事業変革を成功させるための5つのステップ
2017年1月10日更新
内外の環境変化に対応しながら新しい価値を創造する「経営」は動的な活動であるといえるでしょう。部門経営を任される部長職にとって「変革のリーダーシップ」は、仕事の本丸の一つです。今回は、その内容と意義を考えてみたいと思います。
変革の難しさ
激変する環境の中で、既存の考え方ややり方に固執し、それを金科玉条の如く守り続けていると、やがて事業は衰退モードに入ってしまいます。したがって、事業存続のためには、時代遅れとなったものを捨て去る柔軟な発想と行動が求められるのですが、それは決して簡単なことではなく、相当の覚悟と勇気、エネルギーを要するものなのです。
PHPゼミナールでは、変革とは「市場(顧客)に対して『新しい価値』を提供すること」と説明していますが、ことばを変えれば「自社や担当業務の貢献度を上げること」と表現することもできるでしょう。
現時点で最高の価値を提供できていたとしても、市場(顧客)は常に変化していますので、時間の経過とともにその価値は低下し貢献度は下がってしまいます。だからこそ、製品・サービスの品質やそれらの提供の仕方、組織のあり方等を見直し、変えるべき点を変えて貢献度を高める必要があるのです。
しかしながら、変革がうまくいかずに途中で頓挫してしまうケースも、ことのほか多いものです。
変革が失敗する原因には、以下の4つが考えられます。
(1)危機感の欠如――現状満足と切迫感の不足
(2)ぼやけたビジョン――未熟な戦略、あいまいな目標設定、既存のアプローチ
(3)現場への落とし込み不足――変革の必要性の理解が不充分、変革に対する心理的抵抗
(4)勇気・信念の不足――絶対やり遂げるという覚悟が固まっていない
変革を成功に導くためには、これら4つの壁を打破する必要がありますが、これがなかなか一筋縄ではいきません。そして、ここからが、いよいよ部長職の出番なのです。
変革を成功に導く5つのステップ
前述の壁を乗り越え、変革を成功に導くためには次の5つのステップを踏んでいく必要があります。
[Step1]危機感を醸成する
市場と競合の現状、自社(自組織)の状況等を吟味し、現在の問題点や将来的危機を把握し、メンバーと共有する
[Step2]強力な変革推進チームを結成する
孤軍奮闘ではなく、思いを共有できるメンバーを集め、変革推進チームをつくる
[Step3]ビジョンと戦略を構築し、現場に落とし込む
・人々に受け入れられる大義と志のある変革ビジョンを掲げる
・ビジョンを実現するための戦略をつくる
・今まで試みたことのない斬新なアイデア、活動、行動を促進する
・あらゆる手段を活用して、新しいビジョンと戦略を何度も伝える
・メンバーに期待される行動を、部長職自身がモデルとなって実践して見せる
[Step4]短期的成果を意図し、実現する
・業績上で目に見える改善、すなわち短期的勝利を収める計画を立てる
・勝利の実現に貢献した人たちを認め、報酬を与える
[Step5]新しい方法を組織文化に定着させる
・顧客重視の仕事のすすめ方、常に生産性向上を目指す行動、すぐれたリーダーシップの発揮、マネジメント力の強化などを通じて成果を上げ続ける状態を持続させる
・変革を通じて、一人ひとりの成長を促す
(John P.Kotterの提唱する8stepを参考に、PHP研究所で新たな概念を加えて整理し直した)
部長職に求められるリーダーシップ
変化が常態化した経営環境のもと、今、部長職に求められているのは、企業のミッション・ビジョンを確固たるベースとしつつ、組織の枠を超えて働きかけ、幅広く変革の輪を広げていくことができる能力、すなわち変革のリーダーシップなのです。
こうした能力は一朝一夕に開発されるものではありませんが、上記5つのステップで示したような観点を意識しながら、あるいはそれぞれの項目をチェックリスト代わりに活用しながら仕事を進めていくことによって、徐々に体得していくことは可能です。
大切なことは、変革型リーダーとしての役割を担うことをトップが要求し続けること。変革型リーダーとしての自覚の高まりが、部長職を真のリーダーへと成長させてくれるのです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。