないのです。
茅切伸明(かやきり・のぶあき)
株式会社ヒューマンプロデュース・ジャパン 代表取締役。
慶應義塾大学商学部卒業後、(株)三貴入社。 その後、(株)日本エル・シー・エー入社。 平成1年3月 住友銀行グループ 住友ビジネスコンサルテイング(株)(現SMBC コンサルティング(株))入社。セミナー事業部にて、ビジネスセミナーを年間200 以上、企業内研修を50以上担当し、他社のセミナーを年間50以上受講する。 平成18年4月 (株)ヒューマンプロデュース・ジャパンを設立。「本物の教育」「本物の講師」「本物の教育担当者」をプロデュースするという理念を掲げ、現在まで年間500以上、累計8,000以上のセミナー・研修をプロデュースするとともに、セミナー会社・研修会社のコンサルティング、セミナー事業の立ち上げ、企業の教育体系の構築なども手掛ける。
著書に、『実践社員教育推進マニュアル』、通信教育『メンタリングで共に成長する新入社員指導・支援の実践コース』(以上、PHP研究所)、『だれでも一流講師になれる71のルール』(税務経理協会)