これからの採用担当者に求められる役割とは
2018年8月14日更新
「超売り手市場」となっている今、企業は優秀な学生の確保に躍起になっています。なかでも中小企業の状況はとても厳しく、あきらめ状態になっている採用担当者も多いと聞きます。そこで今回は、中小企業がどのようにして大苦戦の状況を克服すべきか、採用担当者の気持ちを少しでも楽にする考え方をご紹介します。
中小企業の採用担当は他の業務と兼務のため超激務
採用を担当する方に話をお聞きすると、大企業は比較的順調ですが、中小企業は全く人が採れない状況のようです。リクルートワークス研究所のデータでみると、従業員5000人以上の大企業の有効求人倍率は0.39倍ですが、従業員300人未満の中小企業においては6.45倍というデータがそれを物語っています。
大企業は毎年、定期採用を実施しています。そのために採用に相当の予算をかけて、専任担当者を配置、採用チームを編成し、年間計画を立てて遂行しています。
しかし、中小企業は仕事が忙しくなってきた時や退職者が出た時だけ採用活動をしています。このようなスポット的な採用では、きちんとした取り組みができません。採用予算においても大企業の数分の一程度しかとれません。さらに、専任の採用担当者を置くことができないため、人事や総務など他の仕事を兼務しながら採用活動を行なっているのが実態です。
そういう状況のなかで、人手不足だからと、社長から「今年は思い切って5人採用しよう」といった方針が打ち出されても、就活ナビサイトへの登録やエントリー者へのメール連絡、会社説明会の会場選びや案内状の送付、会場設営、面接の日程管理など、たいへんな労力がかかります。こうした役割を兼任で担当するわけですから、猫の手も借りたいほどの激務になってしまいます。
内定辞退が半数を超えるという現実
内定を出すまでには、書類選考や一次面接、二次面接、幹部面接、社長面接などのプロセスがあります。数百人から数千人の中から選抜されるわけですから、選ばれた学生はそれなりに素晴らしい人材に違いありません。採用担当者にとっても、彼らを見出した喜びは、ことのほか大きいに違いありません。
ところが、多くの中小企業の採用担当者が頭を悩ませていることの一つとして、内定辞退の問題があります。入社してもらうためにいろいろな手を尽くして学生との関係性を深めても、結局大企業を選ばれると今までの努力が台無しになり、中小企業の限界を感じるようです。
優秀な学生の多くは、複数の企業から内定をもらっています。就職情報会社の内定率調査(2017年10月1日時点)で、学生一人あたりの内定社数は2.5社。一人の学生が2社から3社内定をもらうということですから、単純計算でも内定辞退率は6割になります。「この人は」と期待していた学生からの内定辞退で、採用担当者は、婚約破棄と同じような大きなショックを受けるでしょう。
また、想定を超える内定辞退が発生し採用数が確保できない事態になると、追加採用を実施することになります。こうして結局、一年中採用活動を行なうことになり、採用担当は休む暇もなく長時間労働になります。
人数を集めることが、ほんとうに採用担当者の役割なのか
ここで考えなければならないのは、社長に指示された人数を集めることだけが、ほんとうに採用担当者の役割なのでしょうか。
たとえ内定を辞退されなかったとしても、入社して間もない時期に早期退職されてしまったとしたら、会社としての損失はより大きくなります。むしろ「内定の段階で辞退してもらえてお互いによかった」と考えるべきでしょう。そして内定辞退者は必ず出るという前提のもと、単なる人数集めとは異なる成果指標をもっておく必要があるのではないでしょうか。
採用活動において重要なのは、「その人が定年退職するまでに、どれだけの成果を生み出せるのか」という視点です。いわゆる「生涯賃金」は、中小企業でも2億円以上になるといわれます。つまり経営者は、人を1人雇用することによって、2億円以上の投資をするわけです。
この金額をただ回収するだけでは、経営上の損失になります。つまり、たとえ途中退職しても採用した人材が、会社にそれ以上の成果をもたらしてくれなければ、その採用そのものが無駄になってしまうわけです。概算ですが、少なくとも人件費の3倍以上回収できなければ、健全な経営は難しいでしょう。
言い換えれば、採用人数の確保や、1人あたりの採用コストを成果指標としてはいけない、ということです。採用は「2億円の投資」だと考え、その投資に見合う成果を得られる人材を集められるかどうかが、採用担当の方の腕の見せどころと考えるべきです。
年収や生涯賃金以上に「やり甲斐」や「働きやすさ」を伝える
中小企業は大企業に比べてブランドイメージが低いだけでなく、給料も低く、福利厚生や労働環境も悪い場合がほとんどです。中小企業はブラック企業というイメージも拭い去れません。
学生に企業を選ぶ理由を質問してみると、「自分のやりたい仕事ができる」「やり甲斐を持って働ける」「人間関係がよく働きやすい」「仕事を通じて成長できる」ということを強く期待しているようです。
中小企業の採用担当者にとっては、すでに成長した大企業よりも今後の成長が期待できる中小企業の魅力を語り、そして、仕事においては大企業の歯車の一つになるよりも、今は小さい企業だが大きく成長できる期待、若い時期から責任ある仕事を任されるやりがい、家族的な雰囲気で働きやすいことを語ることが必要でしょう。
採用担当にはエース級の人材を投入する
そのように考えると、採用とは「会社の将来を左右する最重要任務」といえます。ですから、採用担当者には、単純に手の空いた社員や人事部門の社員を充てるのではなく、会社説明会や面接に訪れた学生たちに「この人と一緒に働きたい!」と思わせるエース級の人材に任せるべきです。
なにしろ「2億円の投資先」を見出す責任重大な仕事なのです。2億円に見合った人材を厳選し、その人の夢と会社の夢とを重ね合わせて、「私たちと一緒に夢を実現し、ともに成長し、大いに社会に貢献しよう!」と呼びかけることができる力量が必要です。
価値観を共有するという意味では、最終的な「社長面接」も非常に重要です。社長は会社の将来像と、新入社員の活躍イメージを熱く語り、学生に働きやすさややりがいを感じさせて心に火をつけなければなりません。そして、目先の安定や給料を求める人には、むしろ内定辞退してもらったほうがいいと考えます。そうすることで、自社で活躍できる人材を採用する「確度」を高めていくのです。
内定は採用のゴールではなく壮大な物語の始まり
「内定」は採用活動のゴールではありません。会社にとっては、それから定年退職まで働いてもらうと仮定すれば40数年続く投資のスタートです。もちろん経費だけで考えるのではなく、誰もが夢をもって働き、成長し、社会に役立っていくためのステージの幕開けでもあります。会社と働く人の「夢実現の物語」のスタートとして採用を考えれば、目先の人数集めを目的にしてはならないことがわかります。
また、大企業では内定辞退を見越して多めに採用することができますが、中小企業はそう簡単にはいきません。だからこそ、会社説明会や面接、そして内定後の学生たちとの交流や内定者フォローを通して、しっかりと相互理解を深めていくことが重要です。虚飾ではなく、会社の実像を正直に伝えつつ、そのうえで「一緒に夢をかなえていこう」という前向きかつ強い気持ちで採用活動に取り組める人こそ、採用を担当するのにふさわしい人材といえるでしょう。
茅切伸明(かやきり・のぶあき)
株式会社ヒューマンプロデュース・ジャパン 代表取締役。
慶應義塾大学商学部卒業後、(株)三貴入社。 その後、(株)日本エル・シー・エー入社。 平成1年3月 住友銀行グループ 住友ビジネスコンサルテイング(株)(現SMBC コンサルティング(株))入社。セミナー事業部にて、ビジネスセミナーを年間200 以上、企業内研修を50以上担当し、他社のセミナーを年間50以上受講する。 平成18年4月 (株)ヒューマンプロデュース・ジャパンを設立。「本物の教育」「本物の講師」「本物の教育担当者」をプロデュースするという理念を掲げ、現在まで年間500以上、累計8,000以上のセミナー・研修をプロデュースするとともに、セミナー会社・研修会社のコンサルティング、セミナー事業の立ち上げ、企業の教育体系の構築なども手掛ける。
著書に、『実践社員教育推進マニュアル』、通信教育『メンタリングで共に成長する新入社員指導・支援の実践コース』(以上、PHP研究所)、『だれでも一流講師になれる71のルール』(税務経理協会)