内定した学生が抱く不安や疑問を、どう解消する?
2019年7月22日更新
内定辞退を防ぐためには、内定者の不安を取り除き疑問に応えるフォローが欠かせません。では、学生は、入社する企業や組織についてどのような不安を抱くのでしょうか?
学生の不安を取り除く入社内定者教育とは?
有効求人倍率が1.00倍を超えた2014年以降、売り手市場となった就職戦線において、内定者を確実に入社させることが企業の大きな課題となっています。
内定辞退を防ぐためには、一つには、内定を出してから学校を卒業するまでの数カ月間、内定者と定期的にコンタクトを取り、しっかりとフォローし続けることが重要です。そして、学生の負担にならない程度に「予備的な人材教育」を行い、多くの学生が抱きがちな就職への「不安」や「疑問」を解消していくのです。
社会に出る前の学生たちの多くは、アルバイトの経験はあっても、正社員として働いたことは通常ありません。つまり「会社」がどういうところなのかを、まだ正確には知らないといえます。そのため多くの学生の心の中では、漠然とした不安が渦巻いています。
こうした問題について、PHP通信ゼミナール『ようこそ! 学生諸君。』のテキストには、次のように説明されています。
人は得体のしれないものを怖がります。(略)
会社にどんな人がいるのかわからない、どんな部署に配属になるかわからない、勤務する地域がわからない、どんな仕事をするかわからない、上司は? 先輩は? など、並べるといくらでも出てきます。(略)
これらの「得体のしれないもの」があなたを怖がらせるのなら、「得体のしれないもの」を「よくわかるもの」にすれば怖くなくなるわけです。(略)
このような説明を通して、学生の不安を一つひとつ取り除くようにしていけば、学生の側からすると、「自分たちの不安をよく理解し、きちんとケアをしてくれる会社だ」という思いが湧いてきます。学生たちの心情を知り、卒業まで的確にフォローしていくことで信頼を獲得し、内定辞退の防止につなげていきたいものです。
アルバイトと正社員との違い
例えば「アルバイトと正社員との違い」について、同テキストでは次のように説明されています。
まず、第一は「社会的信用」です。(略)就職して「○○会社の△△さん」となって初めて、世間はあなたを認めるという面があるのです。
第二に、会社は、あなたに「いろいろな経験」をさせてくれます。アルバイトとは違い組織の実態を見ることができたり、ビジネスの真の厳しさ、面白さなどを体験したりすることができるのです。(略)アルバイトが"動かされている仕事"なら、就職は"動かす仕事"に一歩近づくことです。
第三に、あなたに「未来への可能性」を与えてくれます。これはアルバイトでは得られない大きな要素です。将来性には、報酬や昇給・昇格というものがあります。また専門能力、管理能力を体得できます。(略)
学生の中には、正社員の仕事内容や立場は、「想像もつかないくらい厳しくて難しいのではないか?」と不安を感じている人もいるでしょう。しかし、このように説明されれば、厳しい中にも、自分が日々成長し、自分自身で未来を築いていくことへの希望が感じられるはずです。また反対に、正社員の仕事をアルバイトの延長くらいに軽く考えている学生にとっては、仕事の奥深さを知らせることにもつながります。
「組織」は人を活かし成長させてくれるもの
若い人たちの中には、会社に対して、「会社とは組織の論理によって動くものであり、社員など取り替えの利く歯車の一つに過ぎず、上司の命令には絶対服従しなければならない」といった悪いイメージを持っている場合があります。内定者教育においては、こうした誤解も解いておかなければいけないでしょう。再び同テキストから引用します。
もともと組織は、人が個々バラバラではできないことをするためにつくるものです。だから個々バラバラでやるよりはるかに大きな成果を効率よく達成できるのです。(略)
組織に対する偏ったイメージから「まず組織ありき」と考えがちですが、「まずあなたありき」なのです。「組織が主であなたが従」ではありません。一生懸命、頑張ろうとする若いあなたを、できる限りバックアップしてくれるのが組織です。(略)
上下の関係を冷たいものと理解すると、一番下として会社に入るあなたは、押しつぶされそうな不安を感じると思います。しかし、上下関係は単に「命令に従う」という関係ではありません。組織では、「こんなことをやってはどうか」など、いろいろな意見や提案が下からも出ないと、より良い活動ができなくなります。(略)
本質的には、部下の活躍によって上司は支えられ、上司の承認、命令、援助などによって、部下の能力がより生かされるのです。
こうしたことは、すでに社会人として経験を積んできた人たちにとっては常識に近いものです。しかし、まだ社会に出る前の学生にとっては「大きな不安要因」になっています。このような「意識の差」を、内定者教育で埋めていくことによって、学生たちとの相互理解が進むのではないでしょうか。
学生に伝えたい企業の活動目的
もう一つ、ぜひ学生に伝えたいこととして、企業の活動目的とは次のようなものであると説明されています。
では、企業は儲けることだけが目的でしょうか。利益は企業にとって絶対に必要ですが、それだけが最終目的ではありません。企業は商品やサービスを通して、社会に豊かさや幸福を提供したいと願っています。(略)もし、自分たちの利益だけのために活動する会社なら、いずれ社会から受け入れられなくなってしまいます。
学生たちの中には、その純粋さゆえに、企業が利潤を追求することに疑問を感じている人もいます。しかしそうではなく、社会に幸福をもたらし、その対価として適正な利益を得ることが企業の本懐であるとわかれば、自分が企業で働くことを前向きにとらえられるようになるはずです。
※本記事はPHP通信ゼミナール『ようこそ!学生諸君。』をもとに制作しました。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。</p>
入社前の不安を解消し、心新たに社会人としてのスタートを切ってもらうために、内定者に考えて欲しいこと・身につけて欲しいことを、身近な視点で紹介しています。毎年1000社以上で活用されている好評コースの改訂版として、テキストにイラストやマンガをとりいれ、わかりやすく解説しました。