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厳しい講師 or やさしい講師~新入社員研修で効果が上がるのは?

2018年2月13日更新

厳しい講師 or やさしい講師~新入社員研修で効果が上がるのは?

新入社員研修において、講師はどのような態度で研修を行なうべきなのでしょうか。厳しく指導するか、あるいは優しく導くのか。講師の在り方を考えます。

厳しい研修? 優しい研修?

新入社員研修の進め方を検討する際、よく議論されるのが、厳しい研修を行なうか、優しい研修を行なうか、という問題です。仕事の厳しさ、社会の厳しさを伝えるために、研修は厳しくすべきだという考え方があります。反対に、最近の若い世代の人たちは打たれ弱く、厳しさに耐えられない人が多いから、研修は優しく行なうべきだという考え方もあります。厳しい研修の場合、それが行き過ぎると、講師が新入社員に個人攻撃をしたり、人格否定をしたりしてしまう事態が起こりかねません。優しい研修の場合、それが行き過ぎると、新入社員に甘えが出て、会社がお膳立てしたことしかできない社員になってしまいかねません。どちらにしても、極端なやり方にならないよう留意しなければならないといえます。

「仕事の厳しさ」を伝えることが大切

結論からいえば、新入社員研修に、ほどほどの「厳しさ」は必要だと考えるべきです。新入社員には、「仕事の厳しさ」を最初に認識してもらうことが重要だからです。「仕事は甘いものではない。お金をいただくのは厳しいことであり、皆さんはそういう世界に一歩踏み出したのだ」ということを、早い段階で伝えなければなりません。スタートの時点で、仕事の厳しさに対する覚悟を植え付けなければ、後々本当に厳しい場面に遭遇したとき、その社員は挫折する危険性が高まってしまうでしょう。

「人」と「事」とを分けて指導する

新入社員の指導には3つのポイントがあります。

一つめは、「人と事とを分ける」ということです。研修中、何か注意をしなければいけないときには、その人自身ではなく、やってしまった「事」に対して厳しく指導をします。例えば、休憩をはさんで午後3時10分から研修が再開するのに、部屋に戻ってくるのが3分遅れた人がいたとします。この場合、「今、あなたは時間を守ることができませんでしたね。企業人にとって時間を守ることは最低条件です。今後はきちんと時間を守るようにしてください」といった具合に注意します。これは「遅刻」という「事」に焦点を当てた注意の仕方です。

このとき、決して「人」を批判するべきではありません。例えば「今、あなたは遅刻をしましたね。時間を守らない人は信頼されません。だからあなたという人間はダメなんです。社会人として失格です」といった言い方をすると、それは人格攻撃・個人攻撃になって、相手の心を深く傷つけてしまいます。人と事とが区別できていない注意の仕方だといえます。相手にとっては、反省よりも反発する怒りのほうが勝ったり、あるいは自己否定の感情が強くなったりして、かえって逆効果になるでしょう。

一人ひとりをよく「観察」する

二つめは、受講している新入社員一人ひとりの様子をよく「観察する」ことです。人間は一人ひとり違います。育ってきた環境も経験してきた内容も、性格も考え方も違いますから、同じことを教えていても、理解の度合いも違えば、受け取るときの気持ちも人それぞれです。新入社員全員を一定水準まで引き上げていくためには、相手をよく観察し、一人ひとりに対して適切な指導ができるよう努めなければなりません。

「Aさんは明るい性格だから、多めに発言してもらいながらムードメーカーになってもらおう」とか、「B君はおとなしい性格だから、役割を持たせて積極性を身につけてもらおう」とか、「Cさんは研修が消化できていない様子なので、個別に話を聞いてみよう」といった具合に、臨機応変に対応します。決して相手を甘やかすのではなく、全員をしっかりと指導していくために必要な対応をとるのです。目安として、講師一人で行き届いた対応ができる人数は、10人程度が限界でしょう。仮に50人の新入社員を研修する場合は、最低でも5人の指導員を配置し、全員に目が届くようにすることが大切です。

「本気」で新入社員と向き合う

三つ目は、研修講師が「本気になる」ことです。新入社員を導く立場として、本気で皆の成長を願い、本気で皆の幸せを願い、真剣な気持ちで指導に取り組んでいくのです。もちろん質問にも真剣に答えます。教える側が本気であれば、多少厳しい言葉で注意したとしても、きちんと相手には伝わるはずです。伝わるだけでなく、相手も心を開いてくれるようになるでしょう。たとえ相手に嫌われたとしても、本気になって相手を思いやり、腹をくくって指導に取り組む真剣さが必要です。

若者を対象としたアンケート調査で、「本気で叱ってくれることを求めている人が多い」というデータがあります。大人が子どもを厳しく叱れなくなった昨今、大人になるまで一度も本気で叱られたことがない人が非常に多くなっているのです。そうした現状において、本気で向き合う上司、本気で向き合う研修講師に叱られたら、不思議なくらい思いが通じることがあります。厳しさの中にも、本気で新入社員一人ひとりと向き合い、思いやる気持ちを持つことが重要です。

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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