中小企業が限られたエントリーから自社に合った人材を採用するには?
2018年2月26日更新
人事・採用担当がつねに頭を悩ませる、いわゆる「3年後離職率」。とくに中小企業にとって、この問題は深刻です。限られたエントリーから、自社に合った人材をどう採用、確保するのか。中小企業の取り組み事例をご紹介します。
3年後離職率、入社3年間の定着率は、採用力で決まる!
新卒で入社した後の3年間の定着率を向上させるためには、採用力を上げていくことが最も大切です。「採用力」とはエントリー者を募る、いわゆる母集団形成で一定の成果を残し、面接や適性、筆記などの試験を通じて自社にとってメリットの高い人材を採用することを意味します。
しかし、中小企業にとって母集団を形成するのは困難です。大企業の多くは、大卒の新卒予定のエントリー者が毎年数千人を超えます。私が取材した中小企業では多くて1500人前後でしたが、ほとんどの中小企業は100~500人です。
今後、少子化が本格化するなかで、エントリー者を増やしていくことはますます難しくなるでしょう。中小企業が力を入れて取り組むべきは、限られたエントリー者の中から、自社に合いそうな人材を確実に採用し、入社後の定着率を高めていくことです。
「うちの会社に合わない」と感じた学生は不採用にする
前述のように、定着率を高めていくための大きなポイントは、採用時に自社の文化や社風に合いそうな人材を選ぶことです。「学力」や「偏差値」ではなく、あくまで「合う」をキーワードにします。
中小企業の場合、財務力などの経営基盤が弱いために、自社に合わない人を何年も雇い続けることは難しいものです。たとえば、上司などと合わないからといって、簡単には配置転換ができません。そこを踏まえて採用する必要があります。
経営理念についてグループ討議をさせる事例
一例を挙げましょう。あるIT企業(社員数60人)は、会社説明会とグループワークを一次選考としています。グループワークではまず、会社の経営理念について思うことを学生各自が自分の経験を通じてシートに書きます。その後、学生5~6人でグループになり、1つの意見にまとめるために話し合い、意見を集約し、面接官である社員に説明します。
ここで注目すべきは、「経営理念」について話し合い、考える機会を学生に与えていることです。この場で面接官が、「うちの会社には合わない」と感じた学生は不採用にすることが多いようです。
懇親会を三次選考にする事例
大企業の採用の泣きどころは、短い期間で大量の管理職などを面接試験に参加させるために、結果として流れ作業になっていく傾向があることです。中小企業の場合は、大企業よりは時間をかけてエントリーした学生と向き合うことが可能です。
たとえば、ある精密機器メーカー(社員数300人)は、採用試験の三次選考を「懇親会」としています。大会議室で、15人ほどの社員(20代後半~40代前半)と学生30人ほどが、7~8グループに分かれて1時間半かけて軽食をします。この場で社員、学生が自己紹介して、会社や学生生活について話し合います。
採用担当部門では、学生と共通する話題がある社員を懇親会に参加させています。社員たちは懇親をしながら、自分の部下として、仲間として受け入れることができる学生を見つけ、人事部に報告をします。この懇親会で高い評価を受けた学生は、内定になるケースが多いようです。
チームワークをテーマにした「選考合宿」の事例
ある中堅の商社(社員数600人)は、4次選考として「選考合宿」を行なっています。この時点で残っている学生は、60人ほど。これを5~6グループにわけ、ある研修施設で1泊2日の合宿をするのです。全員が「ほぼ内定に近い」レベルなのだそうですが、自社に合う人材であるかを念入りに確認するために、長時間に及ぶ試験を行なうのです。
ねらいは、この会社が得意とするチームワークを守ることができる学生を選ぶこと。1日目は施設内の掃除をしたり、夕飯を皆でつくったりします。準備から後片づけまでするのです。さらに社員と学生が「チームワーク」をテーマに懇親します。
2日目は、早朝から全員参加の朝食づくりが始まります。社員は学生たちと様ざまな話を通じて、一緒に仕事をすることができる人材であるかを判断します。
適性検査とインターシップで、精度の高い採用を実現した事例
創業13年のパソコン周辺機器メーカー(社員数250人)の事例をご紹介しましょう。この会社では、三次選考としてWEBの適性検査とインターンシップを重視しています。適性検査は外部の専門会社が制作したもので、約10分で100問を解いて性格を診断します。総務部長は、「導入以前に、250人の社員全員を対象に性格診断を行い、その結果を見たところ、精度は高いと確信をした」と話していて、創業時からこの診断結果を信頼しているようです。
さらに、2日間のインターンシップを行ないます。20代後半~30代前半の社員10人ほどと一緒に仕事やランチをするのです。人事部員は社員たちに評価シートを事前に配り、学生のどこに着眼するかを説明します。評価の大きなポイントは、「当社で5~10年と仕事をすることができるか」「一緒に仕事をしたいか」などです。採否は、適性検査とインターンシップの結果、そして最終面接の結果をふまえ、総合的に判断して決めているそうです。
中小企業の採用基準は、自社に合うか、合わないか
今回、取り上げた3社の事例は、社員数が300人以下の中小企業でも実施可能です。大切なことは、書類選考や面接試験、適性検査、懇親会、インターンシップなどを効果的に組み合わせ、自社に合いそうな人材を採用すること。多くの大企業が依然として「学歴」「学力」「偏差値」をもとに書類選考や面接をしていますが、中小企業は自社に「合うか、合わないか」を大きなポイントにすることがポイントです。そのためには、採用担当の部署だけで採用活動を行なうのではなく、ときには社員たちを面接官として参加させ、「一緒に働きたい学生であるか否か」を基準に判断させることも必要です。
採用力を高めることで、若手の定着率も上がっていきます。ぜひ自社にあった採用方法を見つけていただきたいものです。
吉田典史(よしだ のりふみ)
1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年以降、フリーランスに。特に人事・労務の観点から企業を取材し、記事や本を書く。人事労務の新聞や雑誌に多数、寄稿。著書に『封印された震災死その「真相」』(世界文化社)、『震災死』『あの日、負け組社員になった...』(ダイヤモンド社)、『悶える職場』『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ』(KADOKAWA/中経出版)など。