採用・育成の進化で「強い日本」を~萬田弘樹
2020年9月28日更新
パナソニックは、リンクアンドモチベーションの樫原洋平氏とのコラボレーションを契機として、採用・育成の仕組みを再構築し、近年大きな成果を出しつつあります。自社だけでなく日本の未来を見据えた採用・育成事業を推進する同社の萬田弘樹氏にお話をうかがいました。
学生が企業と乖離し十分に成長できていない
私はシンガポールなど海外勤務が長かったのですが、日本に戻ってきて、企業と学生との関係がほとんど隔絶していたことに危機感を覚えました。 例えばシンガポールの事業所では、インターンの学生が常に近くにいて、学生とベテラン社員が親しく会話できる環境にありました。学生の「なぜ?」に私たち社会人が答えることで、彼らはコミュニケーションを学び、論理形成ができるようになっていきます。 ところが日本の多くの企業にはこうした環境がなく、「学生と社会人との接点」がないことが原因で、学生が十分に成長できていないと感じたのです。その意味で日本の学生たちがかわいそうだなと思いました。
今からベテラン社員の定年退職に備える
もう一つ危機を感じたのは、これからパナソニックの社員数が大幅に減っていくことです。労務構成を考えれば他の日系大手企業も同様かと思いますが、従来通り、毎年、新卒採用とキャリア採用を続けたとしても、2015年から2030年にかけて、場合によっては3割から4割減少します。人数の多い年齢層が、これからごっそり定年退職していくためです。事業を支えてきたベテランがいなくなるということであり、採用や育成を根本的に見直さなければならないと思いました。
タレントマネジメントへの取り組みが不可欠
リンクアンドモチベーションの樫原洋平氏に協力をいただいて、内定者に向けたコラボセミナーを行った際、当社の採用状況について樫原氏から厳しい意見を頂戴したことも、採用担当として危機感を強めた要因となっています。 社員数が減っていく環境で会社を発展させていくには、当社で活躍いただける期待値の高いタレントを採用して育てる「タレントマネジメント」が不可欠です。タレントといってもさまざまなタイプがありますが、私は基本的に「人間性」と「(心の)熱量」を重視しています。例えば「〇〇がやりたいんです!」といってぐいぐい主張してくるような、心に何か熱いものを持っている学生にぜひ仲間になってほしいからです。
採用のプロフェッショナル集団をつくった
タレントマネジメントを実行していくために、採用担当の私がまず行ったのは組織の改革でした。それまで採用の仕事は、人事部のプロパー社員がローテーションで担当していました。これを根本的に改め、「採用のプロフェッショナル集団」につくり変えたのです。 具体的にはパナソニックの子会社の人材ビジネス会社や、規模業界の異なる企業から多様性のあるメンバーを集めました。またパナソニックの他の職種からも志が高い人に来てもらいました。もちろんプロパー社員もいます。さまざまな得意分野を持つスペシャリストがそろったことで、採用に関してたくさんの挑戦ができるようになり、かつ、全体の人数は2割ほど減らすことができました。つまり採用部門のコスト(人件費)を下げながら、パフォーマンスを大幅に向上させたということです。
産官学が連携して学生を育てる
採用のプロセスについても根本的に見直し、再構築しました。具体的には次のサイクルで人財の採用力を強化しています。
「認知」⇨「共感」⇨「発掘」⇨「誘引」⇨「採用」⇨「配置」⇨「育成」
このサイクルのうち「認知」から「採用」までが学生に対する働きかけで、「配置」から「育成」までが入社後の対応ということになります。まず学生との交流の場をつくり、パナソニックという会社を認知してもらったうえで、ふれあいを通して当社のフィロソフィーや経営理念に共感してもらうところから始まります。そして共感してもらった学生の中から人財を発掘し、育てつつ、当社に入社したいと思ってもらえるように取り組むわけです。
具体的には、同志社大学にご協力いただいて、2019年から「産学連携合宿」を開催しています。パナソニック以外の複数の企業にも参加していただき、合宿を通じて産学共同で学生を育てていく「新しい仕組み」です。2020年には京都府庁の方にもご参加いただき、参加企業数も増え、産官学のより強固な連携が実現しました。この取り組みは今後さらに発展させていくつもりです。
入社後3年間のフォローで人財育成を強化
採用後3年間は社員の「品質保証期間」と位置づけて、われわれ採用担当が育成担当と協力しながらフォローする体制をつくりました。具体的には、まず定期的にアンケートを実施し、変化に気付き、必要であれば面談を行うようにしています。それ以外にも何か気になることが起きたときには連絡を入れてもらい、採用担当が対応します。また退職者が出たときも、丁寧に面談を行い、そこで得た情報をフィードバックすることにしました。中途採用のキャリア入社者のフォローもしっかり行うようになったことで、キャリア入社者の離職率は従来の半分くらいに下がっています。
このように、樫原氏がいわれる大学4年間と就職後3年間とを合わせた「ゴールデンセブン」の期間を通して、人財を採用・育成する形ができあがりました。
採用・育成ノウハウを他社と共有し、強い日本をつくる
企業の枠組みを超えた活動として、「合同研修会」という新しい挑戦も始まっています。これはパナソニックを含む複数の企業が合同でセミナーを実施し、参加企業の若手採用担当者を育成していくという画期的な取り組みです。そもそも日本は資源が乏しい国であり、厳しい国際競争の時代で生き残るためには、「人財」で勝っていくしかありません。複数の企業が協力して「世界で戦える日本人」を採用・育成できる仕組みを共有し、運用できる担当者を育てていくことで、日本全体が強くなるはずです。今後も各企業が優れたタレント、樫原氏のいう「エッジソン」を発掘し育てていくために、常に仕組みをアップデートしながら、採用事業を通した企業同士のつながりを広げていくことが重要だと考えています。
※本記事は、2020年8月20日開催オンラインイベント「パナソニックの採用責任者と語る次世代のタレントマネジメント」での萬田弘樹氏の講演をもとに作成しました。
参考:『エッジソン・マネジメント』(樫原洋平著・PHP研究所刊)
PHP研究所では、採用した人材の定着と早期戦力化に向けた内定者フォローのための教育をご提案しています。
萬田弘樹(まんだ・ひろき)
パナソニック株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター所⻑
1992 年、同志社大学を卒業して松下電器産業(現パナソニック)に入社。海外勤務を強く希望し、入社直後にシンガポール赴任。その後キャリア採用部門を立ち上げ、社内ベンチャーとして採用コンサルティング会社の設立し、経営に携わる。以来、グループの人財ビジネス会社の役員や海外企業の人事責任者を経て、本社採用部部⻑に就任。現在、リクルート&キャリアクリエイトセンター所⻑として、新卒採用、キャリア採用、セカンドキャリア支援を統括。