「適性が無いかもしれない」という入社内定者の不安に人事としてどう応える?
2019年7月29日更新
仕事への「適性」で悩む入社内定者の不安に、人事採用担当者としてどう応えますか? 学生から社会人へと意識を切り替えて、前向きな気持ちで入社式に臨んでもらうために、押さえておきたいポイントをご紹介します。
仕事への「適性」で悩む内定者
学生は、内定をもらうまでは企業に採用されることに意識が集中し、モチベーションが上がっています。しかし、いったん内定を得て安心すると、「この会社でいいのか?」と冷静な目で他社と比較するようになるものです。「もしかすると自分は内定先の仕事に向いていないのではないか」と悩む人も多く、さらに複数の内定をもらっていると、「勤務地や条件、採用担当の人の印象はよかったけれども、仕事の内容が他の会社のほうが自分には向いているかもしれない」というような迷いが生じることもあるでしょう。
そうした学生に対して、入社内定者向け通信教育『ようこそ! 学生諸君』には、次のようなアドバイスが記されています。
適性の有る無しは、先天的な能力だけで決めるものではありません。もう一つの、訓練や学習によって遂行できるようになった適性が大切です。(略)
これは、就職活動であなたが直面した職業選択でもまったく同じことです。先天的な能力だけで適性を判断して職業を決めることは、現実には不可能です。(略)
あなたは、これから組織の一員になり、学習と訓練によって新たな可能性を見つけ、適性をつくりあげていくのです。だから先天的な能力にとらわれるのではなく、学習や訓練によって適性を発見し、つくりあげる喜びを大切にしてください。それこそが仕事をすることの楽しさであり、働く人の幸せの大きな部分なのです。
人事採用担当者としては、内定期間にこうした話をして、「自分に向いているかどうかわからない内定先の仕事」への不安を少しでも解消してもらうことが大切です。不安が小さくなることで、向いているかどうかよりも、「入社してから多くのことを学ぼう」という前向きな気持ちが出てくるのではないでしょうか。
ゲスト意識からホスト意識への転換
「売り手市場」が続き、複数の企業から内定をもらうことが多くなり、それぞれの企業から「なんとしてもウチに入社してほしい」といった扱いを受けることで、学生の意識がよくない方向に向かってしまうことがあります。
具体的には、「自分は企業から『三顧の礼』で迎え入れられるお客様のようなものだ」という「ゲスト意識」を持つ危険性があるのです。
しかし会社に就職して働くということは、「お客様を持つ身」になることでもあります。言い換えれば、「(内定先を選ぶ)ゲスト側」から「(お客様をもてなす)ホスト側」へと、立場が大きく変わるわけです。入社後もゲストのつもりで会社に甘えるのではなく、しっかりとした「ホスト意識」を身につけてもらわなければなりません。
もちろん仕事の中では自分が取引先のゲストになるケースもありますが、それは業務の一部に過ぎないはずです。入社式を境に、皆さんは「ホスト側」になって働くのだという意識づけを、内定者教育の中で行っておくべきでしょう。
社会人の「規則正しい生活」に慣れる
そのほか、学生が社会人になってから戸惑い、慣れるのに時間がかかると思われるのが、「規則正しい生活」です。例えば大学生の場合、授業の選び方によって登校時間はバラバラで、その間にアルバイトが入ったり、さまざまな活動をしたりする中で、生活のリズムが乱れていることが多いものです。夜更かしが習慣になって、朝早く起きるのが苦手になっていたり、実家を離れている人は朝食を毎日摂っていなかったり、あるいは三食きちんと食べていない学生もいます。
しかし、会社に勤めて、毎日一定以上の水準でパフォーマンスを発揮していくためには、体調や頭の回転を維持する必要があり、そのためには、ある程度規則正しい生活を身につけることが必須になります。フレックスタイム制やテレワークが普及してきたといっても、まだまだ定時に出社する会社が多いでしょう。内定者教育で「規則正しい生活」に慣れておくよう指導し、身も心もシャキッとした状態で出社できるように、学生に意識づけておくことが大切です。
「努力は報われる」ことを内定者に伝える
内定者にもいろいろなタイプの人がいます。常に第一志望の学校に合格し、それなりに努力が報われてきた人もいれば、高校や大学時代に挫折を経験し、努力が報われなかった人もいるでしょう。しかし、社会人として成長し、やりがいや幸せを感じながら前向きに生きていくためには、やはり努力は必要です。努力の大切さを伝えるために、先にご紹介した通信ゼミナールでは次のように書かれています。
努力すれば必ず成果が出るとは限りません。あなた自身も、頑張ったが残念ながらうまくいなかった、という経験をしたことがあるのではないでしょうか。しかし、ほんとうに努力したならば、たとえ結果はうまくいかなくても、努力したことがあなたの中に蓄積され、別の機会におおいに力になることは、理解できると思います。
今までに努力した一つひとつのことが、今のあなたの人格形成にどのように役立っているかはわかりません。しかし、結果は別として、真剣に取り組み、努力したことが今のあなたをより良くつくりあげていることは間違いないのです。
どんな形であれ、努力したことは必ず何らかの役に立つ、いつか報われるんだという意識づけを内定者に行いましょう。そうした気持ちで入社してもらえれば、目の前に現れる壁を、一つひとつ乗り越える努力をしてくれるはずです。
※本記事はPHP通信ゼミナール『ようこそ!学生諸君。』をもとに制作しました。
ようこそ!学生諸君。
入社前の不安を解消し、心新たに社会人としてのスタートを切ってもらうために、内定者に考えて欲しいこと・身につけて欲しいことを、身近な視点で紹介しています。毎年1000社以上で活用されている好評コースの改訂版として、テキストにイラストやマンガをとりいれ、わかりやすく解説しました。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。