最後まで気を緩めない「残心」の心構え~課長の仕事術
2017年7月 5日更新
課長職には、仕事の終盤になっても気を緩めない、武術でいう「残心」の心構えを、学んでもらいたいものです。
油断大敵!「残心」の心構え
子供のころに、通っていた武道の道場で、師範がこのような話をしていました。変わっていたので今でも記憶に残っています。
「相手を斬って倒したと思っても気を緩めてはだめだよ。もしも相手が少しでも回復したなら反撃してくるかもしれない。倒してもそこに気をくばらなくてはいけない。これを『残心』というんだ」
そのあとに、漢字も教えてくれたのでした。
確かに、今は腰に刀を差して斬りあう時代ではありません。なので、そのままではなくて、油断しないこと、課長の心得としても現代に置き換えれば通用する考え方といえましょう。
こんな話も、読んだことがあります。これは、吉田兼好の「徒然草」の中での話です。木登り名人が、若者の木登りを見ていました。高い木の頂上で見ている方が緊張するような時には名人は静かです。ところが、地面まであとわずかという低いところに来たら「気をつけなさい」と声をかけたのです。
高いところでは、気が張っていて緊張していますが、低いところでは、つい気が緩んでしまいます。そこで注意するのは、さすが名人でしょう。
「残心」も、木登り名人の話も、気の緩みがちな場面こそ要注意ということを教えてくれます。
仕事でも人間関係でも、できる課長は気を緩めない
課長のポストにいる人は、やはり気の緩み、油断すべきではないでしょう。御社の課長はそのあたりは大丈夫でしょうか?
仕事であれば、ルーティン化した作業・手慣れた仕事ではどうしても気は緩みがちです。うっかりミスですとか、ひどい場合には忘れているなどということさえあるものです。
もちろん、四六時中気を張りつめていたのでは、とても持ちません。ですが、手慣れたことや、ルーティンな仕事のときには、油断しがちなことは、御社の課長には忘れてならないこと、油断大敵なことは覚えさせることの一つでしょう。
人間関係でも、慣れてしまうと基本がおろそかになりがちでしょう。ある企業のリーダー研修をしていましたら、ベテランの課長が最近の体験談を話してくれました。もう十年近く通っていた店に納品をしたときのことだそうです。もう、気心がしれていたので、挨拶も適当に投げ出すような感じで納品したそうです。そこにたまたま他社の営業が、ていねいにハキハキした挨拶で店主のもとにやってきたのでした。当然、店主はいい加減にしていた課長をよびとめたのです。
「基本がおろそかになっていないか?」というキツイお叱りを受けたといいます。親しくなっていたので、気が緩んだのです。まさに油断大敵でしょう。お叱りで済んだだけマシでしたとその課長さんは苦笑いしながら話してくれました。御社の課長は安心できるでしょうか。
終わり良ければすべて良し
先の「残心」にはもう一つ意味があります。これもまた、ビジネスでは欠かせない教えといえましょう。それは、最後まで油断しないことに加えて、最後というのは、思っているよりも長めだということです。
たとえば大切な来客があったとします。「最後」というのは見送る場面です。一言挨拶を交わしてお辞儀をします。
さあ、ここで終わりでしょうか?
そうではありません。そのお客様が振り返ったときに、「残心」がないとすぐに背を向けていい印象は残りません。最後は、振り返ってももう一度お辞儀を返すところまで含まれるのです。あたかも、ハイ本編終わりと、映画館で席を立つのと同じです。終わりはエンドロールと共に関係者の名前が画面に映り、それがたとえ何分かかっても、その画面が終了するまでです。
そこまで終わりには含まれている。「残心」とはそういうものです。
仮にプレゼンをしたとしましょう。持ち時間が終わればそこで終わりではありません。質問が出るかもしれません。あるいは、ほっとしてだらしないしぐさが出てしまうかもしれないでしょう。
そこは余韻を味わってもらうつもりで、すぐにオシマイとはしないのです。“終わり良ければすべて良し”です。
プレゼンに限らず、時間が来たといって、すぐに態度を変えずにいたいものです。ですので、通常の終わりよりもせめて十秒は長く終わりには含めておくのが、課長ともなれば必要な心構えにもなるのです。御社の課長は時間がきたらそそくさと、オシマイにしてしまうタイプではありませんか?
●長い付き合いの取引先であっても、基本はおろそかにしない。
●手慣れた仕事であっても、丁寧に油断大敵と思いうっかりミスを防ぐ
気を緩めない心構えが課長にはかかせないのです。同時に終わりをただ時間が来たからすぐにオシマイとしないことです。
●今よりも十秒長いところまで待つのが課長として意識すべきこと
こんな「残心」の精神を貴社の課長にはぜひ持ってもらいたいものです。
松本幸夫(まつもと・ゆきお)
人材育成コンサルタント。1958年、東京生まれ。「最短でできる人をつくるプロ」として、最前線を走り続けている。マスコミや流通、通信、製薬、保険、電気、金融、食品といった業界で指導を行い、営業をはじめとするあらゆる職種のプロを育成することに定評がある。年間220回の研修、講演活動を行い、そのリピート率は92%を超える。NHKなどのテレビ出演も精力的にこなす。主な著書に『とにかく短時間で仕事をする!コツ』(スバル舎)、『仕事が10倍速くなるすごい!法』『人を動かす質問力&聞く力』(三笠書房)、『アガリ症を7日間で克服する本』(PHP文庫)などベストセラー多数。「呼吸法で人生が変わる」がモットー。